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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

クリスマスの季節に思い出す、ホームズ「青い紅玉」事件と、偏屈店主から情報を聞き出す名場面(…あと、名作の食べ物場面がなぜか記憶に残る話)

この季節になると思い出す短編が、シャーロック・ホームズ「ブルー・カーバンクル」(「青いガーネット」「青い紅玉」とも訳す。この訳についてもいろんな話が出来るのだがカット)

なぜ印象に残っているかというと、「食べ物」がホームズ物としては比較的登場する回だからだね。
年をとってだいぶ衰えたが、自分は特殊能力が以前はあって、小説やノンフィクション、漫画で、「食べ物を食べるシーン」についての記憶力が異常によく、掌を差すようにその場面を指摘できていたのだった(笑)。――、まあ読んだ本の絶対数にも関係があって、子供の頃と今ではその絶対数が違うのだが。
でもそういうわけで、ドリトル先生、プーさん、三銃士、路傍の石……もろもろの食べる場面を覚えている中で、このホームズの一編を思い出すなり。

そしてネット文化の普及により、いまやホームズ物は無料で日本語訳が全編ネット上にて読める。
(ついでに「勇将ジェラール」も翻訳してくれないかねえ…いや贅沢いうな)

http://www.221b.jp/

から、今回の一編を。ちなみにホームズ譚でネタバレとか言い出すやつはいないだろうな。配慮はするが、とりあえず時には無視するぞ。
この音楽でも流しつつ…

 

青い紅玉
http://www.221b.jp/h/blue.html
クリスマスから二日目の朝、私は時候の挨拶をしようと思い、友人のシャーロックホームズ宅を訪問した。彼は紫のガウンを着てソファの上でくつろいでいた。右手の届く場所にパイプ掛けがあり、近くにはついさっきまで読んでいたらしい朝刊がしわくちゃになって積み上げられていた。長椅子の隣に木製椅子が置いてあり、背もたれの角には、やけに薄汚れてボロボロの固いフェルト製帽子が掛かっていた。帽子は非常に擦り切れて、あちこちひび割れが入っていた。椅子の座面に拡大鏡とピンセットが置いてあったので、帽子は調査のために椅子に掛けられていたことが分かった。

illustration
「とりこみ中か」私は言った。「もしかしたら邪魔したかな」

「とんでもない。調査結果を話し合える友人は大歓迎だ。本当に大したものではないが」ホームズは古い帽子を親指で指差した。「しかしこいつには、いくつか興味深い点もあるし、勉強になる点も全くないわけでもない」

このあとの「帽子のサイズと知能」談議は、時代の限界として目をつぶれ(笑)

ま、さらにその後のストーリーは周知のあれ(あるいはいま、直接読んでくれ)だが、ただ「石などを飲み込める鳥の習性を利用した隠し場所トリック」の嚆矢ではありました。胃袋から、貴重な宝石が出てきたと。


直接的な描写はないが、ガチョウをまるごと一羽料理して食べた、食べないみたいな話が続くので、とてもおいしそうであります(笑)。
ちなみにホームズとワトソンは「ヤマシギ」一羽を夕食にする予定だった。うまいのでしょうか。

「そうだ、これは僕が預かろう。ありがとう。それから、ピーターソン、帰りにガチョウを一羽買って、ここに持って来てくれ。君の家族が今かじりついているやつの換わりに、この紳士に渡す分が必要だからな」

(略)
「この入り組んだ事件の解決を見てみたいから、君が広告に書いた時間には戻ってくるつもりだ」

「そうしてもらえればありがたい。7時には夕食をとる。ヤマシギが丸一羽出ると思うよ。ところで、最近の事件から考えて、多分ハドソン夫人に餌嚢を調べてもらうように頼まないといけないな」


落ちていたガチョウ(宝石入り)の、直接の持ち主は無関係のようだった。
では、そのガチョウの流通経路をたどっていかねばならない…ヤマシギはあとまわし。

そして、本日紹介したいところを長めに紹介する。ガチョウの卸売り屋にて…

「はっきり言っているが。アルファに君が売ったガチョウ君にを売ったのは誰か知りたいんだ」

「そうか、それじゃ、絶対に言わねえ。帰れ!」

「ああ、そんなに重要なことじゃない、しかしなぜこんな詰まらんことでそんなに熱くなる必要があるんだ」

「熱いだと!多分、お前だって熱くもなるさ。もしお前が俺と同じくらいうるさく付きまとわれたらな。俺がいい品物をいい値で買う、それで仕事は終わりじゃないか。それが、あのガチョウはどこだ、あのガチョウを誰に売った、いくらでそのガチョウを売るつもりだ。あれに関する大騒ぎを聞けば、あのガチョウが世界で最後の一匹だと思うだろうな」

「そうか、他に誰か詮索している人間がいたとしても、それは僕とは関係ない奴だね」ホームズはぞんざいに言った。「もし君が話さないと言うなら賭けは終わりだ、それだけだ。しかし僕は鳥のことなら、いつでも喜んで賭けをする人間でね。僕は自分が食べた鳥が田舎育ちだという方に五ポンド賭けたんだ

「そうかそれじゃ、お前は五ポンドすったな。あれは町育ちだ」店員は鋭く言った。

そんなことはない

「そうだと言っているんだ」

「信じられん」

「子供の頃からずっと鳥を扱っている俺より鳥に詳しいと思っているのか。いいか、アルファに行った鳥は全部町育ちだ」

「そんなことでは信じられんな」

それじゃ賭けるか?

自分が正しいと分かっているから、単に君から金を巻き上げるだけだがね。しかし偏屈になるべきじゃないという勉強代に一ソブリン賭けよう

店員は不気味ににやりと笑った。「帳簿を持ってこい、ビル」彼は言った。

少年は小さな薄い冊子と背表紙が物凄く脂ぎった物体を持ってきて、吊るされたランプの下に並べた。

「さあ、それじゃ、ミスター自惚れ」店員は言った。「俺はガチョウは品切れと思ったが、しかし俺が店じまいする前に、うちの店にまだ一羽いたと分かるだろうな。この小さな帳簿が分かるか?」

「ああ?」

「俺が誰から仕入れたかという一覧だ。分かるか?それじゃ、このページにあるのが田舎の連中だ、そして名前の後ろにあるのが、大きな元帳の勘定だ。では、この別のページに赤インクで書いてあるのを見ろ、これは町の供給者の一覧だ。三番目の名前を見ろ。ちょっと俺に読んでみてくれるか」

illustration
「オークショット夫人,ブリクストンロード 117 - 249」ホームズは読み上げた。

「その通り。じゃその元帳を引いてみろ」

ホームズは指示にあるページをめくった。「これだ、オークショット夫人、ブリクストンロード 117 卵と鳥の供給者」

「それじゃ最後の記録はどうなっている?」

「12月22日。24羽のガチョウ 七ペンス六シリング」

「そのとおり。そこだ。下になんて書いてある?」

「アルファのウィンディゲート氏に販売 12シリング」

「何か言うことがあるか?」

ホームズは物凄く悔しそうな顔をした。彼はソブリン金貨をポケットから取り出して、台に投げ捨てて、口も聞きたくないほど腹立たしいという様子で背を向けた。何ヤードか離れてホームズは街灯の下に立ち止まり、彼独特の、心の底からおかしそうな雰囲気で声を殺して笑った。

ああいう風に頬髯をカットしている男で、『ピンク・アン』(※引用者註、大衆紙の名前=競馬情報などが多いらしい)がポケットから飛び出しているのを見たら、賭けを持ちかければ必ず引っかかる」ホームズは言った。「あえて言うが、もし奴の前に100ポンド積んでいたとしても、賭けを持ちかけるというアイデアで僕が彼から引き出したほど完璧な情報は入手できなかっただろう(後略)」


探偵のやり口というのもさまざまなもので、現場に残された遺留品を虫眼鏡で見て証拠を推理するのもあれば、こうやって関係者、容疑者に直接、いろいろな話をきくこともある。それもストレートに尋ねるものもあれば、このように「カマをかける」場合もある。
元祖ということもないが、まあやはり近代推理小説では、いちばんクラシックな部類に属するホームズ。こういう形で、ひっかけ風に尋問して証拠を聞き出す…というのも、いろんな形で影響を与えたんじゃないでしょうか。


ホームズシリーズは1887年に始まった。
そのひと世代前、1862年にフランスで「レ・ミゼラブル」が発表されており、ここで一種の印象的悪役であった「ジャベール警部」も、その後の警察官像、探偵像に影響を与えているという……ジャベールも「カマかけ」は確かに多かったような気がするな。


あと、自分は「ギャンブラー」のイメージもなんとなくこれに影響されていて、「掛けを持ち出せば、普通に頼んだらやってくれないこともやってくれる」という感じがある。「このトイレを30分以内で掃除できないほうに賭けるね」「その賭け乗った!ゴシゴシゴシ…」一度やってみたいと思っているのだが(笑)。



ちなみにホームズは、この店に行く前にまずパブへ行ってビールを飲んでいる。

ホームズは酒場の扉を押し開き、赤ら顔の白いエプロンをつけた主人にビールを二杯注文した。
「お宅のガチョウと同じくらいだったらビールもさぞ上手いだろう」ホームズは言った。
「ガチョウですか!」男は驚いた様子だった。
「そうだ。僕はつい30分前にヘンリー・ベーカーさんと話をしていたんだ。彼はこちらのガチョウクラブの会員だったね」

ところが、このビールは黒ビールとのハーフ&ハーフで、その影響で自分はハーフ&ハーフを飲むようになった…と公言していたのだが、この翻訳ではそう書いていないのね(笑)。原文はどうなんだろう?それとも別のホームズ譚にハーフ&ハーフが出てきたのか?
自分的に重大な謎として残った。




そして、事件が解決後に、ふたりはとりおいていたヤマシギを食べるのでした。
そのときの台詞がイキだ。

そこのベルを鳴らしてハドソン夫人に夕食を持ってくるように頼んでくれ、ワトソン。そろそろ、別の調査にとりかかろう。こっちも、鳥が主役になるな」

だからこの調査は実質、まさに「朝飯前」ならぬ「夕飯前」のスピード解決。
「事件は今日中に解決します。そして明日には忘れます」をキャッチフレーズにした新米探偵がのしているようだが、まだまだひよっこぞ。




「ホームズの物語なんて、みんなすべて知っていて、言うまでもない。語るまでもない」という前提を自分は持っていたのだが、これは単なる思い込みだったのね(笑)。
そして抜群の知名度や人気を誇っていても、ファンは「再生産」されないと離れていく。
それはこの前の「寅さん」考察のさいに痛感した。

若者の「寅さん離れ」…当然ではあろう。なら「教養」として(例えば学校で)教えるべきか?というか教養って何? - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20151207/p2

そんなわけで、今回はクリスマスシーズンに、極私的に印象に残っているシャーロック・ホームズの一編を紹介しました。