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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

映画「日本のいちばん長い日」を見てきました

もうすこしあとにしたかったのだが、そんなことを言っていたら間もなく公開終了となるので、無理に時間を作って鑑賞した。


・まず簡単すぎる感想ですが、面白かったです。見る価値はあると思いました。
 
・最初の御文庫のシーン…だったかな?皇居内の地下要塞のシーンだが、蛍光灯はこの時代にすでに実用化されていたんだなあ、と。蛍光灯の歴史は
wikipedia:蛍光灯の通り。
 
山崎努は77歳の鈴木貫太郎役だからそういうメイクや演技をして当然なのだけれども、それでもあの精力的な脱税王(マルサの女)や豊臣秀吉(利休)を演じた人も、当然ながら老いたなあ…と思わざるを得なかった。氏の元気に演じる姿を見られるのも、あと何作、何年だろう…と、少々寂しくなった。 
 
東條英機はなんだかんだとお上の意思に服するタイプだったという話を聞いていたから「広義の忠義、狭義の忠義」論とか和平工作反対論が具体的な映像となると、そのへんとの整合性が気になったが、これもウィキペディアを見ると
wikipedia:東條英機
その場面かはともかく、たしかに言ってたり、そういう意見の持ち主だったりしている。ではなぜそういう印象かというと、そう言っておきながら最後の場面では「お上のご決定には従え」という態度をとる…矛盾を意識したのかしてないのか、そういうポジションだったのだそうだ。
普段の意見を聞いていた側こそいい面の皮で

だが、御前会議の天皇終戦の聖断が下ると、直後に開かれた重臣会議において、「ご聖断がありたる以上、やむをえないと思います」としつつ「国体護持を可能にするには武装解除をしてはなりません」と上奏している。御前会議の結果を知った軍務課の中堅将校らが、東條にクーデター同意を期待して尋ねてくると、東條の答えは「絶対に陛下のご命令にそむいてはならぬ」であった。さらに東條は近衛師団司令部に赴き娘婿の古賀秀正少佐に「軍人はいかなることがあっても陛下のご命令どおり動くべきだぞ」と念押ししている。だが、古賀は宮城事件に参加し、東條と別れてから10時間後に自決している

ウィキペには、昭和天皇個人の信任は厚かった、という項目もある。
このシーン…かつては下克上的なことを言っておきながら、最後は昭和天皇に服するという場面を、終戦反対クーデターの場面で、肯定的であれ否定的であれ場面として映画も描いてほしかったと思う。
 
・阿南陸相の「マイホームパパ」ぶりが描かれていたが、これは外形的には主戦派であり、悪役ともなり得る阿南に感情移入をさせようという演出の面も当然あるだろう。けど結局高級将校あたりになると、なんか彼だけでなく、けっこう子供に甘いという印象がある。スパルタで厳格で口も聞けない、という感じの人は、案外いなかったような(とはいえ、阿南の長男は激戦地に赴き戦死する)……娘の結婚式にこだわり、空襲でも場所を変えてその結婚式が行われたことを天皇が喜ぶと、それにまた感激するような人だった。
 
・この映画は場所的に、ほとんどが皇居周辺で話が進む「丸の内ものがたり」でもある。だから、当方はさっぱりわからんが、あの周辺の位置関係がわかると、もっと面白いのではないか。陸軍省海軍省は、いまや存在しないが……。
ブルーレイなどが出るとき、特典として、映像に合わせて地図が出てきて、「Aはここから、ここへ行った」というのが分かるといい。
 
・あまりに距離的に近いから「いったん陸軍省に戻り、参謀たちに報告してきます」とか「もう一回閣議を開きます」とか「懇談会から閣議に変わります」みたいな、組織同士の意思統一や、同じ人間が出ているのに会議の性質や権限におっていろいろ変わるところが、組織論としての面白さ(逆に言えばややこしさ、ナンセンスさ)をかもし出している。
そして、近いとはいえ、行ったり来たり、そこで部下をなだめたり突き上げをくらったりした後に戻ったりする。
逆に、襲撃ぶくみで襲おうとしたら「ご不在です、自宅に戻られました」なパターンもある。電話も呼び出し型の旧式システムながら一応はあるのだが、その種の「すれ違い」や「たまたま遭えた」も歴史を動かす。
 
・クーデターというのは厳密な規則やルールがあるわけではないので(当たり前だ)、かなりの部分が「アドリブ」に支配される。決起に賛同を求められ、そこで応じるか拒否するか。封鎖されつつある施設から脱出できるかできないか。
そこを個々の機転が問われる、アドベンチャーゲーム的な面白さもある。「あそこは封鎖されているぞ」「『行く』じゃなく『戻る』と言ってみましょうか?」とか「決起にご協力ください」「…明治神宮に行くか?そこで心を清らかにして決断するんじゃ」などなど。 
 
・そういうクーデターのアドリブ・機転力勝負的なことを描く映画として、韓国の朴正煕大統領暗殺を描いた「大統領有故」があります。
あれー、感想をちょっと長めに書いた記憶があったんだが、ここじゃなかったのかな。これは「そういう映画があります」という情報だけだ…

朴正煕大統領暗殺を描く映画 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080113/p8


・劇中で紹介された3句
「止まり弾…(鉛弾、か)」
「誠なれ…」
「言い残すべき…」

は、いずれも記録する価値がある(笑)。あとで計画しているプランに加えよう


まもなく公開終了、鑑賞予定者はおはやめに。

鈴木貫太郎も少なからぬ弾丸を受け、瀕死の重傷を負ったが、そのいずれもが急所をそれ、すんでのところで輸血が功を奏し、一命をとりとめる。弾丸の一発は睾丸のそばで止まっており、陰嚢は出血でボール大に膨れ上がっていたという。この時、この様子を見た主治医は、こんなざれ歌を即興で作っている。「鉛玉、金の弾をば飛ばしかね」。まったく鈴木貫太郎という偉人は強運の持ち主である。

聖断 昭和天皇と鈴木貫太郎 (PHP文庫)

聖断 昭和天皇と鈴木貫太郎 (PHP文庫)