INVISIBLE Dojo. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

はてなで話題の「近親相姦問題」、過去記事紹介。/そして再論「ぶっちゃけ同性婚問題とパラレル」。

えーと、これが火付け役か。

そもそもどうして近親相姦は「よくないこと」なの? http://anond.hatelabo.jp/20140626225706

これへのブクマは約300もついている。
http://b.hatena.ne.jp/entry/anond.hatelabo.jp/20140626225706


それへのアンサー・エントリーもいくつかホットエントリに入った。

近親相姦は、遺伝リスクで言ったら 一世代だと高齢出産の方が高いくらい... http://anond.hatelabo.jp/20140627073834

近親相姦はタブーということにしておかないと、性に目覚め始めたころの http://anond.hatelabo.jp/20140626230535

この議論がネット上で話題となったのは、たぶん東京都条例の適用があったことも関係しているのだろう。

近親相姦の「不当な賛美」って何? 「不健全」漫画指定 - 朝日新聞デジタル http://t.asahi.com/f42a


さて、旗本退屈男よろしく、騒ぎが面白くなったところで出かけることにしようかい。

というのはこの議論のブームが来るずっと前から、このネタでの議論をしてましたもんですから。当時はこの話をしても、ぜんぜん広がらなかったけど(笑)

つうのはね、法哲学っていうのかな、それともマイケル・サンデル的な「正義論」というのかな。その立場から見ると、もう一段おもしろいんす。

では過去ログをば。番号をふっておこう

(1)■これをどう近代の法理論(他者危害原則)で裁けるのか http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080410#p3
 
(2)■法哲学的にどう「近親相姦」を否とできるかの理路が分からん。つーか訴えたら違憲判決出たりして http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100428/p5
 
(3)■憲法記念日特集で、リレー形式のシミュレーション小説を書こう。この結末は?? http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120503/p5
  
(4)■カソリック枢機卿のこの問いに、何と答える?&宮台真司はこう考える(同性婚問題) http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20121124/p3

この四部作で、言いたいことはほぼ語っているです。ハカイダー4人衆のように、それぞれが補いあっているような気がする。

んで、今回最初にリンクした増田記事+それへのはてブの感想も兼ねていうとですね…タイトルがちょっとダブルミーニングというか、

【そもそもどうして近親相姦は「よくないこと」なの? 】
という問いが「その由来や旧来の意義付けを説明してちょうだい」というものなら、それへの回答として、遺伝子の問題、障害を持つ子どもの可能性上昇の説明、レヴィ・ストロース的な文化人類学的説明…すべてOK。それはどれも納得がいったり、一応説明がつく。
 

しかし、あの問いが「近代的人権の立場から考えて、近親相姦を「よくないこと」とするのは差別なんじゃないですか?」という問いだとしたら…一転して、はてブ300の回答の中で、その問いに答えたものはないっ。…と断言しちゃおう。

このへんについては、対話形式、シミュレーション小説形式で書いた拙ブログの(3)が一番対応してるので、そこから引用してみます。

(前略)……若い男女がいた。男がいう。
「僕たちの結婚を邪魔するやつがいるんです!そいつを訴えて、どうにかして、結婚を認めてもらおうと思って・・・」
 
「なるほど(略)…ではそいつを訴えてやりましょう。どこのどいつです?」
 
「国です。日本国です」女性が答える。
「へ? くに??」と弁護士。
「僕たちがきょうだいだからといって、結婚を国がみとめないんです!」と2人は口をそろえた。
(略) 
弁護士はずっこけかけたが、かろうじて姿勢を維持した。「それは法律上の規定があってですね・・・
その法律が、憲法違反なんじゃないですか?? わたしたちは両方とも成人です。自由で独立した意思に基づいて結婚相手を選択した。その選択が、だれに迷惑をかけるんですか?」冷静に、しかし真剣に話す。
 
「うーん、他者危害、ほかの人権を侵害しない以外は自由だという原則か…」
弁護士は、それでも食い下がる。
「しかし科学的に、近親によって生まれる子供が遺伝上の問題を持つ確率が・・・」
 
「ひとつ、それは確率の問題に過ぎません。ふたつ、子供を持つ持たないは私たちの選択です。みっつ、障害のある子が必ず不幸だと決め付けてはいけません」
指をたてながら反論を列挙した。

このきょうだい(小説上の架空の人物だが)に再反論したい(できる)ひと、いるならどぞ。
ま、日本ではそもそも、制度として近親の結婚ができないだけで、性的な関係を近親が結ぶこと自体を禁じる法律も罰則も無い。すると東京都条例だけが、さらに浮く感じあるのだが…。


ただし「人権」ではなく「伝統」も有効にするルールなら、がらっと戦況は変わる

同じ相手同士の試合でも、拳を使うボクシングと、拳だけでなく蹴りも有効とするキックボクシングでは試合結果もがらりと変わる。K-1に上がったボクシング王者、あるいはその逆を見よ。

それと同じように…上の架空のきょうだいの論法も「人の行動を制限できるのは他者の人権を侵害する恐れのある場合であり、それ以外は禁じてはいけない」というルールを仮に設定したときは、非常に難攻不落、無敵の存在だ。
ただ「法律は民族、社会の伝統や慣習にも基づく」というルールなら…こりゃいきなり新弟子以下のもろさ、ワンパンチでノックアウトだ。
「そういう伝統だから。はい論破」
これでいい。実際にそうだしね。いとこ婚を日本はみとめ、外国ではみとめないところもあるのも、そういう伝統があるからしゃあない、で済む。
自分は、実際上の話として法律を選ぶなら、これでいいかなー、とも思っている。イスラームの国では、聖なるコーラン預言者ムハンマド(彼の魂に平安あれ!)が定めたもうたシャリーアが法の源であり、憲法法源なのである。この前クーデターでつぶれた民主エジプト?での憲法つくりでも、それが問題になった。

彼等は現在の憲法(確か第2条か?)の規定する「シャリーアの諸原則はエジプトの主要な法源である」との規定に代え、「シャリーアはエジプトの主要な法源である」であるとのより直截な表現に訂正することを要求している
http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/4332281.html

まあ「法律の源」は何か?なんてのは遡って考えると終わりが無い話で「人権」も「シャリーア」も「十戒」も「最高存在」も、どれもフィクションである。ならここに「わが民族の伝統と慣習」が入っても、かわらない・・・いや大いに変わるんだな。そして人権の神秘的な正統性もある意味失われる。
 
だがネ、上に書いたように近親結婚を禁じたいときには、その根拠はおそらく「人権と自由」からは出てこないぜ。やはり用心棒たる「伝統と慣習」先生に出ていただいて、一刀両断してもらうしかねーんだよ。この用心棒さんはだいぶ腕が立ち、彼に自由におまかせするなら、現在違法性も罰則も無い「近親間の性関係」それ自体も禁じることができやすし、東京都条例にもより一層のお墨付きを与えることもできますが、どないですか?それはそれで何か危ういが。


この話はほとんど「同性結婚」の議論と固有名詞を入れ替えれても成立する(不都合な真実

だから自分は過去にいろいろ書けたんだよね。
というかこの話を考えたのも、もともとは同性婚に関する議論からのスピンオフでした。
これは別に荒唐無稽な話でも暴論でもなく、世界20億人の魂を導きたもうカソリック枢機卿大司教閣下が同じことを語っているのは、(4)で紹介したとおり。

 リヨン市大司教バルバラ枢機卿は、「『愛し合っているから』という理由だけで同性間の結婚が認められるならば、多重結婚、近親相姦も可能ということになりかねない」


だから過去の「同性婚」の関連エントリも紹介しておきます(というか、元は一緒のリストに入れていた)

■「同性婚も個人の自由である。同様に一夫多妻も個人の自由である」と訴訟を起こされたら(ユタ州)。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110730/p7
同性婚(結婚)制試論…愛と家族と「私」と、法と制度と「公」。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120512/p4
■日本の辞書における「結婚」の定義・・・いつ、どの辞書が「男女」の限定をはずすんだろうね。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20121102/p2
ユタ州「一夫多妻の権利」裁判、合法判決出たらしい…で、これが駄目な根拠ってどう構築するのよ、まじで。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140113/p3
三省堂辞書の「結婚」項目は、既に同性婚を視野に入れた語釈をしている。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140504/p2
改憲か、解釈改憲か、それとも護憲か…「同性婚憲法」がついに現実課題に。大屋雄裕氏の論考を再度紹介(with木村草太)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140607/p2

樋口陽一氏も、宮台真司氏も「ダメだからだめだ」や「実際に不幸になる(例が多い)」程度の論拠しか消極論を示せない。

のです。

個人と国家 ―今なぜ立憲主義か (集英社新書)

個人と国家 ―今なぜ立憲主義か (集英社新書)

樋口 「分かりやすい例でいえば近親相姦(インセスト)タブーでしょう。なぜいけないのかという説明抜きでとにかくそれはいけないとされ、だんだんいけない理由が「いけない」ということを言う方にも理解できるようになる。言われる側もその合理的な思考を受け入れることができるようになってくると、今までタブーとされていた規範はそれなりに重大な理由があったのだということがわかるでしょう」(223p)


あえて古い物差しを使うと、もし近親姦に踏み出せば、あなたがこれが良き家族だと思っていた関係は、確実にどこか壊れます。(略)…あなた個人だけの問題だけではなく、家族の誰かが不幸になる可能性もあります。しかしその予想もできない関係が、あなたにとって良いか悪いか、僕にはなんとも言えない。
http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/gryphon/20130706/20130706182710_original.jpg

あのリクツ好きの二氏が「ならぬことはならぬ」の会津藩なみのことしか言えない。けっこう難しいものなのですよ。




あー、この議論は論理が入り組んでる一方であんまり(少なくとも統計的には)現実政治・社会上の切実性がないので、やや「頭の体操」気味の話になるのだけど、まあ興味深いことは間違いないですな。