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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

上映終了間近。「神聖ローマ、運命の日 オスマン帝国の進撃」見た感想

最大・最後の「東西文明大戦」? オスマン帝国vs神聖ローマ帝国、「第二次ウィーン包囲戦」描いた映画が、有楽町で上映中
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140511/p3

で紹介した作品、いよいよ16日で上映終了。
見た感想。

・やはり「ハリウッド以外でがんばって作った歴史劇」は、お金やスケールという壁にぶちあたる。何だかんだといってCGというのは、そういうお金が調達できないところにとっての福音、味方であって、おそらくCGのおかげで創れた絵がたくさんあると思います。
 
・ただ、結局スケールとしては、年末年始に民放テレビ局が気合を入れてつくる戦国絵巻や、大河ドラマともそうそう違いがなかったと思う。

・また、たぶん海外輸出を狙ってそもそも英語で作られてる。日本映画が日本語で作られていることの幸せ、を感じたりもした。


・内容に関して。「奇蹟を起こす神の御使い」としてイタリアからウィーンに招かれた修道士マルコと、ウィーン包囲軍の指揮を執った大宰相カラ・ムスタファの対比で描かれる。この時代はスルタン親征ではなく、大宰相に指揮を任せた時代だったのだな。その象徴として「司令杖」を与えられるといった文化は、要の東西を越えて変わらない。
 

・マルコとカラは過去にとある因縁があり、攻防戦の最中にも面会までしてる(史実かどうか、フィクションにしてもリアリティがあるのかはしらん)。ただ、それをつなぐのに戦争まではウィーンに住み、戦争勃発とともにオスマンの側に移住…というか亡命するムスリム、を設定している。
あのようにしょっちゅう戦争や停戦をしているところ、それも国際都市のウィーンやベネチアイスタンブールではおそらく、「平時、戦時の外国人保護」や「戦争勃発時の祖国への帰還」などのルールも発達しているのだろうと思うのだが、それでも戦争直前に、このムスリムへの襲撃未遂があり、それをマルコが止める…という挿話がある。
これはマルコの徳の描写であるのだろうが、ただこのムスリムは一種のスパイとして結果的に活躍したり、内縁の妻的なクリスチャンを見捨てたりしてる。「国家(宗教)への忠誠」というのはどこまでをよしとするのか、難しいものだ。為政者は外の国と、そういう状況に陥らせないようにすることが一番の肝要なのだろうが。
 
オスマン帝国の最終目標は「サン・ピエトロ寺院(※バチカンです)をモスクにしてやる」であり、また劇中でもしばしば「教会をモスクにしてやる」という言い方が出てきますな。レコンキスタではモスクが教会に、イスタンブール征服では教会がモスクになったりした。オスマン…というかイスラム全般の寛容性はよく言われるけど、それは異端審問やユダヤ迫害をしていた中世ヨーロッパと比較して、という話で、ある程度の宗教的階層や、改宗へのプレッシャーなども普通にあったし、そもそもキリスト教ユダヤ教は新興のイスラムにとってはまあ「かつてのオジキ」的な存在であり、そっちの側が全面否定ではなく、ある種の敬意を払っても、驚くには値しないのではないか。極真カラテから分かれた新興カラテは、自分の源流である極真には一定の敬意を払うけど、極真側から見ると破門者、となるようなもんで。
 
・そういう宗教的闘争の文化は、随所に見られた。「イスラムの教えでは、剣を持って戦う前に話し合いで改宗を勧めるのはいいことだ」と大宰相は語る。それはいいんだが、それは軍使(さっきに亡命ムスリム)が城壁に接近して「真の信仰に目覚めよ!!」と呼びかけるというものだったりする(笑)。
 
・そしてみんな大好き、包囲攻城戦。このへんは結局、洋の東西を問わずにどこも戦法は同じで、大砲をぶち込んで城壁を破壊し、或いは地下を掘り進んで壁の下に爆薬を設置、下から崩す…
 
ここで「榴弾」が生まれた時代はいつかな、という話を考える。
榴弾」とは、大砲によってぶち込まれるのが単なるでっかい鉄の玉はなく、それ自身が爆発して、敵にダメージを与えるようになった弾丸のこと。戦争の歴史を変える、ひとつのエポックメイキングらしい。
だが、やはり絵的な問題で?この史実はドラマでは無視されがちなんだと。「風雲児たち」の中で作者が炸裂弾を紹介したとき(高島秋帆の時代ですがな)「えー、関が原とかを私が描いた時も、迫力がほしいのでウソを承知で弾を炸裂されました。テレビや映画でもそーやってるもーん(大意)」と開き直りやがった、あのジジイ(笑)。
 関が原や大阪の陣のとき、少なくとも日本ではまだ巨大な鉄の玉が飛んでくるだけだった(もちろんそれだけでも破壊力や恐怖心はすごいものがあるが。)

この第二次ウィーン包囲のとき、大砲の弾は炸裂したのか?
これはみんな大好きウィキペディアを読んでも分からなかった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A6%B4%E5%BC%BE
 
・ウィーン包囲に関しては、モンゴル帝国の末裔であろう、ナントカ・ハン国が「聖戦に参加するのがムスリムの義務だ」として参戦する。騎馬帝国の末裔だから、おそらく戦に慣れた精鋭だと思われる。それがおそらく、オスマンの「やわらかい専制」の賜物でありり、当時はやはりそういう衛星国から軍隊を集めていたのだろう。ただ、この軍がある意味で包囲の運命を左右する…関が原の島津義弘的、というとネタバレせずに雰囲気はいえるか。
そういえばこの役者の顔も、TBSドラマ「関が原」の島津役に顔が似てたような……
 
・海外情勢も複雑怪奇で、そもそもウィーン包囲は、ハプスブルグを敵視するフランスのブルボン王朝が、トルコと手を結び、ウィーンに加勢しない、という状況が生んだ。遠交
近攻は洋の東西をとわずか。「馬鹿な奴らだ、ウィーンを滅ぼしたら次はお前のところなのに」と舌を出されるのも同じ。
 
・しかし同じようにハプスブルグと折り合いが悪く「あそこに援軍要請しても無駄だよ」「あの田舎者が!!」と言われてたポーランド王ソビエスキが援軍を率いて、救援に来てくれてしかも決定的な役目を果たす。これは実はポーランドにとっては「ドヤ」な歴史であり、そもそもこの映画はポーランド・イタリア合作映画なのだ(笑)。
 
・んで、ポーランドの騎士の精鋭は「有翼騎士団」と称されている。なんだそりゃあ!と思ったら、背中に意味無く鳥の羽飾りを付けているだけだった(笑)。しかもかっこいいかというと思い入れの無い外国人からしてみるとビミョーなのだが、そんなのは「母衣が風になびくとかこいいね」「常になびいてるようにするために、籠を背負おう」という異様な思考になった日本人に言われたくもなかろう(笑)
http://www.hokkoku.co.jp/kagakikou/dorama/drama10.html
 
・合戦シーンが好きな方にとっては、トルコ軍が防御につかった『巨大マキビシ』が興味深いだろう。これは馬の進撃を止めるために使ったらしい。ニンジャのマキビシと本当に似た形だが、サイズだけでかい。

【追記】コメント欄より
HAGANE 2014/05/16 01:24
馬用のまきびしの話はこないだBSドキュメンタリーでやってた第一次大戦の軍馬をテーマにした番組でも取り上げられていましたな。マキビシって人間的には毒でもない限り嫌がらせの足止めくらいのイメージですが馬にとっては「ヒヅメを壊死させてしまう」と言う致命的なダメージを与える非常に恐ろしい武器なんだそうです。「ヒヅメ無くして馬無し」なんだとか。

 
・戦争の帰趨を決めたのは、最終的には203高地メソッドといいますか…「XXX山に大砲を運んで、そこから砲撃すりゃよくね?」「あそこは険しくて無理っす」「無理を承知でやるんや!!」が効果を挙げた、という話。
その100年ちょっと前「軍艦を山越えさせりゃよくね?」「無理っす」「無理を承知で…」でイスタンブールを奪った大帝への意趣返しになったかな(笑)
 
・ちなみに修道士マルコは、このキリスト教軍の先頭に立って軍を鼓舞した。このへん「偉大な宗教家と軍の関係」ではちょっともやもやするところもあるのだが、まあここで反戦を主張するのも現実性は無かろう。
そして質素を旨とする修道士らしく、彼が掲げた十字架は「木の枝」を組み合わせた粗末なもの。
それが逆にかこいい。
 
イスラム教徒がスルタンから下賜され、「この旗をウィーンのど真ん中に掲げよ」と命じられた旗は…緑の地に金の文字。何の解説もないが、皆が知っているあの言葉であろう。
「アラーのほかに神なく、ムハンマドはその預言者である」
この旗のレプリカほしいなあ…でももし入手したら、ぞんざいには扱えなくなるな。
 
・そしてとある因縁話で、話は締めくくられる。
大宰相「私の奴隷女(愛妾)が、夢を見るのです。私が丘を駆け上ると、木の十字架を掲げたローブの男に率いられて、弓が一斉に私に突き刺さって…」
占い師「(何事か占って)…安心するがいい、この戦争でそなたの血は一滴も流れんぞよ」
大宰相「そうですか!安心しました」
 
しかし、これは最終シーンで、なるほど!と分かる。とある大陸に伝わる、ある風習が関係しているのだが……



ま、そんなわけで、やはりアラやご都合主義などは目に付く部分もある。ただし、やはりこの地域の歴史絵巻を映像で見られる、その珍しさや面白さは入場料ぶんはありました。


もいちど、予告編動画を紹介。

http://movie.walkerplus.com/mv55384/trailer/

あ、見直してみたら指揮杖、木の十字架、巨大マキビシ、有翼騎士団、山をめぐる攻防、炸裂する大砲弾…などの描写がこの予告編で見られるっすね。