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塩野七生最新作 『皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上・下』。毎日新聞で本村凌二が大型書評

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140112ddm015070023000c.html

今週の本棚:本村凌二・評 『皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上・下』=塩野七生・著
毎日新聞 2014年01月12日 東京朝刊


……中世世界にあって絶大な権威をもつローマ法王との不和と反目を恐れず、自分の信念を貫いて生き切った驚異の男がいた。著者は、作家になりたてのころから、いずれフリードリッヒ2世を書きたかったという。「執念の人」となった作家が、中世人の真打ちとなる男の生涯を描きながら、古代ともルネサンスとも異なる中世という時代を浮かび上がらせる試みでもある。
(略)
地中海のほぼ中央に位置するシチリア島は、古代にはギリシア人もローマ人も住み、中世初期にはイスラム教徒に征服され、11世紀末からは北方から侵入したノルマン人の支配下にあった。これら多言語が重なる世界では、とくにパレルモの宮廷では、ギリシア語、ラテン語アラビア語、イタリア語、ドイツ語が飛び交っていた。このような環境で育ったフリードリッヒは、アラビア語を解し、イスラム教徒の役人や軍人とも常日頃から接していたという。

 こうした異文化集団の共存する社会で生きれば、異教徒としてのイスラム教徒を敵視することはなかったのである。できるかぎり血を流さず、外交交渉で解決する。その意志が、敵陣営のスルタンであるアル・カミールとの妥結をもたらし、第6次(第5次にふくめる場合もある)十字軍によるイェルサレム無血入場として結実する。

 だが、現代からすれば、世界史の奇跡とも言えるフリードリッヒとアル・カミールの和解は、同時代には双方の側から評判が悪かった。キリスト教徒にしてみれば武力で無期限に聖地を奪還するのが望ましかったし、イスラム教徒側では40年前に英雄サラディンが取り返した聖地の大半を敵に譲り渡すなど、もってのほかだった。

 ともあれ、イェルサレムの無血奪還を一つの作品(オペラ)とすれば、フリードリッヒのもう一つの作品は「ローマ法の精神」を再興する法治国家の設立をめざしたことだ。彼にとっては、あくまでも「皇帝(カエサル)のものは皇帝(カエサル)に、神のものは神に」であった。イェルサレム無血入場の2年後、フリードリッヒは「メルフィ憲章」を発布・・・・

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 下

皇帝フリードリッヒ二世の生涯 下


塩野七生ファンなら、この人物のごく短いスケッチが「サイレント・マイノリティ」の中で描かれていることはご存知だろう。

サイレント・マイノリティ (新潮文庫)

サイレント・マイノリティ (新潮文庫)

そこから何年だろうか、満を持して、大長編の伝記を書いた。自分もメルフィ憲章とか知らないものな。ただ、あの短文はそれで完成されていた。それを超えるものとなるだろうか。


前作「十字軍物語」にも彼は出てきたし、図版資料集にも載っている。その再録をしたい。

塩野七生「十字軍物語」スタート。毎日新聞に本格書評
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110512/p2

絵で見る十字軍物語

絵で見る十字軍物語

で、この人の像とかの、同書での検索結果だが・・・
「フリードリヒ2世は、教皇に背いてイスラムと和平を結んだ裏切り者として、像の多くが壊されている」
として、ぼろぼろの彫像の写真が写されていた。
その歴史に、粛然とした。
 
ただ、そうでありつつも・・・・・・美しく保存された像ではなく、壊された像にこそ残る名誉も美しさもある。


ちなみに、塩野氏といえば元祖歴女、それも「歴史上の人物に萌える」という興味の持ち方をいち早く実践した人である。恩師と「カエサルは(男として)大嫌いです」「若いねえ」と、そんなやり取りをしてたそうだから。

なもんで本村氏はこう〆る。

さすがに若いころから狙いを定めた著者渾身(こんしん)の力作であり、失礼ながら、筆力の衰えなどいささかも感じさせない。いい男に出会ったという気がする