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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

毎日新聞書評欄から

18日付はヒットが多かったので2本紹介。ほかに11日付。

http://mainichi.jp/feature/news/20121118ddm015070031000c.html

今週の本棚:中村達也・評 『ブータン−「幸福な国」の不都合な真実』=根本かおる・著
毎日新聞 2012年11月18日 東京朝刊

ブータン――「幸福な国」の不都合な真実

ブータン――「幸福な国」の不都合な真実

 ◇難民問題で知る「国民総幸福」のもう一つの意味
・・・ 経済優先ではなく国民の幸福こそが第一、GNP(国民総生産)ではなくGNH(国民総幸福)が重要との宣言で・・・・・・来日した若い新国王夫妻が、同行した僧侶たちと共に震災犠牲者に祈りを捧(ささ)げた姿が印象に残っている人も多いにちがいない。民族衣装に身を包んだ国王の国会での魅力的な英語演説を思い起こす人もいるだろう。

 それにしても、世論調査で国民の九七%が「幸福」と答える国とは、一体どのような国なのか。(略)・・・まるで桃源郷のような「幸福の国」のイメージが一人歩きしているような気さえする。

 ところで、本書のサブタイトルは、「幸福な国」の不都合な真実、である。ただし断っておくが、本書は決して反ブータン本ではない。・・・(略)「不都合な真実」とは、実は難民問題である。人口六十数万人のブータンが十万人を超える難民を生み出しているのである

・・・ブータン国民であることの要件は、五〇年代の国籍法で定められたのだが、七〇年代、八〇年代になってそれが改正・・・(略)要件を満たさない場合には国籍が認められず、ブータンを離れることを余儀なくされる。
 そうした政策推進の背景には、実は西に隣接していたシッキム王国の滅亡という歴史の苦い経験があった。ブータンと同様にチベット仏教を国教とするこの小王国が、ネパール系の住民との民族対立を機に政治が混乱し、七五年についに滅亡、インドの一つの州として併合され・・・


http://mainichi.jp/feature/news/20121118ddm015070037000c.html

今週の本棚:松原隆一郎・評 『新しい市場のつくりかた』=三宅秀道・著
毎日新聞 2012年11月18日 東京朝刊

新しい市場のつくりかた

新しい市場のつくりかた

 ◇新たなしあわせへ「問題開発」の経営書

・・・シャープやパナソニックソニーの凋落(ちょうらく)ぶりを聞くと耳を疑うところがある。・・・数年に一度は打ち出せていた画期的な新商品の開発が途絶えていることが大きい。それら栄光ある製造業が「大企業病」を患っているとみなすなら、どこに問題があるといえるのか。

 著者はここ十五年で中小企業を中心に千社を訪ね聞き取りを行ってきた・・・・・・地道に「アイデア社長」の語りに耳を傾ける帰納法タイプ。しかも根っからそうした話が好きなのだろう、楽しい余談を豊富に交えつつ、「読んで全く難しいところがない」平易な文章で、なぜ日本の大企業が新製品の開発でつまずいているのかを解き明かしている。

 著者の観察によれば、ポイントは「日本の産業はすごい技術が支えている」という「技術神話」にとらわれ、薄型テレビをさらに薄くする効率化や同一商品のコストダウンに邁進(まいしん)し、素朴な技術を使いこなしてもできるような新商品を開発しなくなった点にある。

 効率化にせよコストダウンにせよ、大企業はアッという間にやり遂げる。けれどもそれはサーフィンで用いられるボードの素材や形状を緻密に点検するタイプの技術開発、すなわち「問題解決手段の改善」にすぎない。「板を使って波に乗れば面白い」と思いつき、サーフィンという市場そのものを創り出すようなダイナミックな「問題開発」ではない。
(略)
著者はそれをより広く、「ライフスタイルの構想」「文化開発」と呼ぶ。エジソンが生きた時代、すでに技術としてはウォシュレットは製造可能だった。ではなぜ「エジソンにウォシュレットが作れなかったか」といえば、「おしりだって洗ってほしい」というライフスタイルないし文化が開発されていなかったからだ。
(略)
 興味深いのは、脳性まひを患った障害者が快適に座れる車椅子の例。健常者が座る「座面・背面」からなる椅子に車をつけると、身障者には痛々しいほど座りづらいものとなる。そこで医療研究者が発見したのが、障害者は「胸郭を支える力が弱い」ということ。こうして「胸郭も支える椅子」は、健常者にとっても快適な商品と・・・・・・

http://mainichi.jp/feature/news/20121111ddm015070007000c.html

今週の本棚:山崎正和・評 『中国は東アジアをどう変えるか』=白石隆、ハウ・カロライン著
毎日新聞 2012年11月11日 東京朝刊

中国は東アジアをどう変えるか ? 21世紀の新地域システム (中公新書 2172)

中国は東アジアをどう変えるか ? 21世紀の新地域システム (中公新書 2172)

 ◇言語的変化が「新民族」を生み出す
本書は東アジアを研究する専門家が、多年の成果を新しい視点からまとめ直し、この重大な問題に画期的な回答を示唆した希(まれ)に見る業績である。中国をまずその周辺諸国から観察しようという手法は、多くの日本の読者に目から鱗(うろこ)の落ちる思いをさせてくれる。

 著者は歴史や地政学的地位の異なる諸国をとりあげ、それぞれが中国の重圧にどう対処してきたかを精査する。すると意外にも、これら弱小に見える周辺国が強靱(きょうじん)な交渉力を駆使し、国の独立を維持してきたし、将来も維持し続けるだろうということがわかる。
(略)
東アジアでは中国語を話す民族に言語的な変化が生じていると力説する。
 それが著者のいう「アングロ・チャイニーズ」の誕生であって、従来は華僑、華人、中国系などと呼ばれてきた人びとである。彼らはさまざまな世代に分かれ、移住先の文化へのなじみ方も多様だが、ほとんどが中国語と英語と居住国の言語の三つを話す。彼らの多くは東南アジアの政界、経済界で絶大な力を揮(ふ)るい、互いの情報網も緊密である。
彼らは英語を話すことで、もはや価値観や生活感覚のうえでも純粋な中国人ではなく、新しい独自の文化的民族性を生みつつある。しかもこの新興の民族は今や東南アジアだけでなく、中国本土の沿海都市部にも続々と誕生・・・・(略)