大統領選でニューヨークタイムズのネイト・シルバーの数理モデル予測が全50州で的中―政治専門家はもはや不要?
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by Gregory Ferenstein on 2012年11月8日New York Timesの選挙予測専門家、ネイト・シルバーは昨夜、大統領選の勝敗を全50州で的中させた。 その一方で、いわゆる政治専門家たちの予想はほとんどが外れた。中には笑うしかないような外れ方をした者もいる。
(略)…シルバーは今回も彼の作った数理的予測モデルが古臭い専門家の勘や生半可な統計に基づく推測より圧倒的に優れていたことを証明した。
残る疑問は、数理モデルのこれほどの有効性を見た後でもテレビのプロデューサーたちは時代遅れの政治専門家なるものを番組に使い続けるつもりなのかどうかという点だけだ。シルバーの数理モデルの特長は、どんな政治専門家もとうてい考慮しきれないほど膨大な量の数値を入力として用いるところにある。シルバー・モデルでは各種の世論調査の結果を、規模、質、時期などによって重み付けし、過去の同種の選挙結果と照合される・・(略)・・・クリントン大統領の元補佐官、ディック・モリスだが、彼の予測と現実はグランドキャニオンくらいかけ離れていた(ロムニーが325票獲得するというモリスの予測は100票以上外れていた)。
シルバーのアプローチの成功はテレビ局にジレンマを与えている。第一に、この種の議論を理解するためには視聴者に数学の素養が必要だ。仮に古臭い政治評論家を数理統計学者で置き換えたとしても、今度は番組同士で自分たちの予測の優位性を説明するためには面倒な統計学の議論が必要・・・(略)
第2に、ショッキングな選挙予測を報じて視聴率を取りに行けなくなる。視聴率を稼げる意外な結果は、ほとんどの場合不正確な予測だ。ところがシルバー・モデルは多数の世論調査を詳しく分析して平均を出しているので概ね常識的で安定した(番組としては退屈な)結果・・・しかしシルバー・モデルが与えるもっとも大きく、破壊的な影響は、伝統的な選挙キャンペーンや政治評論はもはや選挙結果に決定的な影響を与えることはないという事実が明らかになってしまうこと…・・・(略)しかしテレビのプロデューサーたちは派手な党派的な議論、不正確だが一般受けしやすい選挙予測などによって視聴率を稼ごうとする・・・
〔日本版〕ネイト・シルバーはアメリカでもっとも注目されている選挙専門家。シカゴ大学経済学部を卒業した後、2002年に、KPMG会計事務所に勤務中にメジャー・リーグ野球選手の統計的評価システムPECOTAをを開発した。これは映画「マネー・ボール」で日本でも知られるようになったセイバーメトリクスをオンライン化したもので、2007年にはPECOTAをBaseballProspectus社に売却して、選挙予測の分野に進出。2008年のブッシュ対ゴアオバマ対マケインの大統領選で50州中49州の勝敗を的中させ、いちやく注目されるようになった。現在、FiveThirtyEightブログはニューヨークタイムズの一部となっている。著書にThe Signal and the Noiseなどがある。)
ディック・モリスといえば、人間界ではクリントンを再選に導いた、伝説の選挙屋だぞ・・・。
1994年、民主党は議会選挙で大敗北を喫し、クリントン大統領は窮地に立たされた。支持率は低迷し、再選は不可能との評が公然とささやかれていた。だが、ここに、新たなアドバイザーが顧われた。ディック・モリス、名うての選挙マネージャー。アーカンソー州知事時代からクリントンと親交を結んでいた彼は、大統領の絶大な信頼を受けて、政権の復興に乗り出した―目標は、96年の大統領再選…(後略)
- 作者: ディックモリス,Dick Morris,近藤隆文,村井智之
- 出版社/メーカー: フジテレビ出版
- 発売日: 1997/07
- メディア: 単行本
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わたくしはこのテーマを「文系の分野だと思ったら理系の分野だよシリーズ」と名づけているが、その中の新シリーズとしても話題作だな。でももともと、選挙結果の予測は数学、統計にかかわりがある分野・・・だが、「最後は選挙のプロの経験と勘がものをいう」ともずっと言われてきた。
だから、銀英伝でたとえると(またかよ)「データ帝国」と「自由経験同盟」の長い、大きな戦争をイメージしてほしい。
そしてデータ帝国は近年、「オセロ星」「野球の若手スカウト・トレード実績星」「将棋星」「ワインのテイスティング星」などの要衝を次々に攻略、あるいは猛攻でいま陥落寸前・・・その中で今回の大統領選で上のような結果が出たことは、自由経験同盟としてはウランフ提督が討ち取られたぐらいのダメージをこうむったと思う。
この戦争、推移を見守っていきたい・・・ただ、選挙の数理モデルとやらが本当に普遍的な理論となっているなら速攻で日本の選挙にその仕組みが利用できるはずで・・・ぜひともやってほしいものだ。間違っていたら、その間違いがまたいいデータになるし。
あとひとつ、これは「世論調査」「選挙情勢予測」すべてに言えるのだけど・・・もし100%に近い精度にまで、この調査、予測が高まったら、投票する有権者ひとりひとりの意思というか意味ってなんだ?という話になってくるな。神、とはいわない。「予言者」「タイムトラベラー」としておこうか。
「100%あたる予言者(タイムトラベラー)が、あなたの、この社会の未来を予測して告げた。それを聞いた貴方の行動は、そして社会は、それによって変わるのだろうか?」
という、SF小説かファンタジー寓話のような事態が、発生するんじゃないだろうか・・・
これって「ゲーム理論」の範疇に入るのかな?
■川越『はじめてのゲーム理論』:概説書としてはまあまあ。でも量子ゲーム理論って何のためにあるの?
http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20121108/1352356178
過去の「文系の分野だと思ったら理系の分野だよシリーズ」(一部)
コンピュータ将棋の話題もあるんだけど、それはまたおいおい。というか、これとは別にこの日記を「コンピュータ将棋」で検索してくだされば幸い。
■グレッグ・ジャクソンは数学を格闘技に持ち込み、実戦経験ゼロで「最強のトレーナー」に。嘘の様な実話。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120916/p2■NHKスペシャル「コンピューター革命」を見て考えた、思い出したこと雑記(7日未明に再放送あり)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120604/p4■維新「発達障害と親の愛情」条例に一言。科学は保守的道徳の上に立つ/そしてフェミニズムの上にも…(上野千鶴子)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120510/p4■「テレビ局の視聴率なんて、新聞欄の左右やchボタンの位置で変わるんだよ」説。そして政治も・・・
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120505/p7■”世界のすべてを計算せよ!”−−山形浩生訳で面白そうな本が出た
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080308/p7■個性か病気か選択か。「新型うつ」「マインドコントール」「ギャンブル依存症」…
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120429/p3