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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

今日もこの街はどこかで…朝日新聞特派員が、NYで押し売りに遭った話

朝日新聞の記事は「どうせ有料者しかネットでしか見られないだろう」とついつい思っちぇしまうが、これは掲載されていた。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201205220631.html

〈特派員メモ〉ニューヨーク 悔いてくれれば

 ニューヨークの目抜き通りで先日、黒人青年に「ジャズは好きか」と話しかけられた。「好きだ」と答えると、「私はマーク。ジャズシンガーだ」と握手を…(略)…名前を尋ねられたので、ファーストネームを名乗ると、彼はバッグからCDを取り出し、油性ペンで私の名を書いて「私のアルバム。5ドルだ」・・・(略)
(略)・・・私はほしいと言っていない。そう反論して立ち去ろうとすると、別の大柄な黒人青年がとおせんぼうをした。2人に「あなたはこのCDを買わなければならない」とすごまれた。

そして、結末はこうなった。

(略)…身の危険を感じて5ドル札を渡した。
 CDを受け取るのは断り、「ニューヨークを訪れた人がこんな嫌な思いをするのは本当に残念だ」と告げると、2人は少し悲しそうな目をしたように見えた。良心の呵責(かしゃく)だったと信じたい。(春日芳晃)

NYの治安が改善したといっても、大都市ではやはりありそうな、単純な脅迫まがいの押し売りに過ぎない。だが、なぜかこの小さなコラムが印象に残り、紙面で読んだ後にわざわざネットで紹介したのか。自分でも不思議に思ったので自問すると、結局こういうことだろう。
 
まずひとつは「ジャズは好きか」という粋な、楽しい質問から入って押し売り、脅迫につなげるという点。人種や国籍、イデオロギーを超える「趣味の連帯」「好きの連帯」というものは確実にあり、相応に神聖なものだという気はする。愛犬家殺人事件もちょっと関係するが、そういう趣味・好きの連帯を食い物にする、というのが、犯罪の客観的な規模よりも悲しく、暗い気がすること。
もうひとつは自分のtwitterを再録するけど

…最後が印象深いのは、脅迫上等の悪党ですら自分への罵りでなく「街に悪印象を与えた」事にたじろぐなら、そこに一片の人間味を見るからだろう。非常事態で、よくその一瞬を観察し切り取ったものだ。

NYといえば人種の坩堝などという、使い古された上に政治的にもあまり正しくない言葉で記され、エトランゼも多い街だ。だがそこの住民には「われらNY市民!」という誇りも大きい、とも聞く。けちな街角の悪党の、一瞬のためらいに、どんな人間も大きなつながりを求めているのかもしれない、という思いを抱いた。
とにかく、なぜか印象深い新聞コラムでした。