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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

18世紀、イギリス議会政治を見学したムスリムの感想

ここからは雑読のメモ。
いまや本当にアナーキー・in UKになっているかの国。
今回の暴動に対応できているかはともかく、議会政治は誇れるものとされているが…、かつて18世紀末にロンドンを訪れたイスラム教徒は、こういう感想を持ったという。

英国下院に関する現存する最初のムスリムの記述において、その筆者はムスリムとは違う境遇の人々をみて驚きを表明している。
すなわち、イギリス人は神の啓示した法をもっていないので、自分たちで法律を制定しなければならないというその場しのぎの哀れな措置をとるまでに堕落している、というのである。

…いや、この一節が心に残ったのは、これは無知蒙昧な野蛮人が高度な文明を理解できなかった、という話ではない。聖なる律法シャリーアの価値を論理的に突き詰めていけば、敬虔なイスラム教徒からはそういう考えが出てきてもおかしくないな…、と納得できるからだす。

くしくも数日前の東京新聞では、エジプトで予定されている自由選挙では、ムバラク体制打倒に立ち上がった若者たちの勢力は分裂縮小し、ムスリム同胞団が最多議席を取りそうだ…という見通しを載せている。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2011081202000020.html

十一月にも実施される人民議会選(定数五一八)に向け、前政権下で弾圧を受けた穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団が、日増しに存在感を高めている。伸長に警戒感が広がる一方、前政権を崩壊に追い込んだ若者グループなどは組織化が進まず、勢いを失いつつある。(略)事実上始まっている選挙戦を、自由公正党は独走している。

イスラム世界はなぜ没落したか?―西洋近代と中東

イスラム世界はなぜ没落したか?―西洋近代と中東

この本を書いたバーナード・ルイスネオコンとの交流も深いほか、エドワード・サイードとの論争でも有名。だがこの著作は面白かった。
「なぜ没落したか?」との表題は挑発的かもしれないが、逆にいえば当然ながらイスラーム帝国が中東を席巻した時の教義・体制・科学の先進性や、後のオスマントルコがしいた”寛容”な異教徒・少数派の保護体制などを評価した上で、なおそこに必然的、あるいは偶然的に存在した没落への要素を示しているのだ。

あと、彼がネオコンに支持されたとするなら、この本のトーンが「イスラム世界は政教分離世俗主義市民社会の構築に遅れたために没落した。だがそれは原理的・根本的に不可能なわけではなく、不幸なすれ違いや偶然によるもの。これらの価値をイスラーム世界が将来受け入れる余地は十分にある」というものだからだと思う。
 
「中東世界の価値観は計り知れない独特のもの。ここに近代的な価値観や善悪の判断を持ち込んではいけない」という、「中東に民主主義はムリ」的な立場に立つと、実はネオコン的発想には批判的になる、という逆説がある(コラムを読んだ範囲では曽野綾子がそうだな)。

チェイニー副大統領は、ルイス教授との対話の中で

中東における民主主義の可能性について以前もっていた疑義を次第に放棄していった

ことがイラク戦争のきっかけになった?とタイム誌2003年4月3日号は伝えているという。