ある時期まではてなブログをほとんど放置しているように見えた山形浩生氏が、1、2カ月ほど前から、ブログ活動を活発化させた。
http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/
主に、現在書評委員を務めている朝日新聞の書評欄で、読んでみたけど選んで載せるに至らなかった未掲載書評(感想)をここにUPしているのだ。
そういう構造上、辛口の批判的書評が多いが、それでもギリギリ惜しくも載らなかった良書も紹介されているほか、山形氏のいまの興味の方向性が、ボツ本で分かってくる。
で、最近かな?氏はムッソリーニ関連本を集中的に読んでいるらしいのだ。
まあ開発独裁、発展途上国の離陸に関する問題が氏の得意な守備範囲だからね。当然と言えば当然だ。
その集大成として、最終的にこの本が選ばれ、朝日新聞の紙面を飾った。
http://book.asahi.com/review/TKY201108020216.html
- 作者: ニコラスファレル,柴野均
- 出版社/メーカー: 白水社
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ムッソリーニ (上・下) [著]ニコラス・ファレル
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[評者]山形浩生(評論家)[掲載]2011年7月31日■優れた政治家?読者に判断促す
驚くなかれ、本書はなんと、ファシズムは決して悪い政治体制ではなく、ムッソリーニは優れた政治家だったと主張する本だ。
即座に反発して短絡的に軍靴の音を懸念する人もいるだろう。だが罵倒語として濫用(らんよう)されるファシズムの具体的中身やムッソリーニの活動をどこまでご存じだろうか。ナチスの仲間だから、右翼全体主義の悪い連中のはず、という程度の理解も多い。
本書はそうした無知と偏見につけこむ。既存のムッソリーニ像は左翼プロパガンダで歪んでいた、と著者は語る。伊ファシストの実際の活動を見よう。対外侵略は(すぐ負けたし)大したことない。ナチスとの同盟は、侵略回避の緊急措置・・・(略)…欠点は認めても、悪の権化扱いは不当だ、という。
記述は実に詳細で、しかも小ネタ満載。派手な女性遍歴談義など爆笑もの(手も早いが果てるのもお早かったとか)。退屈しないことは請け合いなのだが……
読者として気になるのは、その肯定的評価の妥当性だ。本書の立場は歴史修正主義と呼ばれ、批判されつつもイタリアでは有力だ。その背景には、既存の定説が羮(あつもの)に懲りすぎ、ファシストといえば長所皆無のゴロツキ集団と決めつけすぎて逆に嘘くさく・・・(略)・・・一方で本書の擁護論も弁解がましい。「他国もやってる」「仕方なかった」。ナチ便乗のユダヤ排斥は、民族ではなく生き様が対象だという逃げ口上には唖然・・・
個人的には、「初めて聞いた驚きの視点」ではない。
作家・塩野七生が
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この本の中で「イタリア的な、あまりにイタリア的な」という題で、ムッソリーニ伝を書いていた。表現の中には、奇をてらった相当乱暴なざっくりとした簡略化があるようにも感じたが、おおむねこういう視点をあえて紹介していたのですね。
十数ページにまとめているから、ごく簡単にムッソリーニの功罪論の「功」を読むときはこれも手始めにはいいかもしれない。
その逆に・・・前も書いた記憶があるけど…比較ファシズム学の第一人者・山口定氏が書いた「ファシズム」という本の中で、当時日本の治安維持法に関し清水幾太郎が「当時の共産体制(レーニン・スターリン体制)と比べて見れば、同時代では比較的穏やかだった」「治安維持法で死刑に処された人はいなかった」といったことを挙げ「戦前日本はファシズムではない」と主張した時、その 反 論 材 料 として
「いやイタリアのムソリーニ体制も、そんなに反体制派を手当たり次第粛清とかしなかったよ!? 同時代の強権体制の中では、比較的穏やかだったよ? だけどあそこもファシズムでしょ(というか名前の由来がここだ)。だから戦前日本もファシズムでいいんです」
と、こういう論を組み立てていた。
ああ、ここで紹介してたんだっけ
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110720/p3
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