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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

映画「クロッシング」見た。”収容所半島”の姿がここにある。

以前に何度か取り上げた、この映画。
http://www.crossing-movie.jp/
残念ながら、全国どこでも上映しているというものではないので、いささか遠出をしての鑑賞となった。
現在の上映館は以下の通り。
http://crossing-m.jugem.jp/?cid=2

まずは「クロッシング」のあらすじを貼り付けよう
http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tydt/id332597/

オオカミの誘惑』『百万長者の初恋』のキム・テギュン監督が、生きるために北朝鮮から中国へ渡った父子の悲劇を描いた人間ドラマ。100人近い脱北者への取材を基に北朝鮮の現実に根ざした骨太なストーリーに仕立て、第81回アカデミー賞外国語映画部門賞の韓国代表作品に選ばれた。過酷な運命に翻弄(ほんろう)される主人公を『ドクターK』のチャ・インピョが熱演。
(略)
あらすじ: 中国国境に近い北朝鮮の村で妻子と幸せに暮らすヨンスだったが、ある日妻が肺結核を患う。風邪薬さえ手に入らない状況に彼は中国へ出稼ぎに行くが、不法な現場が発覚し警察に追われる身に。その間に病状が悪化した妻は亡くなり、一人残された11歳の息子ジュニは父を探しに家を離れる・・・

いま、この後のストーリーを思い出してみると、家を離れた子が、同じく浮浪児となっているかつての友達(淡い思いを持っていた女の子)と再会するところがややドラマ的演出ではあるが、基本のストーリーはかなり直球で、取材を基に半ドキュメンタリー的な物語を作ったという話もうなづける。
私の好きな映画は伏線につぐ伏線を張り巡らせて、どんでんがえしやトリックで驚かせるようなものが多いのだが、それでも直球に圧倒された。

秘密警察の怖さ、薬不足の怖さ、飢えの怖さ、裏切りの怖さ、国境越えの怖さ・・・

ストーリーが単純なのは、単純なお話のディテールだけで驚くほどの恐怖や悲しみ、憤りを感じるからだ。
主人公の家族は父親が元サッカーの代表選手で将軍さまの勲章ももらっている、おそらくエリート階級に属する一家。前述の、息子と仲のいい女の子ミソン(父親同士も親友)も、電動式鉛筆削りを宝物のように持ってたりとか、それなりに貧しいながらもささやかな幸せを感じる生活だった。
しかし、「凍土の共和国」はこのような幸せを、ほんのひと撫でで壊滅させる。
女の子の一家は父親が党の仕事として中朝?貿易を行い、そのついでに私的な取引をしていることで生活に余裕があったのだが、ある夜に乱暴にドアを叩く音が聞こえる。
ドアを開けると、鬼より怖い秘密警察。
韓流ドラマや韓国のサッカーなども見て、世界に目を開いているその一家は、さらに「心の糧」として、聖書まで隠し持っていたのだ!!
この秘密警察の隊長が、天井を一突きすると聖書が落っこちてくる。隊長の「貴様、俺が間抜けだと思っているのか?」とどや顔で薄ら笑いするシーンは、ほんまどんなホラーよりも怖い。


これであっさり、この一家は「消滅」。父親の息子への説明は「急な都合で引っ越した。お前にお別れを言うのは忘れたんだろう」である。そして、貿易の仕事をしている親友を失った男にとっては、彼に依頼していた、最愛の妻の結核を治す薬の入手経路を絶たれたことも意味していた。

妻に栄養をつけるため、息子がかわいがっていた白い犬は食料となる。西原理恵子はかつて、こういう風に飼っているペットが食われる話を面白おかしくブラックユーモアで描いていたけど、やっぱり当事者にとっては深刻なのだよ。そしていよいよ進退窮まり、妻の病状も重くなった主人公は中朝国境を流れる豆満江をわたり中国に密入国して薬を買うことを決める。


国境越えはいまや食うために珍しくは無いとはいえ、やはり命がけだ。父親は息子に「お前が母さんを守ってくれ」と言い残し、そして小石をつかって名残のサッカーを楽しむ。国がどうであっても、家族で、父と息子で遊ぶ幸せは奪えない。いや、奪われないはずだった・・・

そこからの「不幸の連鎖」は、ディテールの詳しさとあいまって涙もろい人にはとても見ていられないかもしれない。
たとえば、密入国した主人公は材木伐採?みたいな仕事にそれなりにありつける。そういう仕組み、「密入国者市場」がそれなりに確立しているようなのだ(アメリカでもメキシコとの国境沿いはね・・・)。しかしそういうところも。中国の公安がそれなりに密入国を取り締まる。彼らは自分の仕事をしているだけとはいえ、北の状況を見せられている観客としてはなんともやりきれない。主人公は元サッカー選手の足の速さもありなんとか逮捕・送還は免れるが。そのかわりに全財産を落としてしまい、そもそもの目的だった「妻の結核薬を買う」ことが出来なくなる。そこで一か八か(詳しいことはしらないまま)、南=韓国にわたることを目指すが・・・


一方で、薬も食料も無いなかで母親がついに病没した息子は、全財産を売って、父親の後を追って中国に行くことを目指す。でもこれまで両親の愛情を受けて育った彼は、生き馬の目を抜くような浮浪児らと張り合っての旅は大変だ。さまざまにカモにされつつ、前述の女の子ミソンとも再開した息子だったが、こちらは国境越えに失敗して「集結所」なるラーゲリに送られる。
ここでの描写は、今までの悲惨よりさらに悲惨なのだ。
特に、皮膚にできものが出来たミソンのため、「ネズミの皮が効く」と聞いた息子が必死にネズミを捕らえるのだが、それが効くはずもなくてかえって悪化するという悲喜劇は見た目のグロテスクさもあいまってなんとも後味が悪い。結局、息子はなんとか韓国で生活基盤を作った主人公がブローカーに賄賂を払ってそこを脱出できるのだが、ブローカーの携帯電話で父親と話した息子は、何度も「お母さんを守れませんでした、ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も泣きながら繰り返す。

これほど悲しい場面は無い。
「お父さん、なぜ戻ってきてくれなかったの」と責めてくれたほうが、主人公も何倍も心が楽だったろう。結局、政治とか政府はどの国であっても、この子にこういう「ごめんなさい」を言わせずに済むことこそ「政治」「政府」の名に値する。世界で何番目かに核実験に成功しても、大陸間弾道弾を開発しても、それが何だというのだ。


ここからのストーリーは、今後見る人のために語るのを止める。
上映館の少なさが何とも残念だが、ある程度努力をしても見ていただきたい作品だ。

パンフレットから。主演俳優チャ・インピョの撮影日誌

チャ・インピョ

四方に植えられたトウモロコシが胸の高さほどに育っていた。
クロッシングの演出を任せられたキム・テギュン監督が言った。
「トウモロコシは3月初めに植えたんですよ」
2007年3月を振り返ってみると、私はクロッシングに出演するつもりはなく、オファーを断っていた時期・・・(略)製作自体が中止になる可能性のほうが高かった時期だ。
主演俳優も決まらず、40億円にもなる制作費の出資者も決まらない状況下で、…見知らぬ僻地にトウモロコシを植える人の心情はどんなものだろうか。(略)映画にならなかったらコーンフレークにでもして売ろうとしたのだろうか?
(略)見事に育ったトウモロコシを眺めながら、この映画の撮影が終わるまで、キム・テギュン監督の最も熱烈な応援団にならなければならないと思った。
(略)
◆ ◆ ◆ ◆

家に電話をした。妻は3歳になる娘イェウンの話をしてくれた。
最近、イェウンは一日に何度もドアが開く音を聞いて”パパ!”といいながら玄関に走っていくという。・・・ある日、目を覚ましたらいつもそばにいたパパがいなくて寂しく感じただろう。なぜかも知らずパパを待つ娘に申し訳ない気持ちになった。
(略)
いつかは私も娘も映画がなんであるか、モンゴルがどこにあるのか、脱北者がどんな人々なのか分かる日が来るだろう・・・美しい娘になったイェウンが「どうしてパパは2007年の夏、一緒に遊んでくれなかったの?どこに行ってたの?」と尋ねたならば…「パパはあの時やるべきことがあったんだ」と答えよう。

チャは文才でも知られ、従軍慰安婦をテーマにした小説も出しているとのこと。


クロッシング」でtwitter検索してみた





…『クロッシング』が4月17日(土)に渋谷・ユーロスペースほかにて公開される。

過酷な食糧難から、危険を顧みず脱北する者が後を絶たない北朝鮮の凄惨な実情を、『火山高』(01)のキム・テギュン監督が映画を通して描きたいと企画。実際に脱北者100人以上に取材を重ね、スタッフや出演者らにも脱北者を加えたほか、脱北ルート撮影のために北朝鮮の友好国でもある中国、モンゴルで極秘撮影を敢行するなど徹底的なリアリティーにこだわった。

だが、最大の問題は思わぬところに。北朝鮮との友和を図り、脱北者に冷淡だった当時のノ・ムヒョン政権の影響だ。これにより撮影を妨害されるだけでなく、映画が政治利用される恐れがあったため、この企画は秘密裏に進められた。

その後、イ・ミョンバク大統領に政権交代したことにより2008年にようやく韓国での公開が認められ、さらに第81回アカデミー賞外国語映画賞部門の韓国代表作品に選出された。世界で初めて、北朝鮮の人々のリアルな日常と強制収容所の実態を描ききった本作は、韓国はもちろん世界中に大きな衝撃を与えた。

数々の苦難により企画から公開まで、実に4年の極秘期間を要した『クロッシング』。日本での公開キャッチコピーは“命がけのロードショー”だ


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