まだ、性暴力に関するゲームの規制、人権擁護と表現の自由をめぐる諸問題は、ひところより下火になったものの、はてなで真摯な議論が続いている。
「地を這う難破船」(http://d.hatena.ne.jp/sk-44/)と
「佐藤亜紀ブログ」(http://tamanoir.air-nifty.com/jours/)
の対話もその重要な収穫のひとつだ。
その対話の中で、id:sk-44氏のコメント欄に最初は出てきたのかな?「佐藤氏は、暴力や殺人?描写のあるゲームを愛好しているではないか?ゲームの中の殺人と、性暴力はどう違うのか?」という論点に、佐藤氏が興味深い返答をしている。
・・・陵辱ゲームは駄目なのに何故虐殺ゲームは許されるのか、と言う人に対しては、こうお答えしましょう――そうした文脈でしばしば取り上げられる Postal2や GTAは、そうした読解に、批判者は不十分だと言うにせよ、一応きちんと応答している、と。Postalは非難の大合唱に挑戦し返す形で、シュールなギャグ・ゲームになってしまった。製作者が、テーマは日常だ、と言い、プレイヤー以上に残虐にはならない、と言うゲームは、プレイヤーが一人も殺さずに上ることができて、それでも山のように人が死に、結果、人間と世界の問答無用の暴力性を引き攣った笑いに転化するゲームになってしまった(まあ、子供にはやらせたくありません。有害図書指定は当然でしょう――これはある意味、ただの暴力よりはるかにやばい)。 GTAはもっと生真面目に、ゲームとしての精度を上げることで対応しています。プログラムの洗練の結果、 NPCの行動はますます人間的になり、プレイヤーがまともなら一方的な暴力に対して心理的・物理的な歯止めが掛かるようになってきた。制作規模が今回問題になっている種類のゲームとは桁違いであるだけに、社会と折り合って表の世界で生き抜かなければならない、ということなのでしょう・・・
わたしはこの2つのゲーム、今検索して概要を知ったぐらいなので、上の指摘が正しいかどうかはなんともいえない。
ただし、大量虐殺を描きながら、
「暴力性を引き攣った笑いに転化するゲーム」
「プログラムの洗練の結果、 NPCの行動はますます人間的になり、プレイヤーがまともなら一方的な暴力に対して心理的・物理的な歯止めが掛かる」
ことにより、社会で生き残れる資格を得たというのだ。
そしてこう逆提案する。しかし、それは逆説だ。
公に流通するなら、せめてPostal2のようではあるべきでしょう。どうしようもない変態が男も女も動物も見境なく強姦して歩くが、NPCもまた端から異常者で、油断しているとPCも酷い目に遇う、おまけに警察や自警団が襲ってくる、あっはっは、こいつまじ鬼畜、ってかこんなことやらせるおれが鬼畜、うわ、やられてるよ、やられるとHP下がるのな、あ、終ってもまだ下がる、病気貰っちまったよ、あ、撲殺されちゃった、というゲームなら、女性でもげらげら笑いながらプレイできる――有害図書指定は間違いないでしょうが。
しかし凌辱ゲームがそういう方向で社会と折り合うことはまずない。それはもっと繊細な、個人的な、絶対に笑いものにされてはならない押し入れの中の支配の夢である
ということで、逆に要約すると「性暴力ゲームが示す欲望は、警察や自警団に襲われたりとか、こっちがやられちゃうとかそういう自己否定的な表現を許容できまい。そこが違うのだ」ということです。
で、どうなの?
そこで逆に、ボールを投げられた側に問うのだが、こういうのって許容できないんですか?
警察や自警団にやられるとかを内容に織り込むことで、お咎めを免れると。
いや、ちょっと思ったのが、むかしの、歌舞伎、説話その他でもいいんだけど、最後はお上が裁いてくださいましたとか、悪はやられてしまいましたとか、坊さんに説諭されて仏の道に入りましたで、「善ヲ勧メ悪ヲ懲ラス」のです、を言い訳にして暴力性や差別性を売りにしつつ生き残るっていうエンターテインメント?がいろいろとあったんじゃないですかね。その流れに入ることはできるのかできないのか。
もし、問題のゲームがそういう部分を入れることで愛好者にはとても受け入れられないものであったら、佐藤氏のきれいな投げ技で一本勝ち、というところだ。もしゲーム側が「あ、ぜんぜんOKすよ。自警団にやられるとかそういうシーン追加っすね?」となれば、投げを利用して返し技、といったところか。
「表層は読み解かれねばならない」というのが今回のキーワードなんだが、やや難解な言い回しなので適当に誤読すると、三谷幸喜「笑の大学」でもそういうのがあったな。検閲官の注文にすべて答える作家。
「ご指摘のとおり、芝居の中に『お国のために』という言葉を挿入しました」
「なるほど、確かに何回も出てくるね」
「いやー、苦労しました」
「・・・で、この後に出てくる芸者の『お国ちゃん』ってのは何なんだっ!!!」
むかしから、神殿の中にはみやげ物売りがひしめく。キリスト怒る。
これははてなのホットエントリで最近読んだんだが、「宗教画とか、ギリシャ的な美をうたったことになっている中世やルネサンスの裸身画、裸像て、けっこうホントはいやらしい感覚でつくってたんじゃないか?」という視点で、いろんな”芸術作品”を見るというタモリ倶楽部の企画が放送されたという文章があったはず。
ほんとにむかしっから、表現で食っている連中はそういうアレで逃げを売っていたんだなと。
追記。思い出した。これです
http://d.hatena.ne.jp/tvhumazu/20090522/p1
しかし、お上の追及や妻の冷たい目を逃れるため、建前で貼り付けた宗教性や文学性が、回りまわって本当に荘厳なものを生み出すことがある、かもしれない(笑)。いや馬鹿にしてはいけない。上にあるように、暴力ゲームや虐殺ゲームは既に批判の回避?のためなのかどうか、とにかく結果的に、文学者をも評価させる何かの価値を成立させているのだ。らしいのだ。
というようなことをこの前考えていたのだが、文章にする前のタイムラグで、23日付で佐藤氏はちゃんと釘を刺している
・・・主人公が最後滅多突きにされて死ぬんだけど駄目? では話にもなりません。そういうのは悠久の昔から検閲潜りに多用されて、今や紋切型となったエンディングです。それをどう料理するか、が問題でしょう。
紋切型を「王道」と言い換えてやるわけにもいかないだろうし(笑)、さあこれでハードルがあがった。
(「そんなハードルをなぜ飛ばなきゃいけない」という反論はもちろん可能だが」)性暴力を肯定しないように何かの罰?なり無化をさせる方法はあるだろうか。
そこで竹熊健太郎「戦争とてえま」
サルまんの中で出てきた参考作品。
たけくま氏といえば、ネットでも活躍している人だし、画像をこう張るのも本当に申し訳ないんだが・・・でもこれ、検索しても画像も内容の紹介もぜんぜん出てこないんだ。
これはどうしても、どうしても見てもらいたい。
ほんっとにすいません。
サルまん サルでも描けるまんが教室 21世紀愛蔵版 上巻 (BIG SPIRITS COMICS)
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あわせて読みたい(これも大幅引用、ご寛恕を!)
http://d.hatena.ne.jp/sk-44/20090530/1243650209
。『シンドラーのリスト』も『戦場のピアニスト』も『ライフ・イズ・ビューティフル』も「構造的差別を前提にした人権侵害の娯楽的消費」に決まっています。実際、そうした批判は『シンドラーのリスト』に対してありました。tikani_nemuru_Mさんはどう考えておられますか。
アカデミー賞を取っているから、監督がユダヤ人だから、ホロコーストを生き延びた人だから「娯楽的消費」ではない、という主張は「俺定義」の極みです。大当たりしている映画を観に行くとはそういうことなので、『グラン・トリノ』同様、少なくとも私は娯楽的に消費しました。娯楽的な消費が問題であり人権侵害なら、娯楽的に消費した観客がいたことは映画の問題でしょうか、製作者側の問題でしょうか、それとも観客の性根の問題でしょうか。
「反差別のメッセージを含んだ教育的な内容の映画なら娯楽的には消費されない」というのは、スターリン以外の何物でもありません。山田洋次の『学校』(初期のシリーズ)を「教育的な内容の映画」と思う人も世の中にはいるようですが「構造的差別を前提にした人権侵害の娯楽的消費」以外の何であるか私はさっぱりわからない。『GO』も『パッチギ!』も『月はどっちに出ている』も『ガキ帝国』も「構造的差別を前提にした人権侵害の娯楽的消費」そのものです。
私はそれらの映画を――『学校』はともかく――『ホテル・ルワンダ』同様に「娯楽的に消費」しましたが、『ホテル・ルワンダ』同様に素晴らしい映画と思います。
追記
最初に紹介した、佐藤氏の暴力ゲームに対する評価に対しては、ここで異論が出ていました。
■どんだけ暴力ゲーム好きなんだこの人w
http://d.hatena.ne.jp/NaokiTakahashi/20090623/p3
また、ブックマークで「既に言い訳つきゲームはある」というエントリを紹介してもらった。
http://d.hatena.ne.jp/NaokiTakahashi/20090612/p1