INVISIBLE D. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

麻生太郎、野中広務、ニューヨークタイムズ

(※もとは20日の記事でしたが、夜遅くのUPだったので、こちらに移動します)


まず、元「ニュース23」デスク、元TBS報道局長で、なぜかニューヨークに戻っている金平茂紀氏の話から。
彼がブログを復活させた、という話題です。
商業サイトのコンテンツの一環となる。


金平茂紀のNY発・チェンジング・アメリカ」
http://www.the-journal.jp/contents/ny_kanehira/


私は同氏の「はてなキーワード」作成者でもあり、はてな内では彼の文章や発言をけっこう論評しているほうだろう。賛否は別にして。
ブログの復活は喜びたい。
わたしは早速「はてなアンテナ」に加えたが、皆さんもお勧めする。
※ツッコミどころが多いからね


これを紹介するエントリを書こうと思っていたが、時間がなくてかけなかった。
そして今回、残念だったのが、そのエントリから、「おや興味深いネ、紹介せねば」と思いつつ時間不足で書けなかった話があったこと。
「仕事から戻ったら書こう」と思って、現にいま書いているのだが、午後四時すぎに一報を伝えた2ちゃんねる「ニュース速報+」板より遅れたのが悔しい(笑)。

さて、その話題とはこれ。当道場本舗が、真っ先に報道したかった理由が分かるだろう。

http://www.the-journal.jp/contents/ny_kanehira/2009/01/post_4.html

1月16日づけの「ニューヨークタイムズ」紙の1面に載った、とても衝撃的な日本に関する記事についてである。おそらく日本のメディアの多くは(自分の所属しているところも含めて)この記事を黙殺しているのだが、ある意味でとても強いインパクトを与える記事だった。それは政治家・野中広務氏の「出自」=被差別部落出身という、いまだ日本社会でタブーとなっている現実にあえて触れた記事だった。ノリミツ・オオニシ東京特派員の記事である。
『日本にとっては、野中広務を政治の最高指導者に頂くことは、アメリカの選挙で黒人を大統領に選んだことと同じくらい意義を有することだったはずであろう』。こういう刺激的な書き出しで始まるこの記事は、小渕内閣官房長官を務めた野中広務氏について、次のリーダーを論議する2001年当時の自民党の秘密会議において、麻生太郎・現首相が「本気であんな人間たち(Those people)に日本国の指揮をとることを委ねるつもりなのか」と声高に発言して潰した経緯を、実名入りの政治家からの取材をもとに記しているのだ。

記事は日本における被差別部落の歴史やタブーの現実を記しながら、日本にオバマが生まれない理由の一端を探ろうとしているようにみえる。オバマ登場の歴史的な文脈を考えるうえで、この記事のようなアプローチも十分にあり得るのである。ニューヨークタイムズ紙は、ガザ報道なので失望させられることも多いが、こういう記事も1面に掲載することを心にとめておきたい。

このブログで複数回紹介、議論した話題だ。
しかしまあ、衝撃的かどうかについては、金平氏はそもそもこの文章から判断する限りは、そもそもこの話に詳しくないのか、或いは詳しくないふりをしているのか。

この問題についての論点整理はいささか当ブログのほうに一日の長があるので、それをやっておきましょう。

記事についての概要

(1)この話題は、月刊誌「噂の真相」、単行本「野中広務 差別と権力」(初出は月刊現代)に扱われている。また国会の場で正式に議員による質問、麻生太郎本人の答弁が行われている。


(2)今回NYタイムズの記事に目新しさや重要性があるとしたらただ一点。「私はその場にいた、話を聞いた」と発言する政治家が実名で登場したこと。


(3)その政治家とは、“Are we really going to let those people take over the leadership of Japan?” Mr. Aso said, according to Hisaoki Kamei, a politician who attended the meeting.
つまり亀井久興衆院議員である。

================================


ここまでが大前提。
さて、そこから少し価値判断を加え、突っ込んで論評しよう。

この記事を論ず

(A)この発言をした、亀井氏は…これはある程度仕方ない話と言えるのだが…、今現在の立場は「国民新党幹事長」。
よくも悪くも今現在の立場は野党であり、首相である麻生太郎の失脚、与党自民党の苦境を願う立場にいる人間である。(もし麻生と同じ与党議員なら、この事実関係を隠す動機が有り、野党になった人からしか聞けなくてもやむを得ないところはある)


(B)発言内容についてノリミツ・オオニシ氏は「亀井氏によれば…」という書き方のみ。複数の証言者によってダブルチェック、トリプルチェックされた記事ではないようだ。オオニシ氏も「事実とは言っていない。カメイによればそういう発言があったという、と書いただけだ。文句は亀井氏に」といえる状態。


(C)さらに今回、トーンダウンせざるを得ないのは、肝心の発言内容なのだ!!
いいっすか、記事をそのまんま引用しますよ。

“Are we really going to let those people take over the leadership of Japan?” Mr. Aso said, according to Hisaoki Kamei, a politician who attended the meeting.

Mr. Kamei said he remembered thinking at the time that “it was inappropriate to say such a thing.” But he and the others in the room let the matter drop, he said, adding, “We never imagined that the remark would leak outside.”


「ああいう連中に、本当に日本国の指導を任せていいのか?」
その会合に出席した亀井氏によると、麻生はそういったのだという。
「それは不適切な発言だったと思う」亀井氏は回想する。
しかし彼や他の人々は、この問題を提起しなかった。
「我々はこれをリークしようとか、そういうことは全く考えなかった」


(D)オオニシさん!!一番肝心なところを!!
まず「日本語→ 英語 →日本語(しかも俺訳)」だからこれも仕方無いし、周辺取材、ダイレクトな亀井証言では、記事にした以外でもっと別の証拠を掴んでるのかもしれないが、それにしても記事にした部分がこれというのはダメダメだよ。つーかまったく価値ないよ。つまり麻生がもっと直接的な言葉で言った、という記事じゃないと意味無いし、先行記事を補強もしないのだ。


(E)というのは、2001年、森喜朗首相が退陣し、次期首相が生まれそうな自体に対し、麻生太郎野中広務を「首相にふさわしく無い」と自民党の会合?で語ったというのは、それ自体は当時の政局記事としては面白いし、歴史的には無価値では無い証言だろう。
だが、あくまでもNY記事に即して語るなら野中氏を「ああいう連中(those people)」とし「leadership of Japan」への疑義を提示するってちっともおかしくない、というか、同じことを私に言えといわれたら堂々と


「ああいう連中に、本当に日本を指導させるつもりか?」


と(この記事の文章と同じことなら)いえてしまう。なせなら野中氏については
北朝鮮独裁政権との癒着、旧竹下派経世会としての旧来政治の踏襲、潰れる前の森喜朗政権を作った張本人としての責任・・・など、やまほど「ああいう連中」という風にして批判できる属性のがある。
私自身としても、2001年に聞かれたら、そういう意味で野中は「ああいう連中」であり、ダメだと言い切れた。
オオニシは「野中が首相になっていたら、バラク・オバマが大統領になったと同じ意味があっただろう」といったが、いえいえ「ジェシー・ジャクソンが大統領になったら?」という状況にこそ似てますよ、と言いたい(わかる人笑)。
ジェシー・ジャクソンに対して「ああいうやつをアメリカ大統領にしていいのか?」と言っても問題ないでしょ。


だから、亀井氏は、英語で「those people」と表現された部分がなんだったのか、はっきり言わなきゃいけない。自分の、意味の推測とかじゃなくてね。というかオオニシ氏よ、そこをはっきりさせろよ!!亀井にちゃんと確認しろよ!! そして書けよ!! それが無いから少なくともこれを展開するなら続報をまたなきゃいかんし、この記事単体としては、一連の経緯を知らなかった?金平氏のように「ニューヨークタイムズ紙は、ガザ報道なので失望させられることも多いが、こういう記事も1面に掲載することを心にとめておきたい」つうもんじゃないんである(笑)



(F)しかし、肝心なところがダメだったとはいえ、おっかけ記事をするための糸口、契機としては貴重なものだという点は認める。
国民新党亀井久興幹事長という公人なのだから、みんなで追っかけまわして、発言の確認をとり、どうせなら記者会見でもさせてもう一度公の場で、テレビ動画として「私はたしかにそれを聞いた」と言わせればいい。
もちろん「those people」とは日本語でなんだったのか、この部分も含めてだ。
それは確かに日本のマスコミがやるべき仕事だろうし、もしくは証人喚問(は全会一致原則が有り難しいが)とか、なんらかの形で議会で追及したり、亀井氏から公の議会証言ができる形にすればいい。一番簡単なのは亀井氏が国民新党の持ち時間に一般質問に立ち「私はあの場で直接聞いた。麻生総理、あなたはXXXXと発言しましたね?」と追及することだ。
ちなみに麻生は前述のとおり、またNYタイムズ記事にもあるように議会の場で発言を否定しているんだから「虚偽答弁の疑い」という公の問題にも出来ると思われるが。



(G)そしてあとひとつ。
もし事実だとしたら麻生の責任追及はもちろんだが、その場にいた議員すべてー今が与党か野党かに関係なく−2001年にこの発言を聞いておきながら、これを秘密にしていたことに対し、政治的なペナルティが処せられるべきだ。もちろん亀井氏も含めてである。今回口を開いたことで罪一等を減じるかどうかはわからんが、もう一回亀井氏に対しこの問題をジャーナリズムが問うのなら、「なぜ2009年まで沈黙していたんだ?」という話も当然、あわせて聞くべきである。
特に2005年に野党政治家になった亀井氏が沈黙を続けていたことは、証言自体の信用度にさえ影響してくる。
ある程度の麻生への親近感があったのか、国民新党自民党との再連携を視野に入れていたのか、亀井氏自身が差別感情・差別思想の持ち主だったのか、問題点を意識できないほどの単なる無知鈍感や政治センスの欠如者なのか。(どれもありえるなア)
そこも確認したい。

というわけで、今回のニューヨーク・タイムズ報道に関しての論点はこれだけあるということ。
あまりここまで熱心にまとめるブログは少ないだろうから、やっておきました。


参考文献・参考サイト・当ブログ参考エントリ

【当ブログより】
■闇の魔王、闇に消える---「野中広務 差別と権力」を読む
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20050515#p1
麻生太郎を日本の総理大臣にしてはならない。これが事実なら。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20051102#p4

■未来予想「野中広務小沢一郎によって復活する日」。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20070818#p2

麻生太郎野中広務 麻生太郎野中広務
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20070922#p4
■”麻生太郎の部落差別”説に「そんな事実はない」とするジャーナリストも(先週の週刊朝日など)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080923#p3

魚住昭野中広務 差別と権力」は結局のところどこまで信頼できるのか
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20081016#p4


【他のサイトより】
■今回のNY times記事(いつまで残っているかは不明)
http://www.nytimes.com/2009/01/16/world/asia/16outcasts.html?_r=1&scp=1&sq=nonaka&st=cse

■その記事を話題にした「2ちゃんねるニュース速報+」板スレッド(冒頭に記事の翻訳あり)
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1232436377/
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1232454215/


■[政治][メディア]麻生部落差別発言問題週刊誌記事(ホドロフスキの記録帳)

http://d.hatena.ne.jp/Jodorowsky/20080921

■「主な登場人物」(ホドロフスキの記録帳、上の関連記事)
http://d.hatena.ne.jp/Jodorowsky/20080921#1221967320


ウィキペディア野中広務
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E4%B8%AD%E5%BA%83%E5%8B%99

■この問題に関する国会質疑( 第162回国会 総務委員会 第3号平成十七年二月二十二日(火曜日))

http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/162/0094/16202220094003a.html



【書籍など】

野中広務 差別と権力 (講談社文庫)

野中広務 差別と権力 (講談社文庫)

あと一つ、オオニシ記者のそもそものストーリーについてだが

なるほど、野中氏は日本のNo.1、総理大臣には(出自が理由で?)なれなかったとしよう。
しかし、官房長官−−日本の大臣に等級のようなものはないが、多くの総理大臣不慮の時は臨時代理になるので、そこから類推すればNo.2−−の地位に、野中は1998年に就任した。
コリン・パウエル氏がホワイトハウスNO.3、議会を含めれば大統領不慮の事故時の権力継承順4番の国務長官に黒人で初めて就任したのは2001年。
今回のオバマ就任以前は、日本のほうが先を行っていた・・・ということになるのではないか(笑)