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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

かつて同じ海難事故で、声価を高めた海上自衛隊もありき。(阿川弘之随筆より)

ひとつぐらいだけ書いておこう。
今日、ベトナムカイジが、いや海自がまた衝突事故を起こしたと聞く。
第一報だけなのでどっちが悪いとかは聞いてないが、失態であることは間違いない。

ところで、こっちと、さらにこの前の事故はあまりにも深刻なので書くのをはばかっていたが、こういう形で事故が続くと、別の意味で何かの助けになると思うので、紹介しておこう。
これは阿川弘之文芸春秋巻頭随筆が(私にとっては)出典であることは間違いなく、コピーもどこかに保存しているはずなのだが、探すのが面倒だ。
しかしネット時代、詳しいテキストは覚えていなくても、「それが存在する」ことと「キーワード」さえ覚えていれば簡単に見つかるものだ。
ほら見つかった。

http://kara-sen.cocolog-nifty.com/buntai/2006/06/post_a600.html

七月五日早朝、マンハッタン西海岸ハドソン河沿ひのピアに繋留中の「かしま」の横へ、七万噸の「QE2」が入港して来た。その朝ハドソン河には2ノット半の急流があって、流れに押された巨大な客船はあれよあれよと言ふ間も無く、右舷前部を「かしま」の艦首部分へこすりつけた。ぐぐッと強い衝撃が艦内を走り、鉄パイプが折れ、塗装の剥げ落ちる被害があつたが、双方怪我人は出さずにすんだ。

 隣のピアへ接岸後、「QE2」の機関長と一等航海士が船長のメッセージを持つて「かしま」へ誤りにきた。応対に出たのは練習艦隊司令官吉川栄治海将補と「かしま」艦長上田勝惠一等海佐の二人、「幸ひ損傷も軽かつたし、別段気にもしてをりません。エリザベス女王陛下にキスされて光栄です」
 相手の詫び言に対し、上田艦長がさう答へた。これが大評判になつた
。日本では「ヨミウリ・ウィークリー」が大々的に取り上げたし、ロンドンでも「タイムズ」や「イブニング・スタンダード」が、小さいながら記事にした。現地のニューヨークに於いてはむろんのこと、日本のネイバル・オフィッサーのユーモアのセンスを評価する声が高かったといふ。(中略)
 普通ならニュースにもならぬ小事故で、「かしま」は大使五人分ぐらゐの国威発揚をしたとの賛辞もあつたさうだが、これは吉川司令や上田艦長のあづかり知らぬこと。ましてや口にはせざること。「サイレント・ネイビー」の伝統と古き良き時代の帝国海軍の、「ユーモーを解せざる者は海軍士官の資格無し」の心構へとは、海上自衛隊の戦後生まれのオフィサーたちにも、きちんと受け継がれてゐるもののやうである。

これは国家の「ジョーク力」である。
なにしろ初出は国民雑誌「文芸春秋j」巻頭コラムだから、多くの人の目に触れていたはずだし、一部ではかなり有名な話だからここでわざわざ紹介するまでもない。

問題は、彼我の差はぶつけたぶつけられたの違いではなく、危機と非常事態に臨んでの…ユーモアとはいうまい、その前提となる、自己を客観的に見る視点の有無ではないか、ということである。
伝統も国際的評判も、壊すのはいとたやすい。
以上。

【付記】コメント欄より。

矢野もののふ 2008/03/05 13:23
阿川さんの文章に登場する練習艦隊司令官吉川栄治海将補」とは、誰あらう、現在の海上幕僚長ですな……。

gryphon 2008/03/05 18:34
それじゃダメじゃん(笑)!! いいオチついちゃった。