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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

毎日新聞「発信箱」二題

発信箱:女系・男系=青野由利
 各国の「科学力」を比較するのによく引用される調査がある。成人が同じ11問の正誤問題に答える内容で、日本は13位。「科学技術予算を増やしてきたのに、これでは」と財務省の担当官に突っ込まれたこともある。

 成績の悪さを擁護するつもりはないが、気に入らない設問もある。たとえば「赤ちゃんが男の子になるか女の子になるかを決めるのは父親の遺伝子」という問題で、正解は「イエス」だ。

 女性の性染色体はXが2本で「XX」、男性はXとYが1本ずつで「XY」となる。子供は性別によらず母親からX染色体を受け継ぐ。父親からXをもらうと女、Yをもらうと男という点では設問は正しい。

 だが、母親の遺伝子がなければ女の子も男の子も存在しない。設問はわかりにくいだけでなく、Y染色体の「過大評価」と思うのは、考え過ぎだろうか。

 「女系・男系」論議にもY染色体は持ち出された。確かにYは父から息子へと伝わる。一方で、人間には女系の遺伝子もある。細胞質にあるミトコンドリアの遺伝子で、娘も息子も母から受け継ぐ。これを利用して人類の祖先の女性がアフリカにいたと指摘したのが「イブ仮説」だ。

 思わず「どちらがえらいか」比べたくなるが、意味がない。人間にとって重要な遺伝子のほとんどは別の染色体にある。XとYが共通の染色体から進化したことも最近の研究でわかってきた。

 女系天皇も認める皇室典範改正案は見送られたが、いずれ議論は必要になる。その時に「男系の意義」を語りたいのなら、生物学は得策ではなさそうだ。(論説室)

毎日新聞 2006年3月5日 東京朝刊

ご老公の出陣 山田孝男
 重役を決める人事だというのにトップの執念が伝わってこない。前原民主党は浮世離れしているとつくづく思うが、73歳・渡部恒三国対委員長は新鮮だった。左右にお供を従えて国会内をあいさつ回りの途中、「水戸黄門みたいですね」と冷やかされ、「由美かおるがいなきゃダミだなァ」と破顔一笑会津弁が堂に入っている。

 TBSの時代劇「水戸黄門」に由美かおるが初めて登場したのは86年4月。渡部氏が自民党国対委員長に就任したのが87年11月である。そのころ私は政治部の渡部番だった。議員宿舎の渡部氏の部屋を夜回りする番記者の間に「テレビでマゲものを見ておられる間は話しかけてはいけない」という不文律があった。褞袍(どてら)(和服の部屋着)にたばこの主人が由美かおるの活躍を見届けると取材が始まった。

 当時は竹下内閣で国会の焦点は消費税法案だった。結局成立するが、内閣はリクルート事件で吹っ飛んだ。「かげろうお銀」だった由美かおるは「疾風(はやて)のお娟(えん)」になって今も「水戸黄門」に出ている。むかし「東北のケネディ」だった渡部氏は水戸ならぬ「民主党のご老公」となって若殿をもり立てる。

 政権交代可能な2大政党が互いに切磋琢磨(せっさたくま)するというお題目はけっこうだが、世の中は理屈とテレビ映りだけで動くものではない。高学歴でスマートで世界中の情報に通じているが、世間を知らぬこと小児のごとしという議員が増えてきた。自民党も例外ではないが、渡部ワンマンショーの民主党に比べ、百戦錬磨の老将たちの層が厚い。経験が人間観を養うということだろう。(編集局)

毎日新聞 2006年3月6日 0時00分