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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

IT関連書評二題

ひとつは転載 ひとつはリンク

ザ・サーチ―グーグルが世界を変えた [著]ジョン・バッテル
[掲載]2006年01月22日
[評者]最相葉月

 世界には二種類の人間がいる。グーグルを使う人とグーグルを使わない人だ。

 グーグルとは九八年創業、〇五年には株式の時価総額十兆円という急成長を遂げた世界で最も人気のある検索エンジンだ。かくいう私も、ニュースから音楽までどんな情報でも探せる(気がする)という期待から使っているが、本書はグーグルを使わない人にもぜひ読んでほしい。

 まず検索エンジンの変遷やライバル企業の興亡をたどりながら、デジタル世代の起業家の考え方が一望できる。彼らの目指す「完全な検索」とは何か。「意志の反映」といわれる検索がどんな生態系を作るのか。細長い検索ボックスでしかないグーグルが立体的に浮かび上がる。

 無料の検索がビジネスになる過程が興味深い。「台風」と「髪が薄い」を検索すると前者は数百万件、後者は約一万件の項目が表示される。検索が力を発揮するのは後者。探し物は育毛剤? と推測できるためだ。こんな多様な検索の動向に着目したのがオーバーチュアら先行企業。未知の客より意志ある顧客を市場に誘導する、マーケットモデルの転換だ。

 グーグルが評価を得たのは「邪悪にならない」という顧客保護の方針。広告も出稿額でなくクリック数=人気でインデックスの順位が決まる公平さが支持された。数年で検索の精度が向上したのは、五億以上の投稿で構成される国際的なメッセージングシステムなど、豊富なデータ資産を次々買収しているためという。

 検索の演算法を微調整したため順位が下がり大打撃を受けたウェブ上の靴店が紹介されるが、最近は順位や著作権、個人情報をめぐる訴訟も急増。中国では政府が禁ずる情報は表示しないという妥協を余儀なくされている。「邪悪にならない」はずの企業にグローバル経済の倫理が問われているという指摘は、IT産業の抱える深刻な弱点を突いている。

 『銀河鉄道の夜』の「地歴の本」のごとく全世界をインデックスしたいという欲望渦巻く時代に信頼は築けるか。読了後、この生態系に順応できない人や情報を無価値とみなす世界が「完全」で「公平」なのか、という疑問はいや増した。


スティーブ・ジョブズ [著]ジェフリー・S・ヤング、ウィリアム・L・サイモン
http://book.asahi.com/review/TKY200601240280.html