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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

指導者とは

衆院選挙投開票日にあたり、グリフォン・ファイルから一つの文章を取り出したい。
切り抜きゆえに何新聞の、いつの日かは分からないが、ノンフィクション作家・吉岡忍氏が書いている。



タイトルは

「まるでおとぎ話のように 〜コーヒー」

 コーヒーをいかがですか、と勧めると、老村長はカップをのぞき込み、香りをかいだあとで、首を横に振った。深いしわが刻まれた顔のなかで、目だけが陶然としていた。
 二日目の早朝、また私はコーヒーを勧めた。老人は「いらん」と言い、カップに口をつけた私に「そいつは、ほんとうにうまいのか」とたずねた。
もちろん私は「おいしいですよ」と答え、もう一度勧めたが、彼は受け取らなかった。
 三日目も四日目も同じことがつづいた。老村長はけっしてコーヒーを飲もうとしなかった。
私もむきになったが、彼もがんこだった。


 私はタイ北部の山奥にいた。トラックで一日走り、さらに十数時間、尾根やジャングルを歩いてたどり着いた山岳民族の小さな村。急な斜面に三十ばかりの高床式の家が散らばっている。家の下にはゾウやブタがいる。泊めてもらったのは村長の家だった。


【・・・・・中略・・・・・】


 私は山奥に向かうリュックのなかに、干し魚や乾パンや薬などといっしょにコーヒーを入れていった。
 朝、子供たちが谷間に降りていき、湧き水を竹筒に入れて運んでくる。それを沸かし、コーヒーを入れると、村の若者たちが寄ってきて、物珍しそうにのぞいた。私は彼らにふるまい、村長にも勧めた。泊めてもらったせめてものお礼のつもりもあった。




 しかし、老村長は首を横に振るばかりだった。五日目の朝、とうとう私は、なぜ、と聞いた。
彼の口調はおだやかだった。
もしそいつが一度飲んだら忘れられないくらいうまいものだとしたら、村は困ったことになる。村長のわしは若い者に言いつけて、何日もかかる遠い町まで買いにいかせるかもしれん。そんなことが続いたら、この貧しい村はめちゃくちゃになってしまうじゃないか

 賢者の声、知恵者の言葉、だが、それを言ったのは、そまつな家に暮らす、質素な老人だった。いつまでも忘れられないのは、そのせいである。

かれはこうも書いている。

これは、私の頭のなかにある「おとぎ話」のひとつである。
もう二昔も実際に経験したことだが、ときどき記憶の海の表面にぽっかりと浮かび上がってきて、こういう人物に出会ったことを忘れてはいけない、とささやいてくる。

全文を紹介できないのが残念だ。