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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「パッション」続き・・・事実の指摘と差別と

昨日に続いて映画「パッション」の話を。
この騒動をもう少し抽象化、普遍化すると
「ちゃんと(主観的には)資料、事実通りに描いてるじゃねーか。何が悪いんだ?」
「事実通りだ、って言ってるけど、それに触れた連中は偏見の補強材料にしてるぞゴルァ」

っていう対立部分があるんだよね。

スケールは小さいが、同じような構図が生まれた映画がある。
数年前に公開された東条英機を描く「プライド」だ。

ニューズウィーク日本版のインタビューで、記者が「まるで東京裁判のキーナン検事が、トージョーにやり込められているみたいですが?」と尋ねたら、監督は「尋問シーンは本物の記録に基づいたもの。もし検事がたじたじに見えるのなら、それは実際にたじたじだったからだ」と自信満々に語っていた。
(監督の主張については、保阪正康氏らが映画批判の文で異議を唱えているが)



また、この展開は別の場所でも最近見たなあ、と思ったら・・・、いかなる因縁か、話は町山氏らがかつて手塩にかけて育てたシリーズの末裔に多少つながる。

別冊宝島Real「同和利権の真相」シリーズ、それに反論?した解放出版「同和利権の真相の深層」また「北朝鮮利権の真相」などなどだ。

ハンナンの食肉不正事件がついに(!)勃発したこと一つとっても、あのシリーズが日本の暗部に果敢に挑み、タブーを打破したことの意義は疑いようはない。

しかし、「深層」で解放出版側が反論したことの核は、「あの本は偏見の産物だ!」「読者の偏見が補強される!」というもの。

宝島Realムックを買うやつの中に、被差別部落への偏見、憎悪を満たすための連中が「いる」か「いない」かといえば、そりゃいるだろ、間違いなく。排除することは不可能に近い。しかし、それを言い立ててムックの価値を減じられるかといったら、それも違う。

その点で「真相の深層」のほうは実にショボい内容にとどまっている。
ある種の開き直りを見せた宮崎学と、インタビュアーが後で内部から問題視されるんじゃねーか?というぐらい団体の公式見解からとっぱずれたことをまくしたてる呉智英のインタビューしか読むところが無いのだ。



だから「パッション」批判で町山氏のものが興味深いのは、もう一度「事実」に立ち返り、メル・ギブソンが捨てた事実から思想を浮き立たせたことだ。掌の釘や、実際は横棒だけしか運ばない十字架を丸ごと稼ぐのは視覚効果(笑)としても、俳優の人種選定には、監督の思想が大きくかかわったことは隠せない。

アラム語の字幕つきなどというハリウッド的には暴挙を押し通した監督が、白人をキリスト役にしたのは、かくあってほしいとの願望の表れなのだろうか。

事実が偏見の培地になる。
それは時には、覚悟しつつ進まねばならない部分もある。
しかし、そこにもおのずから優劣は生まれる。