(社説)馳知事の発言 招致の闇を放置するな
2023年11月21日 5時00分
これも五輪招致活動をめぐる闇の一つではないか。うやむやにはできない。
13年に開催が決まった東京五輪・パラリンピックの招致をめぐって、石川県の馳浩知事が、高額のアルバムを作り、投票権を持つ国際オリンピック委員会(IOC)の委員におみやげとして渡した、と講演で話した。官房報償費(機密費)を使ったとも説明したという。馳氏は当時衆院議員で、自民党の東京五輪招致推進本部長を務めていた。
当時のIOCの倫理規定は、招致活動でおみやげを贈ったり、もてなしなどの便宜を図ったりすることを厳しく禁じていた。招致側とIOC委員が会うことも制限されていた。長野、ソルトレークの両冬季五輪の招致をめぐって買収を目的にした腐敗行為が横行し、IOCへの信頼が失墜したのがきっかけだった。
知事の発言が事実なら、倫理規定に触れる行動である。一方、このような重要な問題でもし事実でないことを言ったとすれば、政治家としての資質を決定的に欠く。
アルバムは1冊20万円で、100人余りの委員全員分を作ったという。当時の安倍晋三首相からは「五輪招致は必ず勝ち取れ」「金はいくらでも出す」「官房機密費もあるから」とも言われたという。馳氏は本部長として、そうした行動はできない、といさめるべきだったはずだ。
馳氏は今回の発言を撤回したが、「文科省から指摘があり、私自身の事実誤認に基づく発言だった」として、詳細な理由の説明を拒んでいる。IOCの倫理規定についても「規定を踏まえて招致の対応をした」と繰り返し、説明責任を果たしていない。どの部分の何が事実誤認なのか。ルールをどう理解して行動したのか。一向にわからない。
招致をめぐっては、東京都と日本オリンピック委員会(JOC)が作った招致委員会による買収疑惑が16年に表面化した。国内では弁護士らの調査チームができ、フランス当局が贈賄容疑で捜査を本格化させたが、金の流れなど実態は解明されていない。
機密費はほとんどその使い道が公開されていないが、どんな使い方をしてもいいわけではない。倫理規定に触れる行為に機密費が使われたのかどうか。東京都やJOCは、政府や自民党の考えや行動をどこまで知っていたのか。どんな協力体制だったのか。
政治部門で招致の中核にいた人たちがルールを無視していたのではないかという重大な疑惑だ。馳氏だけでなく、かかわった関係者すべてに、説明を果たす責任がある。
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