唐突だろうが、説明は後回しにする。
ポテトチップス!
ジャガイモを薄切りにし、超高熱の油で揚げて塩などをまぶしたこの料理は、瞬く間に日本を席巻した!!それを売り出す企業も綺羅星の如し!
カルビーが赤く輝く太陽なら、湖池屋は静かに輝く巨星か?それぞれ違った個性で人気を集めるこれらの企業が日本のポテトチップ史を形作った!
ポテトチップスとは、そもそも何者か?
その多くが謎と伝説に包まれているがーーー。
うだるような暑さの、1853年の夏だった!
アメリカが奴隷制廃止に踏み切る契機となった、南北戦争勃発をさかのぼる8年前……マシュー・ペリーが浦賀沖にて、太平をむさぼる東洋の島国の眠りを叩き起こしたその年!!
ニューヨークの保養地サラトガ・スプリングスの格式あるレストラン「ムーンズレイクハウス」に在籍していた人気料理人……、黒人とアメリカ先住民のハーフであるジョージ・クラム!!人種差別すさまじい19世紀半ばのアメリカで、腕一本でのし上がった男が、一人の厄介な食い道楽と対峙していた!!
「おいっ、料理人!このわしにじゃがいもだけをどっさり食わせいっ!」
「ハテ…奇妙なオーダーだが…まず小手調べに、串切りにして下茹で、そこからラードで揚げて塩を振ったらどうか?」
「バッキャロ!まだ分厚いし味がしないわいっ!!」
「じゃあ薄切りに」
「コノヤロー、まだ分厚いし、生煮えだ!」
ジョージ・クラムの怒りは頂点に達した!!
「こうなりゃケンカだ!ケンカ流ジャガイモ料理しかないっ!!」
このジョージ・クラムの不屈の闘争本能が、とんでもない料理を生む!
なんと彼は、透けて見えるほどの超薄切りにしたじゃがいもをカリカリになるまで揚げ、どっさり塩を振りかけた!!
これが常識外れなのは、もともとじゃがいも料理は「ほくほく感」こそ持ち味だからで…。そして、そのクレーム気質の食い道楽者がフォークをその料理に刺すと!!「パリン!!」
「ウフフッ、見たか、これが特訓の結果生みだした…フォークの刺さらない料理!」
「このエセ紳士がはびこるアメリカの上流社会、手づかみで料理を食べるなんてことをしたら大ハジ…さあ、どう出る!」
しかし、この食い道楽男の食への執念も、また本物だった!
マナー知らずとささやかれることは百も承知で、それを摘まみ上げると!
パリッ、パリパリ!!
抜く手も見せず、瞬く間に完食!!
「ゴクリ…わ、わたしも…」なんと給仕の女性が、意を決してリクエストすると、われもわれもと、皆がこの料理を求める!
そして誰もが、激賞した!!
食道楽の男はすっくと立つと、料理人のクラムを一瞥…そしてくるりと背を向ける
「何もいわんでええ…と、とにかく、わしは客のどんなわがままにも耐え忍んで、それを上回る料理を出して見せる、ジョージ・クラムちゅう男を認めた!」
「この料理名も、保養地サラトガにちなんで『サラトガ・チップス』というのはどうかな?」
このポテトチップス発祥についてはさまざまな伝説があり、食道楽の正体もナゾに包まれている(一説には鉄道王コーネリアス・ヴァンダービルト)が…料理には夢、ロマンも必要!!!
そして、このポテトチップがアメリカで幾多の試練を経て定着後…満を持して日いずる国を目指す!!
そこからの物語は、また稿を改めよう。
(ひとまずの了)
【解説】この本を読んだの。
我々は、なぜかくもポテトチップスが好きなのか?
〈アメリカ〉の影、〈経済大国〉の夢、〈格差社会〉の波……。
ポテトチップスを透かせば時代が見える。和洋折衷の完成形「のり塩」、洋食への憧れが育てた「コンソメパンチ」、団塊ジュニアを魅了した「ピザポテト」、
ポテトチップスを軸に語る戦後食文化史×日本人論 。「新書大賞2023」第2位の『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ─コンテンツ消費の現在形』で注目の著者、待望の新刊!
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●目次
【第1章】 ジャガイモを受け入れた戦後日本 ――日本食化するポテチ
【第2章】 団塊ジュニアの胃袋を狙う ――大衆化するポテチ
【第3章】 欲望と消費と経済成長と ――プラットフォーム化するポテチ
【第4章】 下流社会が求めた“貧者のパン” ――ジャンクフード化するポテチ
【第5章】 経済の低迷とダイバーシティ ――国民食化するポテチ******************
●著者プロフィール
稲田 豊史(いなだ とよし)
1974年愛知県生まれ。ライター、コラムニスト、編集者。横浜国立大学経済学部卒業後、映画配給会社のギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)に入社。その後、キネマ旬報社でDVD業界誌の編集長、書籍編集者を経て2013年に独立。著書に『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『オトメゴコロスタディーズ フィクションから学ぶ現代女子事情』(サイゾー)、『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)、『こわされた夫婦 ルポ ぼくたちの離婚』(清談社Publico)がある。
で、このポテトチップス誕生物語は、こういう本を参考に再構成した、とある。
全体的に面白い本だったので、このブログ記事ジャンルの一つである、全体的な内容を紹介する【新書メモ】で紹介したいのだが、読むごとにこういう「プロレススーパースター列伝翻案」が脳内に浮かぶ(笑)
これでやると、一部の人には受ける一方で、書く時間が大幅に長くなる(笑)
そもそもメインは本のタイトルの通り、日本でのポテトチップ普及史で、上のエピソードはほんのマクラ、枝葉に過ぎない。
ここだけいちおう、プロレススーパースター列伝風にして、あとは普通に(後日)書くつもりではあるのだけど、実のところそっちのほうでも、脳内の『列伝』風翻案は冴えわたりまくるのだ(笑)。今は自分の脳内にしかないが…(※その後、いちおう完成しました。リンク参照)
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