書きそびれていた話を。新年号というか、今年最初のゴン格で、年末に「巌流島」で日本ヘビー級最強とも言われるシビサイに完勝したジョシュ・バーネットが、弟子のビクター・ヘンリーと共にインタビューに答える記事があった。
…のだが、最初っから「猪木」と「藤原喜明」の話、それもアームロックのバリエーションという、誘導というにはあからさますぎる話題の振り方によってマニアックさが最初からリミッター解除(笑)。
で、こうなる。
ーージョシュ選手、『INOKI&巌流島』でのシビサイ戦での勝利おめでとうございます。今日はその大会の祖である猪木さんが得意とする、そしてシビサイ選手にレクチャーした藤原喜明さんの「ダブルリストロック」について伺いたいのですが......。
ジョシュ 「ああ、藤原さんは片手を使ってのバリエーションを駆使するやり方をするよね。手首を持たずに手の甲を持っている。というのは、両手を一緒に合わせられない場合、この片手の組み方はすごく強力な方法だ。手首を引っ掛けるのには、本当にこう、手を回さなくてはいけないから」
―これは古くからあるやり方なのですか。
ジョシュ 「うん、そうだ。これは明確にキャッチスタイルであるけれど、異なるグリップもやはり色々使う。キャッチレスリングには、特にこういったポジションからたくさんのバリエーションがあるからね。この写真の石井(慧)さんも手首を持たずに二の腕でクラッチするアームロックを見せている」
――チョークのように極める形ですね。
ジョシュ 「そう。割と僕らとしては手全体でグリップしたい傾向があるんだけど、たまに藤原さんが好むような、ジーン・ラベールの3フィンガーグリップも使っているよね」
ーー競技によって腕絡み、アームロックとも呼ばれますが…どちらが…?
ジョシュ (略)まず木村政彦や柔道についていろいろ語る……「大外巻き込みにも使えるし、隅返しにも使える。たくさんのグリップをフローの動きでも使えるから、つまり対戦相手を攻撃するために使うといってもサブミッションのためだけではない、というのはある。とにかく自分的には、レスリングのコンセプトの2オン1という考え方が好きだ。1本の腕に対して2本の手、これが強い。もしこちらが相手の1本の腕を完璧に持ってしまえば、相手は自分をもう片方で絞めたりすることもできないし攻撃することができなくなるから」
ーーなるほど。そして、ジョシュ選手は当然、猪木さんのアクラム・ペールワン戦はご覧になっていますよね。このアームロックのポジショニングを、猪木さんは誰から教わったのだと思いますか?
ジョシュ 「おそらくカール・ゴッチではないかと思う。というのもほとんど、この試合で猪木さんがやっていたことっていうのは、たくさんのハンド・ファイティングだった。その後、猪木さんがペールワンが打ってきたりテイクダウンしてくるのを止めて…(後略)」
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猪木vsペールワン
藤原喜明の指導映像
ビクター・ヘンリーも藤原と練習したという話
レスリングはヒンドゥー教の寺院にも記録があるし、聖書にも天使とヤコブのレスリングの話がある、
……といった話を語り続けます。(旧約聖書創世記32章24,25より)
ジョシュ 「つまりだ。人類が存在するかぎりレスリングがある。古代ギリシアには古代オリンピア祭の種目としてパンクラチオンがあって、つま先と指を壊したチャンピオンが有名だろう。他の選手は踵を攻撃していたという。そんなわけで、一体どこから現代式のヒールホールドが誕生したのかを明確に答えることはできないのだが、自分が思うのは、イワン・ゴメスはすべてのシュートレスラーにも、そして日本のプロレスの、キャッチ・アズ・キャッチ・キャンレスラーのすべてにとって大きな影響を与えていることは確かだ。船木にも、藤原にも、鈴木にも、ケン・シャムロックにも、みんなにだ。かつてのパンクラスであったり、UWFだったり、藤原組を見れば常に見ることができる。みんな使っている。自分達のようなキャッチレスラー、シュートレスラーたちも、トーホールドやヒールホールドなどたくさんの技術を、柔術がレッグロックを正当に技術として許容するよりもずっと前から使ってきた、柔術を辿るとそんなに長くはないのではないかな」
ーー古流柔術にも足関節はあるでしょうし、そこに身体があれば、プロセスや形こそ違えど技術は生まれるでしょうね。
満足か?
満足したか???(笑)
ちなみに、省略したのだけど、紙面ではこの下に、双方革ジャンでジョシュがビクターをモデルに「どういうふうにアームロックのバリエーションがあるか」を計17枚の写真で紹介している(笑)
ということで、一番マニアックな部分だけ抜き出したのだけど、
ビクターはこのインタビュー時点では前戦のUFCは敗北、このあとに再起戦を2-1で制したのはご存じの通り。
その、敗戦を振り返る話の中で、ああ、こういうところで苦戦しているのか…と腑に落ちる話がありました。
ーーさて、一緒に来日しているビクター・ヘンリー選手にもUFCでの試合について伺いたいのですが、初戦ではラオーニ・バルセロスに判定勝ちし、高い評価を得ましたが、10月の前戦ではハファエル・アスンソンに判定で敗れました。
ビクター あの試合は大変だった。すごく難しかった。なかなかうまく攻められなくて。…(略)リセットさせてしまってはいけなかったんだ。要は向こうのゲームプランが的中した。彼のカウンターの攻撃は良かったし、自分に何度も何度もやり直しをさせるようなになった。一方こちらも自分が何度もまたやり直して組み立てるのが難しくてうまいかなかったから、風向きは向こうになっていくという流れだった。
ーー何度も立て直さなければいけない状況をどう打破しようと考えていましたか。
ビクター 行くしかない、戦わないといけないと思って行くとジャンプして逃げられてしまう。そしてこちらが行くぞ、行くぞってなると向こうはカウンターを出してはすぐに退いてしまう。自分としてはリセットさせずに試合を続けていかなくちゃいけない。覚えているのは、右手で仕留められそうだと思っていたこと。ただカウンターを返しては動くの繰り返しの中で向こうの打撃を被弾する形になった。その後、彼が…(後略)
そして、ビクターは、敗戦をこう総括している。
「自分は戦い、ファイトで負けたというよりも、ゲームプランにハマったというしかない。彼が格闘技という”ゲーム”に勝利するのに必要なことをこなしたまでだ。」
この話、以前読んだ流れがある…
桜庭和志だ。桜庭はアマレスもびっちりやりこんだ競技者経験もあるはずだが、MMAの試合に関しては一本勝ちに以上に拘り、判定に重きをおいてない。「判定なら負けでも勝ちでも同じ」「正直判定はどうだっていい」を繰り返し語っている。
だからこそ、実際に多くの一本勝ちをしたのだろうけど……
このスタイルは判定を落としやすくて勿体ない、という話以上に、その戦法、試合の引き出し自体が「相手が(一本)勝ちを狙ってガンガン攻めてくる。(それを大前提の上で)それに対して自分はこのように受けて、こう切り返して…」という感じのファイトに、やはり重点が置かれるのではないか。
その結果、5分3ラウンドor5ラウンドで、そのラウンドごとに「流れを切ってくる」相手に対して、どうもポイント的には分が悪くなる……という面があると思う。
それは再起戦の勝利でも、けっこう接戦に持ち込まれて2-1だったことにも表れていたと思う。
だからUFC、今後もビクターは厳しい戦いを正面突破していくことになるだろう。だからこそビクター・ヘンリーの試合は面白いのだが。