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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

意外なほど直球の法廷映画…「Winny」 雑感

まず、事件その物はともかく、映画についてはあまり予備知識を仕入れずに鑑賞した。


そこで、見る前に心配していた「そもそも裁判としても事件としてもいわゆる『動き』『画』がないんじゃなかろうか。フィルム映像としては間がもたないんじゃないだろうか」……

という懸念についてはほぼ問題なく、ちゃんと「派手なアクションはないけれど映像として楽しく見られる」法廷劇にはなっておりましたよ。

2002年、開発者・金子勇東出昌大)は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト「Winny」を開発、試用版を「2ちゃんねる」に公開をする。彗星のごとく現れた「Winny」は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていく。

もうひとつの懸念は「主役としての被告・金子勇拘置所に入れられて、主人公としては登場する場面が比較的少ない。弁護士の方にだけスポットが当たる弁護士物語になるんじゃないか」ということもあったんだが……面白いもので実際の話でもそうだったように、確かに金子氏自身はあまり目立つような言動をするでもない 、ストーリー的には受け身のままで物語が展開する仕組みだ。

しかし、ほぼ原作者といえそうな(※実は原作ではない。後述)弁護士壇俊光は、限られた交友ではあるものの、深く金子氏と心通じ合ったと同時に、目立たない言動の中でもにじみ出る「技術やものづくりが大好きで、そのために俗世間のことは頓着しないからやや浮世離れしたおかしみがある」という典型的な理系人間の魅力に気づいて、それを記憶できる才能があった。

それがなかったら、名演といっていい東出昌大金子勇像は、造形できなかったろう。


ちなみにエンディングの所で実際に、金子勇本人の生前の映像が出てくるんだが、ちょっとステロタイプの部分もあるなぁと感じた、早口でパーッと言いたいことを喋ってしまう…藤井聡太がそんな感じでもある、そういう口調って本当に金子氏自身の口調なんである。あまりにベタだと思っても、現実にそうだからしょうがないというやつでした(笑)


取り調べのところで、あまりにも金子氏が無防備に「署名」をしてもらい、それが宣誓書なのか陳述書なのか、みたいなことでかなり不利になると言う展開がある。

画面で見てて「志村 後ろ!」的に「金子 その署名!」とか言いたくなるのだが、これまた実際にあったのだからしょうがない。もし本当に1からオリジナル映画であったら「ここであっさりサインするのはさすがにご都合主義」と文句をいうところだ(笑)
※かき忘れた「暗い部屋演出問題」を追加する。






しかしこういう取り調べをして、実際に証人尋問にも登場した警察官(K刑事)というのも、また起訴した検察官というのも、その後の人生というのはあり、特に両方ともその組織の中では大きな「黒星」を背負うことになった‥‥はずである。
彼らのその後はどうだったのだろうか。調べれば分かるのだろうけど、まあ調べるほどではない。案外、その後の7年間の裁判闘争の間に定年を迎えて”逃げ切り”、そのときは悠々と、「ああ最高裁で無罪か、それは残念だったね」と微笑んでただけ、かもしれない。
朝日新聞のサイトに、何と佐々木俊尚氏が法廷の様子をルポした記事が残ってる。これを見ると、かなり忠実に再現された尋問場面のようだ。

……弁護側が反対尋問で追及したのは、この申述書が果たして、本当に金子被告の真意を写し取ったものであるのかどうかということだった。つまり申述書はK捜査官が作成したサンプルをそのまま写させられただけで、金子被告の真意がそこに本当に含まれているのかどうかを疑問視したのである。

 弁護側は、申述書に「Winnyによって著作権侵害を蔓延させた」という記載がある点について、
 「これは金子被告の書いた言葉か?」
 と質問した。これに対してK捜査官は、
 「私がサンプルとして書いた文章です」
 と回答。そして「それまでA捜査官が行っていた金子被告の聴取にずっと立ち会っていたので、その時に彼が使った言葉だったと思う」と説明した。

 だが弁護側は、……(略)
www.asahi.com

金子勇が自作した格闘シュミレーション「ねこファイト」の画像が出てきたが、あの頃も AI という言葉を使ってたのかな。いや使ってたかもしれない。何度か聞いたことがあった。その後「ビッグデータ」という言葉の方が人気になって?その後にまたAIという言葉が流行して…「ファジー」もあったな。そういえば現実の金子氏の映像の中で「IT社会」という死語も出てきて、ちょっと懐かしかった。


壇俊光に役を演じた三浦貴大……三浦友和山口百恵の間の息子だそうで(そんなことも最近まで知らんかった)。彼が上のような話を「繋げる」役目、つまり金子勇の言動にある時は驚き役を務め、ある時は驚いていたり理解不能になっていたりする周辺に開設する役に回ると言う結構難しい演技を要求されてたと思うが見事にこなした。
彼のお陰というところもこの映画は非常にあったと思います。

ITのことにはさっぱりわからないだろうけれど、アナログ的な経験値を生かして裁判闘争を闘う先輩弁護士も三浦のリアクションとって輝きを増している。

あーそうだ、自分は俳優の顔もやたらと忘れてしまうので、これは言われないと気づかなかったんだけど、「仮面ライダーBLACK SUN(このレビューもまだお預け状態だったな…)」において、『怪人たちを排除しようと訴える”排怪主義的”(うまいこといった)市民団体の代表』は彼が演じてたそうだ。

世間では安倍晋三をモチーフにしたルー大柴の怪演が注目されがちだったが、むしろ三浦の役のほうが、モデルのナントカ第一党党首との差異や類似点も含めて(笑)、もっと評価されるべきだったと思ってた次第。


あと当然ながら裁判所のシーンがたくさん出てくるこの映画。
例えば法定に入っていく中で駐車場で取材時に取り囲まれる場面、裁判所でロケができれば一発なんだけど、そういうことできたんでしょうかね? こういう司法・警察批判的な作品でもロケは自由にできればいいんだが。
それとも駐車場の場所さえ確保できれば建物外観は CG で作るとかでき るんかね?


裁判所の「中」は……これはテルマエ・ロマエ方式だったそうである。
テルマエロマエ方式ってのは「運よく、同じ舞台を描く金をかけた大作がセットを作っていたので、それをそのまま使わせてくれと頼んで、金をかけずに豪華セットになった」という方式である(笑)。運だ、運(笑)
ただ・・・・・かつて昭和の映画ドラマで何度も使い回された「東映城」のように、そもそも裁判所のセット、どこかに恒久的なものを設置して、そこに誘致すればたくさんの映画ドラマロケが来るんじゃないでしょうか?

栃木県の足利市に、渋谷スクランブルのセットを作ったら、後で壊すつもりがいろんなドラマの案件が舞い込んで恒久施設になった…という話があった…ここだ。
https://ashikaga.keizai.biz/headline/455/
https://ashikaga.keizai.biz/headline/676/

www.youtube.com





並行して進んでいた愛媛県警の裏金告発と、その決定的証拠がWInnyによって暴露されるという展開はどこらへんまでが事実でどこらへんまでフィクションなんですかね?

というのは、まさに最近の事例と繋がるけど、完全にく匿名の形で出てきた資料というのは「その資料が本物であると誰が担保するのか?」という問題があって、見つかったらいかに本物らしくても、最後の詰めがむつかしい。
その辺から考えると、 あの愛媛県警の裏金事件は、同時代的に確かにあった話だろうけれど、Winnyによって告発の一手がなされた、というのは多分フィクションじゃないかなーーと思った。事実ならすいません



ただ、匿名であるけれど資料や情報、データを分かち合えるという技術が天使と悪魔がともに腰に帯びた”諸刃の剣”であると言うことは、2023年の今まさに「テレグラム」を舞台にして再現されているのではないか。
これについてはテレグラムとは別にアメリカのリバタリアン、そして菅義偉前首相などの話も含めて稿を改めて書いてみたい。


パンフレットによると、最終盤にほんのわずかだけ登場する金子勇の姉を演じた吉田羊は、実際の姉に役作りのために話を聞いたら「弟はとにかく可愛かった!」が第一声だったと言う。本当に仲の良いきょうだいだったようである。「性格が穏やかでほとんど喧嘩はしたことがない。読書家で、興味のないことには生返事だったけど、パソコンのことになると俄然生き生きとしていました」。


壇俊光弁護士は、小説「Winny 天才プログラマー金子勇との7年半 (NextPublishing)」というのを書いている。

当然これが原作だと思ったんだが映画クレジットでは…パンフにも載っているが
「原案 朝日新聞2020年3月8日記事 記者 渡辺淳基」なのである。

これ、なんだろうなぁ?…理由はよくわからない。


最後に、京都府警が逮捕したこともあって舞台は関西なのだが、「伊丹空港を出る飛行機は上空で旋回する(らしい)が、その時バンクする(傾く)のが怖いよね」という壇弁護士に、飛行機が大好きな金子勇は「僕はもっとバンクしろよ!と思っちゃうんですけどね」と語る。
そして第1審で有罪判決を受け、敗れて意気消沈する壇弁護士に、これから空港で飛行機乗り込む金子氏が「戦いはこれからです、もっとパンクしましょう(リスクを気にせずガンガン行こう!)よ」 というところが印象的でした。

これはもちろん象徴的な意味もあるんだけど、それ以上に「伊丹空港では発着の飛行機が旋回してその時にパンクする」という単純な事実を飛行機好きの皆さまにお届けしたい(笑)。
いや自分は飛行機なんて、飛んで目的地に着けばいいだけなので、好きも嫌いもない。パンクしてもしなくてもいいんだけど(そもそもそんな飛行機に乗る機会がない)





あ、それから最後の最後。
この映画って、なかなかマイナーな題材なのによく映画化されたと思ったんだが、これもパンフに書いてあったところによると


2018年2月、まちフェス『ホリエモン万博』の一環として…クラウドファンディングサイトを利用して、映画制作を目指すクリエイターたちが企画をプレゼン、そこでグランプリに輝いた…ということらしい…。

realsound.jp
…第一部は映画企画を応募するクリエイターに実際にクラウドファンディングを使用して応募者に資金調達させて競いあう「映画企画クラファン大会」を実施。期限以内で応募した企画で一次選考を通過した上位5組は、映画祭当日、400名の聴衆と審査員の前でプレゼンを行い、審査員による投票でグランプリが決まる。グランプリには、and picturesから映画制作サポートとand picturesの作品「SHORT TRIAL PROJECT」の1作品として、映画として実績に残すことができ…

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これは一回だけの企画だったんだろうけど、もっと頻繁に「映画企画を公開でプレゼンし、クラウドファンディングにもつなげて製作を後押しする」という後継のイベントがあればいいなと思いました