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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「漫画家の選挙出馬」で、本宮ひろ志が参院出馬目指したルポ漫画「やぶれかぶれ」を緊急紹介。

赤松健先生が、参議院選挙への出馬意向を表明している。自民党から。


https://nordot.app/844165433745555456nordot.app


この機会にせっかくだから(どさくさ紛れに)言っとくけど、赤松氏の描く漫画ってどれも面白くね…いやいや「Not For Me」と言わなければいけない。ノットフォーミーの国からノットフォーミーを広めに来たようなものだったな。
…と言いつつちゃんと読んでるのか、といえば、記憶も曖昧なぐらいに読み流した気がする。なんかハンターハンターみたいな明朗快活の少年の冒険譚だったと思うけど…印象にも記憶にも残らなかったなあ。


とはいえ! 「マンガ図書館 Z」 という広告と組み合わせた画期的な取り組みによって、普通だったら読まれない古い絶版作品や、ちょっとした読み切りなどが、衆目に触れる機会というものができた。これ一つだけで文化的恩恵を大きく被っている。
www.mangaz.com

そのお礼をいうついでに、「作品が not for me だった」という必要もないんだが言っておきたかった(笑)。あ、あと久米田康治にさまざまなネタを提供してくれたことも感謝(笑)

さて本題。

そんな人気漫画家の選挙出馬表明で、一躍ある作品に光が当たりました。

それは本宮ひろ志の問題作「やぶれかぶれ」。

覚えてる人がいたりいなかったりだろうけど、サラリーマン金太郎などで平成になってもヒット作品を生み出したこの大御所は昭和後期、参院選に出ることを真剣に検討、それを自らルポした漫画を天下の「少年ジャンプ」で書いた。


それがやぶれかぶれ。

この漫画(全3冊)を、蔵書から持ってきていろいろ紹介してみよう… と思ったのだが!
あー、例によって……持っているはずの蔵書も、ぐちゃぐちゃに保管して必要な時に取り出せないのでは持っていないのと同じなのだ。

見つかったのは、2巻だけ!!ちくしょう。


でもいいや、この2巻は一番面白いところであるし、本当に3巻ぜんぶを紹介してたら時間がいくらあっても足りない。天の配剤だと思って、この間に集中する形で作品を紹介しよう。



ただ作品の全体像、コミックシーモアさんの紹介文が非常によくわかる。

やぶれかぶれ 1巻
通常価格:
500pt/550円(税込)
男の中の男を描き上げる漫画家・本宮ひろ志が、自分自身を主人公にして政治家を目指して行動していく姿を描いたドキュメンタリー作品。休筆宣言をしてからゴルフ三昧の日々を送っていた本宮ひろ志は、町を歩いていた不良学生の言葉を聞いて一大決心をする。それは参議院選全国区に…(後略)


やぶれかぶれ 2巻
通常価格:
500pt/550円(税込)
(略)……・しかし、本宮の家に来た旧知の刑事・ゴリラは、それは事前運動で選挙違反になると告げる。そこへ、衆議院議員菅直人の秘書であり、本宮の軍師となるべく名乗りを上げた湯川が、比例代表制の話を(略)


やぶれかぶれ 3巻
通常価格:
500pt/550円(税込)
(略)……各党首へ手紙を出して、意欲的に行動を起こしていく本宮だったが、比例代表制という難問にぶつかってしまう。そんな中、ついに本宮は田中角栄との対談を実現して……!? そして、本宮がする決断とは? 政治を深く考えさせられる画期的な作品がついに完結!
www.cmoa.jp



・とりあえず箇条書き的に。


1巻を書き始めた頃、本宮ひろ志は「男一匹ガキ大将」「硬派銀次郎」「俺の空」などのヒット作を描き、経済的にも世間的な地位でも、相当のものを築いた上で「休筆」を宣言し、ゴルフなんだと遊び呆けていた。同時に「ドクタースランプ」「キン肉マン」「ストップひばりくん」などが人気の「今のジャンプ」で、自分が戦えるのか?と言うコンプレックスも抱えていた。

本宮ひろ志の政治ルポ漫画「やぶれかぶれ」

そこで思い立ったのが「自ら参院選全国区(後述)に出馬し、その要素を同時進行ドキュメンタリー漫画という形で描く」というものだった。

ジャンプ編集部はこの奇想天外な発想に呆れながらも「ひょっとしたらものになるかもしれない。何しろあの本宮ひろ志だし…」と恐る恐るながら、それにゴーサインを出し、本当に始まってしまったのである。


・ここで当時の本宮ひろ志さんの立ち位置を考えてみよう。いや自分もリアルタイムじゃわからず、後から知ったこともあるけど……
個人史的なことを言えば本宮ひろ志という人をこの「やぶれかぶれ」で知った人間としては、その後何だかジャンプで描いた型破りの不良ものや、歴史ものは…「赤龍王」は好きだったが「天地を喰らう」「ばくだん」などはうーん、面白くない、と正直思った。

だが「男一匹ガキ大将」は、ジャンプを「大ジャンプ」たらしめた大功労者であり、その過去の功績を考えたら無下にはできないお人だった。さらに言えばその作品などは「相場師」とか「喧嘩による全国制覇」などを描いてる関係で、やはりあしたのジョーのような形で、少年誌だけれども大人のファンも多く…「俺の空」ヒットも含めて、普通の漫画会場に「大人社会」での名士としても扱われていたようなのだ。
これも後述するが、そもそも交友関係がすごい。やっぱり客観的に、人脈づくりと言うか偉い人との付き合い方がうまい、というか、派手な社交を楽しみ、また実際にそういうところで著名人に「あいつといると楽しいな」と思わせる何かがあるんだろうなあ。


2巻も「本当に参院選に出るか悩む、周辺に反対されるので旅に出た」という設定で、北海道の旅を描くところから始まってるんだが、おそらく意識して「大物なおれの、セレブな交友録」を描いたんだろうな。

本宮ひろ志の政治ルポ漫画「やぶれかぶれ」

ただリアルタイムで読んでいた子供の目でいうと、登場する松山千春とかジャンボ尾崎とか、どれぐらい大物なのかわからなかったので、猫に小判である。

ただ、ゴルフをして遊ぶ彼らが、おそらくマナーの面では最低だろうということは伝わってきた(笑)。その一方で大人にこれだけ楽しんで遊べる、少年のような人達なんだな、ということも伝わってくる。

いや実際の話として、漫画史的にも「主人公『俺』を本格的に動かして、現在進行形のドキュメンタリーとして描く」「漫画界の裏側、業界楽屋ネタ話、漫画家の家庭生活などをやや自虐コメディ的に描く」 という面でも1980年代半ばのこれ、かなり先駆的なんじゃないかな。(漫画史に詳しい人にこの辺分析してほしい)


特に印象に残っているのが、本宮と師弟関係にある宮下あきら氏の登場場面だ。
この前、兄と話していたら2人とも、これ覚えていて、笑ったのだよ。両方とも覚えてた


「宮下 お前「極虎」の原稿ちったあ早まったんかよ  大して人気もねえで 原稿遅いと クビ切られっぞ」

「大丈夫ですよ まだ俺より人気のないの いっぱいあるから それに「極虎」あかんかったら「毘沙門高校」やるもんねワシ…」

本宮ひろ志の政治ルポ漫画「やぶれかぶれ」

ちなみに本当に宮下あきらはこの後毘沙門高校を連載したが、ろくな人気取れずに終わりました(笑) 。次に「ボビー ザ グレイテスト」、これもだめ。しかし「魁!男塾」で、…当初の路線を変換し、臆面もなく「ジェネリック北斗の拳」路線に切り替えて見事に人気作品となったというわけです。

余談を思わずかたっちゃったけど、こんなとんでもないやり取りがジャンプの中で語られるということ、それ自体が面白かったわけだ。いまの「ロボ子」も「ウィッチウォッチ」も鼻たれ小僧。



政治の話…してないな。
ここでようやく、政治とからんでくる。
それはその後、総理大臣にもなる菅直人と、その秘書。
実は彼らと本宮ひろ志は……かちて、70年代の不良・極道エンタメは、下火になろうとしていた学生運動と不即不離の関係にあり、例えば学園祭で本宮ひろ志が呼ばれる、みたいなことで 接点があったらしい。

彼らが出馬しようかどうか迷う本宮を、後押しするべく知恵を絞る……のだが、ここで「選挙に出るまでをマンガで描くとしたらそれは事前運動で、違法なんじゃないか?」「そもそも参議院全国区が、有名人に有利な個人での出馬(これで石原慎太郎青島幸男も政界に打って出られた)が認められず、政党でしかやれない『比例代表制』が導入されるのではないか?」

本宮ひろ志の政治ルポ漫画「やぶれかぶれ」
本宮ひろ志の政治ルポ漫画「やぶれかぶれ」

みたいな問題が出てくる。それを巡っての、あれやこれやの議論、対策の検討、そして「秘密の計画」を打ち明けられるなど、さまざまに激動が始まる。


ただ、本宮がうまかったのは、ここで一旦すっと身を引いてクールダウンし、「自分が選挙に出る出ないはともかく、若者に政治を分かりやすく伝えるために各党の党首に会いたい」という展開に持ち込んだところだ。ジャンプお得意の路線転換ともいえるが、この「党首インタビュー」は、実際教科書的な知識はあったが「政党政治/政治家」なるものに全く疎かった小学生に、とんでもなく過剰な程の情報を与えてくれて、これと一緒に見ていた「TVスクランブル」のおかげで、すっかり政治政界の基礎知識を身につけ、新聞の政治欄も楽しく読めるようになったから久米宏とともに、その恩は計り知れない。

この時の土台の上に、少なくとも同年代と比べると常に、ずっと政治社会への関心・知識が豊富だった。それがなかったら、このブログだって多分書いてないんじゃないかと思う。


このとき、各政党の党首には本宮が直々に手紙を書き、面会(取材)を要望した。そしたら次々と OK が出たのである。

本宮ひろ志の政治ルポ漫画「やぶれかぶれ」
本宮ひろ志の政治ルポ漫画「やぶれかぶれ」

それは当然、本宮が社会的名士であり、少年ジャンプがまだまだ漫画の社会的地位は低いとはいえ250万部の発行部数を誇っていたからであるのも事実だけど、「政治家は人に会うのが商売、みんな一票持ってるんだから、こちらが『会いたい、語りたい』といえばけっこうチャンスがある」というのも事実だろう。
今の社会運動家や、体当たり取材系ユーチューバーなども大いに学ぶところがあると思う。


当時、ラスボス中のラスボスだった田中角栄の金権腐敗を批判していた新自由クラブ田川誠一代表はじめ、自民党の広報委員長(今河野太郎がやってるよね)とか、社民連田英夫代表とかもそれぞれ面白いけど、何と言ってもすごいのは当時の公明党委員長・竹入義勝と面会した時の話だ。

子供の頃は、何か剣呑なことを聞いてる言ってることは伝わったんだけれども、どういう意味があるかはわからなかった。今再読したら、戦慄するしかない。

まず最初に「実を言いますと僕は選挙権を持って以来14年ずっと、衆議院では竹入義勝と書いて投票しているんですよ」「小学校1年の時以来創価学会なんですよ僕は。」「大丈夫会員でありながら疑問を大いに持っている人間です、そういう点からも話を伺いたいと思います」・・・・・・


おい。
これを。
かくか?


赤松健氏は、
これと同じことが

できんのか?
(いやそもそも「やぶれかぶれ」みたいなことする必要があるわけじゃないけど)


で、公明党の当時の防衛政策が

自衛隊は認めていない
・だが領土保全能力は必要だ
・それはレーダーとミサイルに全力をかけるんです。軍艦も戦車も潜水艦もいらない。

やぶれかぶれ 本宮ひろ志 公明党と当時の防衛論、ミサイルだけで守る

と言う、ちょっとどうかと言うクオリティーだったことも興味深いんだが…



「うちの母親も、池田大作会長のスキャンダルや、大石寺とのゴタゴタでかなりショックを受けています」
「嘘だとしても、あそこまでマスコミにかかれ つけ込まれた池田名誉会長の責任というのは大きいのでは」

本宮ひろ志の政治ルポ漫画「やぶれかぶれ」

これに竹入が答える……
子供の頃はもちろん全然わかんなかったけど(周囲の大人にこの辺のこと聴きまくったなぁ。回答する方も困惑するわな、小学生に聞かれる池田スキャンダル問題なんて(笑))、今となっては、「とんでもない事やってのけたな 本宮ひろ志」と脱帽するしかない。

本宮ひろ志の政治ルポ漫画「やぶれかぶれ」

・・・・・・・・・そんな幕間に、本宮ひろ志が銀座のクラブで偶然、石ノ森章太郎(当時、「石森」)&さいとう・たかをと出会い、忠告を受ける場面がある。こんな偶然が本当にあるのか、というところを少し疑念に持つところもあるが、ただその内容はシンプルだけれども深い。

本宮ひろ志の政治ルポ漫画「やぶれかぶれ」

ここからちょっと前にネットで話題になった
「人気漫画家さんに聞きました、本宮ひろ志参院選出馬は是か非か?」アンケートに繋がってるんです、単行本では。これね



で、まあそんなこんなでこの「党首インタビュー」から、最後のボス「田中角栄」に会えるか?会ってルポ漫画をジャンプで描けるのか?に話の着地点が置かれ、そしてめでたく色々なチャンネルが動いた結果、田中角栄の漫画ルポは実現した。

途中、「本当にこいつらをオヤジに会わせていいのか」を判断したのが、のちに田中事務所を辞めて(田中真紀子と揉めたのだ)政治評論家として人気が出た早坂茂三
この当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった彼のイキリ具合がけっこう見ものなんだけど(笑)、結局そこでも OK が出て…本宮ひろ志の、田中角栄面談ルポに到達したときは、一般のテレビニュースでも報じられたと記憶している。


この時田中が、漫画というのもなかなか大したもんだ、というので例に出したのが「日曜夕方にやってるサザエさんをみんなが見てる」なんで、まあそういう時代でしたな。
麻生太郎は、この時、議員だったろうか。



ただこれが実現した後、結局本宮は、選挙制度が「比例代表制」に正式に決まったこともあり、参院選出馬は見送ったのだった。彼の目白邸訪問ルポにはいろいろ反響があり、それは批判的なものもあった。最初に政治家として本宮ひろ志を迎え入れた田川誠一からも、やはりやや批判的な感想の手紙が届いたことが描かれている。


そしてそもそも。ジャンプでそれ以上連載を続けられるほどの人気はなかったようなんだ(笑)。

本宮ひろ志の政治ルポ漫画「やぶれかぶれ」

そんなこんなでこのチャレンジは終わる。
漫画としての商業的成功は多分入れられなかったろうが、ジャンプの社会的地位や知名度、ステータスにとってはプラスもあったろうから、果たして歴史はどう評価しているのか…

あと面白いのは、本宮と以前から面識があったはずの菅直人一派は、比例代表であっても本宮ひろ志が政界に進出できるようにいろいろな提案や工夫をし続ける。

あと、インタビューであった自民党の広報委員長も「会いたい人には誰でも会わせてあげる。総理大臣も訪問させてあげる」と、とても神対応


ただそれが、今大人の目で見ると「おっ、金も若者への影響力もあるカモがやってきた!こいつを逃すものか!!」的な、利害打算がめちゃくちゃ見えて、それが面白いんだまた。


ある意味で言えば、サバンナの群れに「あー、ここに牛肉100 kg 用意してきたわー」とでーんと肉塊をおいて、そこに近づいてくるライオンからハイエナまでを撮影するとか、「困っちゃったなー、お金1億円も余っちゃった。何か使い道とか投資先ってないかなー」とか銀座のクラブで公言して、詐欺師やホステスが群がるところを隠し録音するとか…そういうような「危険地帯でヤバい連中が群がってくる光景」を描くことにも成功しているように思えるのだ。
しかも最終的には出馬をしないで、財産も地位も失うことがなかったのだから、ひょっとしてそういう深謀遠慮のもとに周囲を転がした、巨大なトリックだったのかもしれない。



今後、赤松健氏が本当に出馬できるかどうかまだ決まってはいないようだが、できうればこの破れかぶれに負けないような、何かがアウトプットされることを望んでいます。