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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

敗れたナポレオン、流刑先エルバ島の発展のため猛烈に働く。そこには頑固な共和主義者がいて…(「覇道進撃」より)

忙しくて紹介しそびれていた、最近読んで面白かった漫画を紹介しておこう。
『ナポレオン 覇道進撃』。ほぼ史実ベースの作品。

ヤングキングアワーズ」の、今出ている号の1号前、2021年11月号だ。(読めない人はすまん、アマゾンで電子版を買うか単行本か漫画喫茶かブックウォーカーで…)


この前、この作品の「エルバ島へ近衛兵集結!」の回を紹介した時にも触れたが(自分もこの時初めて知った)、ナポレオンは最初に敗れて皇帝を退位した時、正式にはエルバ島に「流された」のでなく、名目的にも実質的にもエルバ島を支配地として認められ、そこの領主に収まった、のであります。だから近衛兵もわずかとは言え存在する。

実は自分も知らなかったんだけどエルバ島には「島流し・流刑」というわけではなく、「エルバ島の領主として赴く」という形式だったんだそうだ。

それはあの天才ナポレオンが最後まで軍事的に抵抗したら、損害は膨大なものになると戦った連合軍が痛感したこと、そしてやはり同じ”皇帝”同士をそこまで追い詰めるのは忍びない、という欧州の王族の連帯感…そしてやはり敵対したとはいえ、傑出した同時代の偉人・英雄への敬意…などが入り混じっていたようだ。
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そして正式名称も「皇帝兼エルバ島領主(あんな小島を!)」

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ナポレオン覇道進撃、エルバ島の挿話

それは外交の魔術師、タレーランの深謀遠慮……


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で、だ。そんなもろもろがあって……

こんな小島に赴いたナポレオンは、たちまちのうちに、本気でこの島の「統治」「支配」、そして「改革」に着手する。
なにやってんの皇帝陛下。

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ナポレオン覇道進撃、エルバ島の挿話

孔子だったら「鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いんや」とか言いそうなところだが、現実問題としてこの小島に、一度は欧州全体の支配にすら手が届いた男の手腕が発揮される。
異世界勇者の内政チートどころじゃない。

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ナポレオン覇道進撃、エルバ島の挿話

だが、内政ゲームでもそうだが、才能が有っても財政が無いとさあ(笑)。


本来的にはナポレオンには200万フランもの年金が保障されていたのだが、王政復古のブルボン政府が律儀にその年金を払うかと言えばそうではない。
そこで、あっち(王政復古政府)がそうなら、こっちも法を乗り越えるぞ!と、エルバ島の国営鉄鉱山の収益を接収しようとしたり、古くて商品価値のない小麦を無理に買い取らせようとしたりする。

だが、そこでエルバ島の国営鉱山を長く管理していた「ポン」という男が立ちふさがる。
この男は硬骨漢で、忠誠は王政復古の現政府でなく、さらにはナポレオンでもなく、その前の「共和主義」に殉じる男。鉱山収益をエルバ島の皇帝に渡すことも、食用に適さない小麦に金を払うことも拒否する。
そのたびに、「シーザーの再来」である軍事・政治の天才と口論になるのだが……

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ナポレオン覇道進撃、エルバ島の挿話

たいへんに読後感の良い回だ。
このへんの挿話が、おそらく銀英伝でラインハルトが自由惑星を制圧、消滅させた時に、ごく少数の同盟内の硬骨漢が、(まったく実効性はないながらも)祖国と共和主義の理念の筋を通して皇帝に逆らい、逆にラインハルトに感銘を与える、という話に変換されたのかもしれない。



で、そしてナポレオンもこのように、
「不自由な財政の中で、最後の支配地である小さい島の交通や教育のインフラを、欧州有数の水準に押し上げた」
というさわやかなエピソードをもって、偉人伝の終章を飾れれば良かったのだが・・・・・・そんな内政チートラノベで収まるには、この男の野心と才能は大きすぎたのである。

漫画も、史実も、来るべきナポレオンの、エルバ島脱出と反攻に向かって進んでいく・・・・・