忙しくて紹介しそびれていた、最近読んで面白かった漫画を紹介しておこう。
『ナポレオン 覇道進撃』。ほぼ史実ベースの作品。
「ヤングキングアワーズ」の、今出ている号の1号前、2021年11月号だ。(読めない人はすまん、アマゾンで電子版を買うか単行本か漫画喫茶かブックウォーカーで…)
この前、この作品の「エルバ島へ近衛兵集結!」の回を紹介した時にも触れたが(自分もこの時初めて知った)、ナポレオンは最初に敗れて皇帝を退位した時、正式にはエルバ島に「流された」のでなく、名目的にも実質的にもエルバ島を支配地として認められ、そこの領主に収まった、のであります。だから近衛兵もわずかとは言え存在する。
実は自分も知らなかったんだけどエルバ島には「島流し・流刑」というわけではなく、「エルバ島の領主として赴く」という形式だったんだそうだ。
それはあの天才ナポレオンが最後まで軍事的に抵抗したら、損害は膨大なものになると戦った連合軍が痛感したこと、そしてやはり同じ”皇帝”同士をそこまで追い詰めるのは忍びない、という欧州の王族の連帯感…そしてやはり敵対したとはいえ、傑出した同時代の偉人・英雄への敬意…などが入り混じっていたようだ。
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そして正式名称も「皇帝兼エルバ島領主(あんな小島を!)」

それは外交の魔術師、タレーランの深謀遠慮……
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で、だ。そんなもろもろがあって……
こんな小島に赴いたナポレオンは、たちまちのうちに、本気でこの島の「統治」「支配」、そして「改革」に着手する。
なにやってんの皇帝陛下。

孔子だったら「鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いんや」とか言いそうなところだが、現実問題としてこの小島に、一度は欧州全体の支配にすら手が届いた男の手腕が発揮される。
異世界勇者の内政チートどころじゃない。

だが、内政ゲームでもそうだが、才能が有っても財政が無いとさあ(笑)。
本来的にはナポレオンには200万フランもの年金が保障されていたのだが、王政復古のブルボン政府が律儀にその年金を払うかと言えばそうではない。
そこで、あっち(王政復古政府)がそうなら、こっちも法を乗り越えるぞ!と、エルバ島の国営鉄鉱山の収益を接収しようとしたり、古くて商品価値のない小麦を無理に買い取らせようとしたりする。
だが、そこでエルバ島の国営鉱山を長く管理していた「ポン」という男が立ちふさがる。
この男は硬骨漢で、忠誠は王政復古の現政府でなく、さらにはナポレオンでもなく、その前の「共和主義」に殉じる男。鉱山収益をエルバ島の皇帝に渡すことも、食用に適さない小麦に金を払うことも拒否する。
そのたびに、「シーザーの再来」である軍事・政治の天才と口論になるのだが……

たいへんに読後感の良い回だ。
このへんの挿話が、おそらく銀英伝でラインハルトが自由惑星を制圧、消滅させた時に、ごく少数の同盟内の硬骨漢が、(まったく実効性はないながらも)祖国と共和主義の理念の筋を通して皇帝に逆らい、逆にラインハルトに感銘を与える、という話に変換されたのかもしれない。
『こうした例に見られるように、征服者となったカイザーラインハルトは同盟の市民に対して寛大であった。
— ストライP (@11111010RR) November 25, 2020
ビジアス・アドーラ「皇帝への忠誠の誓約書とは何か。自由惑星同盟には市民によって選ばれた元首はいても、皇帝など存在しない。存在しない者から命令を受ける謂れはない。」 https://t.co/nbQzJegntG
クロード・モンテイユ「国有財産のリストを閲覧する権利は、納税義務を果たしている同盟市民にのみ帰するものだ。また政府公務員は、同盟の法律及び自己の良心に基づいて職務を行うことになっている。私とて命は惜しいが、一度公僕となった以上、ささやかな義務を果たさない訳にはいかない!」
— ストライP (@11111010RR) 2020年11月25日
帝国軍士官「この記述は何か!」
— ストライP (@11111010RR) 2020年11月25日
グレアム・エバード・ノエルベーカー「『2月11日、銀河帝国皇帝を自称するラインハルト・フォン・ローエングラムなる者、法律上の資格なくして議場の見学を申請す。』読んだ通りですが。」
帝国軍士官「…これは十分に不敬罪に値する!削除すれば、今回は不問に付して
もよいが…」
— ストライP (@11111010RR) 2020年11月25日
グレアム・エバード・ノエルベーカー「出来ません。」
帝国軍士官「削除したまえ!」
グレアム・エバード・ノエルベーカー「お断りします!」
帝国軍士官「貴様ァ!!」
ラインハルト・フォン・ローエングラム「立派な男達だ…。」』
銀河英雄伝説 本伝第3期 第73話「冬バラ園の勅令」
で、そしてナポレオンもこのように、
「不自由な財政の中で、最後の支配地である小さい島の交通や教育のインフラを、欧州有数の水準に押し上げた」
というさわやかなエピソードをもって、偉人伝の終章を飾れれば良かったのだが・・・・・・そんな内政チートラノベで収まるには、この男の野心と才能は大きすぎたのである。
漫画も、史実も、来るべきナポレオンの、エルバ島脱出と反攻に向かって進んでいく・・・・・