この前に続いて「秋本治の仕事術」から。
彼が、「漫画を描くための取材」について、いろいろ語っている。
…銃の描写も若いころは、無闇に「バン!バン!」というものでしたが、いまは 詳しく正確に、銃の性能についての解説だって入れることができます。ハーレーに乗れなかったころに描いたものは、いま考えると乗り方も壊れ方もまったくおかしなものでした。ハーレーについても「これは、300万円もするものよ」 と値段でしか表現できなかったり。それを、より正確に深い描写ができるように なったのは、まさに年の功というべきかもしれません。
いや…銃については初期から相当に詳しかったやろ(笑)、というのはおいておく。
それ以外でも、GIジョーからリカちゃんから、たしかにいろいろと蘊蓄があり、そこには取材の結果があると思しい。後期の、IT関連のエピソードなどもね
秋本先生の取材については、伝説となっているこのエピソードがある。
…スカイツリーが建てられている最中のシーンでは、工事現場を空撮したような絵が出てくるページがある。
ただ、こんな特別な場所は写真家が撮影するか、報道機関がニュース用に押さえる写真くらいしかない。
写真を構図通りに模写することは、著作権に引っかかるため、許可をとらなくてはならなかった。中野編集長は、校了の時にその点に気が付いた。
すぐに「Ⓒがないぞ!これは想像では描けないものだから写真を見ているはずだ。元の写真の許可をとらないとだめだ」と指示。しかし担当編集は「先生に確認したらOKでした」という。「いや、OKうんぬんではなくて許可がいるんだよ」と再度念押し。
秋本さんに確認した担当編集は度肝を抜かれた。「秋本先生が自分でヘリコプターチャーターして、上から自分で撮った写真でした」
中野編集長も「それはOKです」としか言いようがなかったという。
秋本さんは、こち亀の大金持ちキャラクター中川圭一巡査を引き合いに出し「そんな中川みたいな話じゃないですよ!」と苦笑い。
「たまたまヘリコプターに乗れる機会がありまして、東京を一周したんです。そのとき、スカイツリーも回ってくれるというのでパシャパシャパシャって撮ったんです」と弁明した。
www.huffingtonpost.jp
ま、ここまでなら「確かに取材は大切だよね」というフーンなご教訓なわけだが、そこで話は終わらない。
ただ、ものを知らない若さゆえの瞬発力も、素晴らしいものがあると思います。 僕はポルシェなんて触れたことすらなかったころに、ポルシェを買いに行く人の話を描いたことがあります。そのとき、見たこともなかったポルシェのキーを、 想像でめちゃくちゃゴージャスに描いてギャグにしました。 無知を笑いにつなげたのです。
秋本治の仕事術 『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由
- 作者:秋本 治
- 発売日: 2019/08/05
- メディア: 単行本
あの、ポルシェのキー!!!!!!
この話、前回書こうと思って検索したのだが、駄目だネ、ネット民、あのキーの画像が無いやんけ。
そこでこち亀に関する有識者にしらべてもらい、画像をもらった。あれだよ、あれ。未見の人は見てオドロキやがれっッ(バキ風)

- 作者:秋本 治
- 発売日: 1985/08/09
- メディア: コミック
「お金持」と書いてある。……
たしかに「想像でギャグにした」「無知を笑いにつなげた」のひとことで済むっちゃ済むかもしれないが、それにしたって、こんなギャグはふつう出てこないぞ…だいたい、これは渾身のオチとかでなく、さらっと書かれた1コマのつなぎギャグなのである。ここから、…というかそもそもの話として、このポルシェを買った人はリアルにお金持ちでもなんでもなく、渾身の覚悟と決断と犠牲で、購入に踏み切った普通の人。なので、ディーラーの前では一種「お金持ちのふりを必死でしている」のだけど、それがなぜか、心の動きをナレーションで表現している。それがまた爆笑なんだ。
これも、別に理由の説明があるでなく、「おもしろかったからそうした」以上に理由は無かろう。30巻台のこち亀は、本当にこういう密度でギャグが連続している。
本人の解説のようなことで済む話ではなく、神か悪魔が憑いていた、とかそういうレベルで分析するしかない。
そして、こち亀のこういうギャグは、おそらく無意識に、その下の世代に継承されている。ただ、部分部分に細分化されて、見つけにくくなっているだけなのだろう。
まあ、とにかく、今回は「秋本治が想像で描いたポルシェのキー」を覚えて、持ち帰ってください。