INVISIBLE D. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

資料及び特別寄稿・「蓬莱学園」の悪役「南豪君武」の人物造型と思想(中津宗一郎・文。「内海課長を継承する悪役」論の補足です)


きのうの記事で紹介した

21世紀型新悪役論〜パトレイバー内海課長」の発展形はyoutuber? 悪のキャラクターの個性、造形の過去と未来をあれこれ考える - Togetterまとめ https://togetter.com/li/1150185


このまとめの中盤部分(長くてすまんね(笑))に「悪役列伝」というのが出てきて、中津氏もかかわった『蓬莱学園の冒険!』における南豪君武と「ファラオ・ゲーム」が紹介されている。


んだけど、中津氏本人から「これだけではわからず、ちょっと説明が必要だから、少し補足の文章を送ります」との連絡と、以下の寄稿をいただいた。紹介する。

寄稿・中津宗一郎  悪役「南豪君武」(蓬莱学園の冒険!)とファラオ・ゲーム



「21世紀型新悪役論〜パトレイバー内海課長」の発展形はyoutuber? 悪のキャラクターの個性、造形の過去と未来をあれこれ考える」で言及した「南豪君武」(蓬莱学園の冒険!著者:新城カズマ柳川房彦)がわかりにくかったと思うんで補足。


この南豪君武というキャラ自身は、蓬莱学園にある武装SS(整理整頓委員会の略)の委員長で、ナチス類型の美形悪役。その意味では演出的にはある種のパターンなんですが、その背景思想の造形が20年、30年先を見通すほど素晴らしかった。

その彼が信奉していた思想が「ファラオ・ゲーム」というもので、以下のような考え方でした。

「ファラオ・ゲーム」と「オルフェウス・ギャンビット」

1:人間は死にたがるよりは、生き続けたがる動物である
2:生きるためには食べなくてはならない
3:そのために道具をつくった
4:ところが今度は道具の性能がよくなりすぎ、人口が増え始めた
5:当然、食べ物が足りなくなる
6:さて、どうするか
7:もちろん「法律/社会」をつくる
8:その結果、どうなるかというと、
9:法律の効率の良さでもって、どのタイプの法律が生き残るかの勝負になる。
10:理想主義者なら「良い法律が残る」と言うだろうが
11:実は違う:残るのは「他人をたくさん操る法律」である
12:それはたくさんの人間を、宗教や文化やら噂やらといったもので「何かに信じこませ、熱中させ、考える時間を与えずに」あやつり、動員させ、彼らが働いた結果を「自分のほうが偉いからと信じ込ませることによって」全部かすめとるシステムである
13:これを、古代エジプトの現人神王にならって『ファラオ・ゲーム』と呼ぼう
14:ファラオ・ゲームの「ファラオ」は上手になればなるほど、使われる者=駒に比べて知識の量がケタ違いに大きくなり、またこれを操作できる。
15:駒は、ファラオが何を目指しているのか、何が彼にとって『勝ち』なのかさえ、情報操作によって解らなくさせられてしまうので、勝ちようがない。
16:他の法律も、ファラオ・ゲームを前にしては、遅かれ早かれ倒されて、その駒になってしまう:なぜなら両者が対決したとき、動員効率の良いファラオのほうが結局は勝つからである。
17:要するに人類の歴史とは、より優れたファラオ・ゲームをめざす道のりであったといえる。
18:ただし、前提条件が変われば、ファラオ・ゲームはかなり簡単に崩壊する。
19:たとえば、底に穴の開いた風呂桶の水は、どうあがいても穴に流れ込むが、穴を水面よりも上に持ち上げることができれば、水の流れはストップする:水は駒、穴はファラオゲームである。
20:この時、穴を持ち上げる力を『オルフェウスの琴』、持ち上げる行為を『オルフェウス・ギャンビット』と呼ぼう

この前段の部分を利用して、蓬莱学園にあるという「地球最大の秘宝」を独占しようとしていたのが、南豪君武というキャラでした。


法治主義・民主主義では、原理的に排除しきらない煽動政治家トリューニヒトを、思想的に強化し、文明史にまで拡大したスケール観\がありました。また「動員効率」って言葉は、現在のネットでの炎上やフェイクニュースで真実を消し去ってしまうことも予見させているわけで、このあたりは新城カズマさんのSF作家としても面目躍如たるところ。


あとエンタメ作品登場の悪役は動機や目的を描かにゃなりませんが、「情報を操作することで、ファラオたちの勝利条件すら分からなくなる」=「情報的に不可知になる」というのは未だに斬新。


現実の犯罪の9割5分が、金・名誉・色欲が動機で、「FBI心理捜査官」刊行以降、日本エンタメで、サイコパス犯罪者たちの行う「「理解不能な動機の犯罪」が敷衍化されてで描いてきたわけです。さすがに25年たったら流石に手垢が付いて
きたんですよ。しかし「情報的不可知な動機」っていうのは考えつかなかった。でもネット上だけで知る人物の動機が分からないことってよくあるし。

または22世紀のAIが、シンギュラリティ的に起こす犯罪だよと思ったり。21世紀の現在のネット社会での溢れるほどの情報の真偽を判読することが難しくなっているのを、このファラオ・ゲームは今になって体感させていてカッチョいい。濡れる。


著者である新城カズマ柳川房彦による、南豪君武というキャラ

【根っからのイヤな野郎。信念のある高貴な悪ですらない。無責任と自信過剰の権化。封印に勝っていても、真っ先に自滅したはずだ。しかし、いちばん恐ろしいのは、彼の性格設定・言動(さらにファラオ・ゲームの理論そのもの)が、僕がこれまでに見聞きし、また実際に出会ってきた多くの実在の人達をモデルにしているという点である。恐ろしい道具を誰に持たせるのか、僕らは常に慎重に考えなくてはいけない】


さて他に現在、新機軸の悪を描くのが巧いなぁと感心している作家として虚淵玄さんがいますが、彼は悪を「無慈悲な法則」としてよく描く。と同時にこうした「無慈悲な法則」への対抗手段として、虚淵さんは、「自己犠牲的な献身によるシステムの更新」というタッチで現実路線で描く。《革命の女神》は成った後は、《革命の騒乱》を終わらせるために贄になるみたいな感じ。まぁ革命自体が生贄を要求するのかもしれない。


一方、新城カズマさんの方は、ファラオ・ゲーム、無慈悲な政治システムに対抗する手段として「オルフェウス・ギャンビット」という思想タームを出している。何この格好いいネーミング。ネグリの「マルチチュード」より全然古いのに(日本人的に)かっこいい英語やん。


ゲーム内では「マイノリティや異文化も許容する、共益共存思想を付与する方法」って理解していた/いるんだけど、具体的な方策は描かれていない焦燥感ちうのもあってねー。南豪君武は具体的に倒しにくい悪役として君臨しているんですよ。

  • −まぁこんなのの倒し方を描けたら、はりつけになった大工の息子が唱えた世界の人々がみんな幸せになる方法よりスゴイんだが(銀河ヒッチハイクガイドのネタ)


このブログでは、以前も寄稿を受けたことがある。

【創作系譜論】「ラピュタ的物語」を考える〜「さて次の企画は」出張版(文章は途中で、順次拡大していきます) - 見えない道場本舗 (id:gryphon / @gryphonjapan) http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20170324/p1

以来のこのブログへの、別の作家と出張寄稿と、その掲載となる。