中国と対峙する尖閣の「空」と「海」の最前線
- 作者: 杉山隆男
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2017/02/17
- メディア: 単行本
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頻発する中国の領空侵犯にスクランブル発進を繰り返し、
常態化する領海侵犯に24時間体制で哨戒活動を行なう。
激しさを増す任務の中で隊員達は何を思うのか。
「非常時」が日常となった尖閣の日々を追う。
取材開始から24年。現場の声を拾い続け、
自衛隊の実像に迫り続けた「兵士シリーズ」ついに完結!第一部 オキナワの空 第二〇四飛行隊 ライト・スタッフ オキナワの特別な一日 夜空のテールライト
第二部 センカクの海 「秘」 世界の艦船 おにいちゃん 現況ニ入ル 新妻への最初の頼み第三部 オンタケの頂き 部隊が燃える 山岳聯隊 一歩の重さ 低体温症
エピローグ 神は細部に宿り給う
あとがき
自衛隊では、この前、4人が亡くなる痛ましい事故があった。
自衛隊機墜落 発見の4人は自衛隊員 全員死亡 | NHKニュース http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170516/k10010983931000.html
5月16日 18時21分
15日に北海道の函館空港の西を飛行中に行方がわからなくなった陸上自衛隊の連絡偵察機は、16日午前、北斗市の山中で墜落しているのが見つかりました。防衛省によりますと、乗っていた4人全員が現場で見つかりましたが、いずれも死亡が確認されたということです。
実は、その寸前にこの本を読了していたので、パイロットと、その家族の「死への意識」のくだりが、何とも大きなものとして迫ってきて、心がざわついて仕方がなかった。
「あしたフライトがないときは、とりあえず、あしたは死ぬことはないな、と思いますもん」(P51)
もし自分が行方不明になったら、(自衛隊の定めた捜索期間である)一週間と言わず、5日たっても遺体が上がってこないときには、もう捜索を注視して、死んだことにしてくれ、と。
「無駄な努力はしないでいいからな」
冗談めかして言うT三佐に、妻はただ笑ってみせるだけだが、それでもまた、翌朝もいつもと変わらず玄関口で夫の肩越しに一振りの清めの塩をかけるのである。(P57)
毎朝の儀式というか、決まりごとは「行ってくるよ」と言って出かけようとする夫に、妻が必ずこう声をかけることである。
「何時に帰ってくる?」
(中略)
聞かれて、永吉一尉が「〇時くらいかな」と答えると、そのあとの妻の台詞も決まっている。
「気をつけてね」
これもまた「何時に帰ってくる?」と対のようにして、欠かさず、ずっと妻が言い続けている言葉だ。(59-60P)
上田二尉が出勤するとき、妻は必ず玄関口に見送りに出てくる。そして、いってらっしゃい、と片手ハイタッチ、を夫とかわす。それも、笑顔で。それがこの一年半、上田二尉と妻の間でかかさずつづけられている「儀式」である。(P82 )
結婚して十五年が過ぎた最近、「あのとき言ったこと、覚えているか?」と妻に聞いている。
もちろん、というふうに妻はうなづいて、十五年前の夫の言葉を繰り返した。
「もし自分たちが載った飛行機に何かあったら、十人の部下のご家族を一軒一軒たずねて、機長の妻として頭を下げてくれ」(P159)
御嶽山の救助活動は、「火山灰」「しかも積もったところに雨が降る」「灰がセメント状態になる」という前代未聞の状況だったらしい。活動できるかどうかも未知の領域。
吉沢一曹はヘリから飛び出て着地した瞬間、おおっ、と思った。ズブッ、ズブッと見る間に半長靴が沈み込んでいくのだ。分厚い層をつくって降り積もっていた火山灰がすっかり雨水を吸って、固まるちょっと前のセメントのようにドロドロとなっている。どこまで沈み込んでいくのかと不安になったら、膝の中ほどでようやく底についた。(202P)
ぬかるんでない状態でもあれだけヘリが沈むので、もうぬかるんだらチヌークでの輸送は実施できないであろうということで、どうしたら任務を遂行できるか、上級部隊から飛行隊で検討するように言われて、いろいろな案を出していったんです。(P204)
ブラックホーク…は…接地するかしないかというところまで降下して、ローターを回転させたままパワーを下げたときに、タイヤが灰の沼の中に「ずっ、と埋まる感じが体に伝わってきた」という。「これはまずいな」と急いでパワーを半分まであげて、それ以上車輪が沈み込まないように、期待をわずかに浮かせ気味にしておいた。(P205)
このシリーズはなぜ完結したのか
掛け値なしの名作だったこのシリーズだが、作者は終えることを決めた。
理由が
あとがきにある。箇条書きしよう
・2007年にはすでに、自衛隊の多くが定年を迎える54歳を越えてしまったので完結させようと思った
・いっときでもあっても山中をゆく隊員たちの訓練についていくのが無理になったからだ
・だが、東日本大震災でもう一回やろうと考え直した。それがこの本だが
今回、本当に完結とした理由は・・・・・・・・・
・過去の作品は、潜水艦に乗り込むような機密性の高い取材でも、隊員と一対一の差し向かいで話をきけた。誰も同席しなかった
・だが今回の取材では、かならず広報が立ち合い、歩く場所には基地幹部がついて回った。
・これまで行われてきた家族インタビューも毎回の恒例だったのに、「インタビューに応じる家族がいなかった」として実現せず。
杉山氏は言う。
等身大の彼らから漏れてくる囁きやつぶやきを拾い集めることが困難となっては、もはやいままでのような「兵士に聞け」を書くことはできないなというのが忸怩たる思いながら正直なところである。
こうなってくると、過去の杉山氏の「兵士」シリーズの重要性が、逆方向から浮かびあがってくる。
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