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小説「図書館霊園」〜故人の蔵書を有料で引き取り閲覧可能な本棚に置く「有料の〇〇文庫」はできないかな?という話。【記録する者たち】

【記録する者たち】(←※準タグです。これで検索すると関連記事がでてきます)
 
まず、小説で

中堅都市のやや郊外にそびえる、大きな建物。
元は郊外型スーパーマーケットで、撤退してから、今の事業を始めた業者に安く買われたものだ。だから建物自体は、かなりしっかりしている。

「あのう……」
年老いた女性と、その息子の中年男性が、この建物に入り、受付に声をかけた。
「図書館霊園にようこそいらっしゃいました。担当者が、要件を承ります」


担当者と対面する2人。
「大学教授だった父親がこの前亡くなりまして・・・・・・研究者で、自分の本をそれは大事にしていましたし、いろいろ資料も集めていましたから、本を処分するのもどうも忍びなくて…こちらでなら、本を受け入れてくれると聞きまして」

「ありがとうございます。当社ではいくつかのコースに分かれています。
1:しかるべき広さのスペースをご提供し、故人の蔵書や資料をそのまま独立した『〇〇さん文庫』として管理するコースです。オプションで机やいすなどの調度品も持ち込み可能で、料金によっては、故人の生前のお部屋にきわめて近づけたお部屋とすることも可能です。もちろん別料金で、目録などもこちらで作成いたします」
 
2:故人の蔵書と資料を「〇〇さん資料」として独立させますが、一般開架にほかの方のものと並べて管理するコースです。
 
3:故人の蔵書を、普通の図書館的な一冊として使わせていただくコースです。末尾に「XXX年〇月〇日没の〇〇さん寄贈」と貼らせていただきますが、その後破損や老朽化が進んだら廃棄することもあります。ですが、ある意味で本の「天寿」を全うさせることができます


「お値段はいかほどでしょうか」
「は、それぞれ、コースの料金は・・・・・・・」

「うっ!、・・・・・・・た、高いなあ!!」

「いやいや、そこはお考え次第です。要はお墓を立てるようなものだと考えてください。そしてお墓というのはどんな立派でも、言っちゃ悪いですが四角い石にすぎません。故人の面影って残らないですよ。でも、そういう知的なお仕事をされた人も、読書が趣味や教養にとどまった人でも、本棚や蔵書というのは驚くほどに、故人の人となりを教えてくれるものです。これまで利用されているご遺族の方も、多くが『文庫を見ると、あの人が生きているみたいだ』と喜んでくれます。それに、10年後、20年後に、若き研究者がお父様の業績や研究を調べに来てくれることだってあり得るんですよ。この前も、■■大学の院生が、博士論文を書くとしてXXXXX博士の文庫に通い詰めで調査、執筆していました。そういう方のサポートも当社は行っています」


「・・・・・・・じゃあ、あの人を記念した文庫管理コースでお願いします」
「母さん、いいのかい」
「いいのよ、あたしもお墓詣りにいくよりは、あの人の書斎の面影があるところに行きたいわ。あの人がライフワークにしてて果たせなかった12世紀のニャントロ帝国に関する研究や、ドナウ文明に関する研究も、今後誰かが研究したいと思うかも限らないし…墓石に〇〇円も使うよりは、こっちのほうがいいわ」


「ありがとうございます」


「やはり注文は、多くなっているんですか」
「そうですね、お寺から嫌味を言われるぐらいには、お墓をやめてこっちにする、という人も増えていますよ。あと、今は蔵書専門ですが、今後は『コレクション』全体に拡張する予定なんです。高値がつくほどでも、美術館や博物館が引き取るほどでもないけど、自分のコレクションを生きた証としてまとめて残し続けたい、できれば人の目に触れる形になっていたい、という要望を持つ人が増えているようですよ。こちらは価値を確認する作業が難しいですが・・・・・・」


おしまい

解説 桑原武夫蔵書処分の話から

桑原武夫蔵書:遺族に無断で1万冊廃棄 京都市が謝罪 - 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20170427/k00/00e/040/246000c

…蔵書は、和漢洋の古典や文学、哲学、風俗など。学術的価値の高い一部は京都大などが保管しているが、市は名誉市民でもあった桑原さんの幅広い関心を物語る貴重なコレクションとして88年に寄贈を受けた。

 市教委が遺族に伝えた報告によると、蔵書は当初、市国際交流会館(同市左京区)に書斎を再現した「桑原武夫記念室」で保管していた。2008年に新しく完成した右京中央図書館(同市右京区)に記念室を移した際、蔵書については市立図書館全体の図書と重複が多かった…蔵書に関する問い合わせが08年以降1件のみと活用されている状態でなかったことや「目録があれば対応できる」との判断から、遺族に相談せずに15年12月に廃棄した。

 今年2月に一般利用者からの問い合わせで判明。市教委は3月、「先生の活動のもととなった貴重な蔵書を職員の認識不足で廃棄してしまった。取り返しのつかないことになり申し訳ない」と遺族に謝罪したという。
 遺族の一人は「相談さえあれば他に受け入れ先を探せたかもしれない。『桑原武夫』という存在が忘れ去られたようで残念だ」


 
京都市桑原武夫の蔵書1万冊を廃棄 → 何が悪いの? - Togetterまとめ https://togetter.com/li/1105060

ハシビロ屋 @hashibiroya 2017-03-05 13:08:16
蔵書を図書館に残したい的な方におかれましては、博物館級の稀覯書コレクターでも無い限りは、古本屋に売ったお金を寄付されるのがよろしいかと。なんちゃら文庫として残したいみたいな、自己顕示欲は捨てましょう。
ハシビロ屋 @hashibiroya 2017-04-27 22:33:48
図書館に本を収めるとですね、まずビニカバとタグ貼りしないといけないのですわ。委託すると1冊100円くらいかかる。1万冊あると100万円。そして輸送やら登録やら保管やらで数百万円が飛びます。
寄贈する人はタダで手に入るからお得やろと思ってる。図書館側は数百万の出費。大きな齟齬だ。
ハシビロ屋 @hashibiroya 2017-04-27 22:37:05
今の図書館に突発的な数百万の出費はキッツイですよ。自治体に特別予算組んで貰わないと無理じゃないかな。で、予算出させる力の有る地方の名士(笑)ばかりが自分の名前を冠した文庫を設立する。
ハシビロ屋 @hashibiroya 2017-04-27 22:39:39
名士サマは名誉欲が満たされて黄泉路に旅立てるかもしれませんが、半分くらいは無価値で必要な所の大半は持ってる蔵書押し付けられる図書館はたまったモンじゃない。管理する司書と原資出す自治体と納税者も同じ。


ESHITA Masayuki @massa27 2017-04-27 23:55:24
わしも知人から古書処分の助言を求められることはよくあるのだが、文学全集とか画集などは、購入時の単価はバカ高いけれども、古書的な価値はゼロに近いことしばしばなので、古書店が買い取ってくれないことがあるからな。
ESHITA Masayuki @massa27 2017-04-27 23:56:45
エロ系のカストリ雑誌の揃いなんかだとけっこうな値が付いたりする。一般に、誰もが捨ててしまうようなほど古書市場では高値が付いたりするんだよな。捨てずに取っておかれるものは相対的に稀少性が低いということ。



荻野幸太郎 @ogi_fuji_npo 2017-04-27 19:31:11
資料としての価値があるのは、立派な蔵書の方ではなかったりもするので、その辺、難しいですよね。立派な本はちゃんと他でも保管されてて、地域の図書館として本当に収集・保管しなければならないのは、ゴミみたいなチラシや小冊子とかだったりするので。
見物の念仏 @nenbtunotetsu 2017-04-27 20:31:43
一般論でいえば、生原稿や手紙ならともかく、蔵書をそっくり保存するというのは相当難しいことだろうとは思う。司馬遼太郎松本清張のように個人記念館を建てて客が来る人気作家なら別だが。/桑原武夫氏の蔵書1万冊廃棄 京都の図書館、市職員処分 kyoto-np.co.jp/top/article/20…

 

(これは桑原武夫とは関係ない)
穴水町立図書館の寄贈図書廃棄 - Togetterまとめ https://togetter.com/li/1020943


ちょうどこの「桑原武夫の蔵書破棄」のニュースと前後して「(自身はともかく)蔵書の規模では日本一かもしれない渡辺昇一氏が逝去」が報じられたのだった。

渡部昇一氏逝去に際し3ツイート。/蔵書はどうなるのか・・・・・・と考えると粛然 - 見えない道場本舗 (id:gryphon / @gryphonjapan) http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20170418/p2

http://d.hatena.ne.jp/shins2m+new/20140708/p1

渡部先生の書斎に案内していただきました。

2階建ての書斎には膨大な本が並べられており、英語の稀覯本もたくさんありました。伝説の『ブリタニカ百科事典』第1版の初版をはじめ、歴代のブリタニカもすべて全巻揃っていました。ちなみに先生の蔵書は約15万冊だそうです。これは間違いなく日本一の個人ライブラリーでしょう。
(略)
渡部先生はおそらく世界一の蔵書家です。実際、10年以上前に洋書だけの先生の蔵書目録を作成されたそうですが、それを見たイギリスの古書店主たちが「これだけの質と量を兼ね備えた個人ライブラリーはイギリスにも存在しない」と言われたそうです。凄い!


実をいうと「」「自分の蔵書&コレクションを寄贈するって言ってる人がいる。だけど、提案された側にすると、ぶっちゃけそれほどのスペースの余裕もないし、その客観的価値も・・・・・・・・・」という話を、かなり具体的に聞いたことがあるのですよ。
そりゃあ、困るよなあ、という話でした。

それにね、「墓」もそうなんだけど…なんでも古墳の数って、実はコンビニより多いとか。また土葬が主流の国では、墓地のスペース問題はやっぱり深刻なんだとか。
どこかで墓じまいというか、リセットするしか方法がなかったりもするみたいだよ。


そして、国会図書館ですら・・・・・・日本で出版されたものはすべて収納する建前である以上当然だが・・・・・スペースがすべて埋まっていくというXデーは、着実に、着実に迫っていく。
久世番子の「番線」という本にルポがあるのだが、すまぬ今は見つからない。まさに「蔵書」のせいでな!!!




それと同様に、「蔵書は、知の体系の証であり、生きて思考した記録。その蔵書という固まりに意味がある」という意識は、例えば古書的には三文の価値もない(笑)、自分の本棚をぐるりと見渡したってそう思うのだ。
これを残しておきたいという意識や欲望は、ほんの少しばかりは自分にもある・・・・・・・・。

小説中に取り入れたが、
少なくとも「あなたの死後、同じお金で立派な石のお墓を立ててあげるのと、そのお金で図書館的なところにあなたの蔵書を収納してあげるのとどちらがいいですか?」という二者択一の選択を迫られたら、一も二もなく後者を選びますわ。そんな選択は迫られないだろうけどさ。


それでも、「桑原武夫の蔵書廃棄」や「日本有数の蔵書家・渡部昇一が逝去」などの報道を見て、こんなことを思い、こんな空想をした次第だ。

皆さんだったら、どうですかね?

そういえば、オタク向けに遺品の処分とかを指南する奇書「オタクの逝き方」があったはず

実際に読んではいないけど。

オタクの逝き方

オタクの逝き方

膨大なコレクションを持つオタク層。 もし、そんな彼らが不運にも突然の死に見舞われた場合、そのコレクションは文化的に貴重であっても、価値の分からない遺族は粗大ゴミとして捨てる可能性がある。 さらに、死後に恥ずかしいコレクションが露見し、遺族がさらに悲しい思いをすることがあるかもしれない。 また、現代社会ではパソコンや携帯電話は必需品だ。 ネット銀行や有料サイトなど、当人だけしか知らない情報を抱えて逝ってしまった場合、その対処方法に関してはほとんど知られていないと言える。 本書では、オタクに限らず現代社会に生きる我々が、心おきなく逝けるように準備する方法を、専門家のインタビューやマンガを交えて、分かりやすく解説します。


オタクの逝き方

オタクの逝き方