一陣の風のように世間を席巻した(それほどしてねえよ)「つり天井固め問題」
はてブや左のはてなアンテナで見てくと……
スカートはいた女性署員にプロレス「つり天井固め」 長浜署懇親会…滋賀県警、セクハラの可能性調査 - 産経ニュース http://www.sankei.com/west/news/170127/wst1701270037-n1.html
ロメロスペシャルは嫌がる相手に掛けられない - 聞きかじり、たれながし http://www.cloudsalon.net/entry/harassment20170122
獣神サンダー・ライガーが断言、女性警官への「ロメロスペシャル」は「完全にセクハラ」(スポーツ報知) - Yahoo!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170127-00000267-sph-soci #Yahooニュース
セクハラの本質 - 男の魂に火をつけろ! (id:washburn1975 / @washburn1975) http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20170127
私も参戦する用意は大いにあったのだが、忙しさに紛れ出遅れたが、本道の議論のほうは大体いうまでもなくなってきている
・異性(服装がスカート)に対して何をやっているのかという不祥事
・技としては相手が協力しないと決まらない技ではある
・ただしセクハラとは、そういうふうに権力や環境でやらせるのもあるので、物理的に無理やりに限定する必要は無い(お酌ひとつだってそうだろう)
・・・・・・・・・という、本道の話は大体上のリンク記事(&ブクマ)で展開されているし、真面目な話だからそこをどうこうもしにくい。
だから少し遅れて、本道の話が終わったあとに、以下の話をできるのは幸いともいえる
つまり、吊り天井固めと、ミル・マスカラスと、エル・サントと、それを語った梶原一騎の話をしたいのである。
はい、読者さんの一部はもう「ああ、あれのことか」とピンとくるのだろうけど、そう、その話をするのであります。
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吊り天井固めは「必殺技」ではありません。「ウルトラ必殺技」なのです。(梶原一騎は時どき、かなり独自の「ウルトラ」形容を使う)
さて、やられているのはミル・マスカラス。
ではこの技をかけているのは…? その名は”聖者仮面”エル・サント!!!
どんな人かは、資料的正確さに定評のあるプロレススーパースター列伝によると、
・神のごとき絶対の王者
・約10年間にわたって一度もフォールを奪われたことがない
・日本で言えば王と長嶋を合わせたような存在
・映画でも大スターで、まずしい少年時代のマスカラス(&弟のドスカラス)にとっては神様のような存在
・ふだんは人間嫌い
・人里離れた荒野の真っただ中に「聖者の館」とよばれる城をたててすんでいた。
・だが少年ファンだけは好きで たずねてくれば歓迎しレスリングも教えた!
そしてマスカラスは、この聖者の館でレスリングを教わった…サントのある意味弟子!
手塚治虫と藤子不二雄のような関係なのです。
しかしリングに立てばまさに勝つことこそ恩返し、全力で聖者に向かっていくマスカラスでした。
そんな全力で憧れの聖者を越えんとするミル・マスカラスに、相手のロメロスペシャルに協力する余裕などありましょうか?
まさに期待の若手が必死になって逃げようとしてもかかってしまう、恐ろしい殺人技なのです。(梶原一騎世界では)
なにしろ
・エルサントのつり天井固めからのがれたやつは過去にだれもいない
・やせがまんすると全身骨折だぞお!!(原文ママ)
・ギブアップは絶対しないと宣言するマスカラスを見て、レフェリーも「バカなやつだ…」と首をすくめるほど。
しかし!!!
マスカラスは、その聖者のロメロスペシャルから、見事脱出する!!会場は静まり返るほど。
その後は、逆に会場が大熱狂する「最高の名勝負」をくりひろげ、両者は時間切れ引き分け。藤子は手塚の…じゃないや、マスカラスはサントの後継者たることが、この一試合で決定的になった、のだといいます。
しかし、誰も逃れたもののいない、あのウルトラ必殺技から、どうやって脱出できたのか?
その答えは、…首!!!!
「強くなりたかったら首をきたえろ!!」
私は力道山、カール・ゴッチの両恩師から口ぐせのように言われた。
手や足腰が強いのは
レスラーとして当然、さらに
いわゆるブリッジ運動で首を
きたえぬいておいておくと、ほとんどの敵の
必殺技が必殺でなくなり、脱出できる。
吊り天井固めの地獄からただ一つ自由な
首の振り子運動で
マスカラスが脱出できた
のも、超人的な強さに
首をきたえていたからだ!
アントニオ猪木(談)
わかりますか?
わかりますよね。
両手両足を完璧に極めるウルトラ技「つり天井固め」…だが、見て直観的にわかるように、唯一フリーに動くのは首!!
普通のレスラーなら無理だろうが、超人的に首を鍛えぬいた一流のマスカラスなら、その首の振り子運動によって反動をつけて、あの体勢から脱出できたわけです。
女性署員ではおそらく不可能だ(笑)
そして、それを可能にしたのは、小さい頃にエル・サント教室で、まさにいまその技をかけていた偉大な男が教えてくれた教訓とトレーニング方法であった…という、一件でありました。
一から十まで嘘だけどな!!!
だってな……ここからの話はやっぱりケーフェイに触れちゃうけど、ぶっちゃけやっぱし、相手がスムーズに協力しないとかからないもんでな。
たぶん、エル・サントが本当にこの技を得意としていたんだったとしたら、それはメキシコの大物ということで、みんな必死で協力したからだよ(笑)
和田アキ子がちょっとジョークをいえば、みんな頑張って爆笑するだろ?紅白歌合戦でトリで歌えば、それが誰も聞いたことないような非ヒット曲でも、みんな必死で手拍子するだろ?
というか、もうひとつの「聖者のつり天井固めからのがれたやつは過去にだれもいない」のほう、これは案外ただしいかもしれなくて…
「相手がのがれる前に、いつも聖者のほうが疲れて技をやめていた」という可能性がある(笑)
この伝説の2検証も大体30秒ぐらいで終わっていて・・・・・・・・・
あれ、「整体編」の6分ぐらいから、首を回すというのをやってる!!
それはまあ枝葉だ、枝葉。
「(芸人には)相手の協力なしでも技がかかる」という、フォローになってないフォローをされるような、それっぽく見せるのに難易度が高い技をよりによって選んで
・それはウルトラ必殺技で
・脱出不能で
・我慢すると全身骨折!
・しかし唯一の弱点は
・相手の首だけが自由なこと
・首を鍛えた超一流レスラーならそれで脱出できる
・見事ロメロ地獄から脱出したマスカラスは、
・そのことをかつて
・いま、この技をかけた恩師から教わっていた・・・・・・・
こんな大嘘、かつ、一つの「流れるようなストーリー」を作ってしまう。それが梶原一騎なのだ!!!!!
そこに感動しませんかっ!
…しませんか。
そしてだ、いま某国の関係で、この言葉が話題になっているのだが
オルタナ・ファクトって何だ? 言葉の門番、トランプ政権にダメ出し - withnews(ウィズニュース) http://withne.ws/2k7amjW #withnews
上の吊り天井固めにまつわるセンセイ・カジワラのストーリーこそが、正しい意味での?「オルタナ・ファクト」ではないかねっ。
以前から、梶原漫画の世界は「事実ではなく、魂の真実だ」という言葉は言われていたが。
ときに、こういうのを『サスペンション・オブ・ディスビリーフ』(SOB)といふ。
くわしくはこちらに詳述した
【完全版】サスペンション・オブ・ディスビリーフ…「虚構への疑念を一時停止させる」こと。…プロレス、映画、漫画の重要要素。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20161112/p2
(略)…レスラーならどんな技をやったってかまわないし。ただそれを自然に見せることが大切なんだ。スタントショーじゃないんだから。僕はそういうのを見たいときは別にプロレスじゃなく、シルク・ド・ソレイユとか、すべてがあらかじめ台本通りに進むものを観に行くよ。僕はプロレスでは、2人のアスリートが必死で戦うところを見たいんだ。結果が決まっているものを見ているという事実を、思わず忘れさせてくれるようなもの、あたかも本当の戦いを見ているかのように思わせてくれるものを見たいんだ」
―サスペンション・オブ・ディスビリーフ(虚構への疑念をその場では忘れること)を持たせることが大切ってことですね。
(ジョシュ・バーネットと、ひねリンこと堀内勇氏の対話より)
…日本では一般的に”(小説などの)虚構を信じること”と訳されている。これ以外に翻訳のしようがなかったのかもしれない。
テリーの口ぐせの”サスペンション・オブ・ディスビリーフ ”をやや強引に日常語としてのニュアンスに変換すると、「信じない心、懐疑的な気持ち、疑問に一時停止のボタンを押すこと」となる。
もっとわかりやすくいえば、ほんのしばらくのあいだ、疑いや先入観をすててリングの上を眺めてみること。そうすると、いまそこにあるプロレスと自分の関係がはっきりとみえてくる。
(斎藤文彦)
梶原一騎がここで創作した?(といいつつ、こういう「プロレス神学・神話」は梶原氏が一から創作したとは限らず、櫻井康雄氏あたりが創作したものを受け継いだりしてることもあるみたいだ)吊り天井固めのウルトラ必殺技性と、それを破る唯一の手段…という話が、ぼくの「ディスビリ―フ」を「サスペンション」した期間は相当に長く…なにしろ、ずっと後に獣神サンダー・ライガーが実際にロメロを使い始めたときに、やはり30秒ほどで技を解くのを見て
「あちゃー、これは、このまま相手を全身骨折に追い込む、マスカラスレベルでもなきゃ、絶対に脱出不可能な技なのに!」
「形だけ真似してもダメなんだよ、山田ァ。」
「まあ、ヤマダは何でも中途半端だからな…。喧嘩芸骨法の必殺の掌底も、船木誠勝と違ってどうも本格的じゃないしな…」
という、とんでもない方向に解釈が進み、ヤマ…いや、獣神サンダー・ライガーにはとんでもないとばっちりだったことです(笑)。
この後も、この話から「リバースロメロスペシャル」の話、
そこから派生して
「ケブラドーラ・コンヒーロをプロレスごっこで使えないときは、ベンジュラムバックブリーカーをやりがち」問題、
「1994年の獣神サンダーライガー」「ライガーが柔術の紫帯を取った話」にまつわる諸々(過去記事あり)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130604/p1
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110318/p1
そこから
http://d.hatena.ne.jp/Dersu/20061013#p1
のほうなんかに話を広げてもいいのだが、ここで一応、筆をおくとしたい。(了)