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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

間違いや誤解の体験談を、いわゆる推理小説の「日常の謎」にできるか試作してみた(10/7、ミステリー記念日)

これは昨日の話。


昨年は、10/7よりだいぶ遅れたけど、この日を丸ごと使って「ミステリー大特集」と銘打ち、記事を、複数本アップしました。

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20151012
球漫画「おおきく振りかぶって」の駆け引きが、もはやミステリーの一種である件。
格闘技漫画喧嘩商売」「喧嘩稼業」シリーズも、駆け引きが、ミステリーや異能バトルの一種である件。
芦辺拓「真説ルパン対ホームズ」…パリ万博で若き怪盗、ベテラン探偵に挑戦す
日常体験はトリックに使えるか&特殊な知識はどこまでがフェアか〜芦辺拓氏の回答も収録
推理小説、輸入黎明期の物語〜岡倉天心が、ホームズ話をネタに「お銚子もう一本」をせしめる話
推理・ミステリートピックス(といいつつホームズ&ルパンばかり)


そのうち、今回のはこれにかかわっている。

日常体験はトリックに使えるか&特殊な知識はどこまでがフェアか〜芦辺拓氏の回答も収録(ミステリー特集3) - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20151012/p4

タイトルにあるように、「現実生活の間違いとかをそのままトリックにして推理小説は書けるか?」という話でして、


まあ、そういうわけで、リアルな日常生活で体験したことをトリックに使えるかというと、上の水準では難しい。
かなりたわいもない、「マクラ」的なものになるだろう…みたいなご意見を本職作家の芦部拓氏からいただきました。


しかし、逆に言えば、「たわいもないレベルではあるが、まあ一応形にはなる」ということである。
この話を聞いて、自分は約1年間、日常の中でのうっかりや誤解、言い間違いや聞き間違い……などのいろんな例を見聞きし体験しながら「これで『日常の謎』は作れるだろうか?」というチェックもしてきました。
その結果発表です。
探偵キャラクターの造形にまで力を入れる余裕がないので、わが偶像シャーロック・ホームズのキャラクターを流用して、学園日常推理に落とし込むことにする。

生徒会書記と、「仕事上のポリシー」の謎


「しかし、最近は面白い事件がないねえ」
僕の友人、社六くんは理科室でバイオリンを気まぐれに引きながら、愚痴っていた。
「実は、まさにそれで相談があるんだ。これから、その相談者がやってくるけど…」
「ほほう」
彼は一応、科学部の部長という肩書きをもち、部活動の名目で放課後の理科室を自由に利用している。
確かに高度な科学実験も盛んにやっていて、何かの賞もとったりしているのだが、元々それは彼の興味の一環にすぎない。一過性のやる気が失せると、きまぐれに持ち込んだバイオリンをかき鳴らしたり(音響の実験という名目だ)、ダーツで壁に「VR」のイニシャルを描いたりして(これは何の名目もない)時間を潰している。
僕は、保健委員の仕事も忙しいのだが、名目上の部員でもあり、時たまはここでのんびり時間を過ごしている。
え?「面白い事件」ってなんのことだって?
実は社六くん、学校の成績もそれなりに優秀だが、何やら鋭い推理力がある、さまざまな予想や助言が当たりまくる、という評判を、入学以来二、三の事件を解決して学校中の評判になっているんだ。
あまりとっつきやすい感じではない社六くんだが、たとえば常識人で話しやすいらしい、彼の親友の僕を通じたりして、悩みを相談する生徒がたくさんいる。
それがおおむね有用な解決なので、また評判になるという循環だ

「相談に来るのはだれだい」
「君も知ってるだろ?生徒会の副会長の山田。人間関係の相談をしたいんだって」
ガララッ
「おう、ふたりともそろってるな。悪いな、時間とらせて」
「まあ座りなよ。コーヒーをどうぞ」
社六くんは、かぐわしい香りのコーヒーを入れてくれた。
フラスコで沸かして、ビーカーに注いでくれなければもっといいのだが…僕は慣れてしまいうっかり受け取ったが、山田くんの躊躇する表情をみて、自分も常識面に引き戻された。

「ま、まあとにかく、話してくれよ」
「実は…生徒会書記の小森のことなんだが……」
「あ、あのおっかない、というかクールな雰囲気の後輩さんか」と、僕はうっかり失言しかけて、あわてて軌道修正した。
口調から見るに、どうせ話に出てきたその人を対象にした、恋愛の悩みに決まっている。
「彼女は、俺に好意を持っているようなんだ。どう対処すべきだろう?」
「その根拠を述べてほしい」と社六くんは、テンションを変えずにいう。
したりとばかりに、テンションを急上昇させて話したのが、山田副会長だった。

「いや!!俺も彼女は、えらいクールで近寄りがたい感じがしてたんだよ!!!例えば、いろいろ生徒会では役割分担とかあるだろ?彼女はきっちり、完璧に自分の分の仕事を超スピードで仕上げるんだ。だけど、ほかの役職の人…特に先輩の仕事が滞ったり、たくさんあったりした場合でも決して手伝わないんだ。『それぞれが自分の仕事を、責任をもってやるべきでしょう。私の恋人とか夫ならともかく、よその方の仕事を手伝うのは不適切だと思います』と、何度も公言してるんだよ」
「そんなんじゃ、生徒会でもあまりいい目で見られないんじゃない?」と僕。
「そうなんだよな…結構反発したり、陰口たたくやつもいるな。だが、仕事は本当に完璧だし、その意見をいう時も毅然としているんだ。それがいいんだよ」
そりゃまた結構なことです。
「ところがだ」
言葉を区切る山田君。
「一昨日の話なんだが、…自分は用事で生徒会に出られず、彼女から電話でいろいろ仕事の決定事項とかを聞いたんだよ。相変わらず完璧な報告でな」
のろけんでいい。
「だけど、最後に彼女はこう言ったんだ。『先輩が苦労してたあの仕事の件、やっときましたから。』それでぷつっと、電話が切れたんだ」
「あれ…?」
「そうだよ!…俺もびっくりしたよ!あのクールで合理主義的で、他人の仕事をやるのは不適切なおせっかい、が持論の彼女が、俺が苦労してるってことを見かねて、代わりにやってくれるなんて!!! つーかさ!! 『恋人や夫ならともかく』と言ってた彼女が、そんなふうにしてくれる…ってのは、遠回しな告白なんじゃないだろうか!? だとしたら、俺としてはどういうふうにリアクションすべきか、だよ!!!知らないふりしてお礼を言いながら徐々に距離を詰めるか、こっちからストレートに告白し返すか、いきなりデートに誘うか…」」

いささか彼も先走ってる気もしたが、
たしかにその通りなら、祝福すべきことだ。
「おめでとう、やったね!!でもどうすべきかな…彼女も、ストレートでなくそんな風にするんだから、やっぱりシャイなんじゃないかな?なら…」
社六君は、こういう方面での気は、自分より利かない。ここは僕がむしろ相談に乗るべきだと思ったのだが…

「補足で聞きたい…君が苦労してたその仕事って、いったい何だい?やっぱりあのアンケートか」

「ああ、そりゃ知ってるよな。そうだよ、ほら生徒会で実施した、生徒と部の意識調査と学校への意見要望のアンケートだよ。あれ、不真面目なやつとか、いい加減な部はなかなか出さないだろ? 科学部もこういうのの提出、いつもえらく遅れてるけどな。あれ困るぞ。そういう部とか生徒があちこちにいたから、それで回収と集計に苦労してたんだ。」
「全部データが集まったとして、その集計は、もしやるとしたら何日必要だ? 締め切りは?」
「俺、正直それどころじゃなくてな…もし俺だけでそれをやったとしたら、丸二日。締め切りは今月末までだから、まだ余裕があるな」
「で、その集計結果はどんなふうになった」
「いや、まだ見てない。何しろ相談した件で頭がいっぱいでな…」


「ふむ、わかった…いや、その小森さんへのアプローチの仕方は、正直おれが口を出すことじゃない。あくまでも、自分で決めることだろう。ただ、そのアンケートの集計結果、確認したほうがいいと思うぞ。それからお礼でも、お礼にかこつけての告白でもしたほうがよかろう。」

「そうか、そりゃその通りだ…、確かに、これからそれを見ておこう。彼女のことだから完璧な結果だろうけど、それについても褒めてあげたほうがポイント高いだろうしな。じゃあ、有難う!!」

山田君は、理科室を飛び出していった。
「うまく、ふたりの恋が実るといいね」と僕が笑顔を見せると
「芽も出ていない植物から、実りはあるまい」と、社六君はいった。

「ど、どうして!!小森さんが、ポリシーに反して…というか「恋人でもない人の仕事は手伝わない」というポリシーがあった子が、仕事を代わりにやってくれたんだ。脈ありと思う方が普通じゃないの?」


「俺は『アンケートか?』と山田に尋ねたろ? あれはなぜかというと、そういう、何かを回収したり、資料がどこからか来るのが必要な仕事だと推測したからだよ」

「どういうこと…」
「つまりだ…漢字にすればわかりやすいかな」
社六君は、チョークをつまんで黒板に書き始めた。、


『あの仕事の件、やっと来ましたから』。

「あ!!!」
「彼女も、正確を期して言えば『仕事の”資料”やっとき(来)ました』とでもいえば、誤解の余地はなかったろう。ただ、話し言葉としてはそれぐらいの曖昧さは自然で、瑕疵があるとはいえないだろうね。今頃、山田は仕事の資料を確認して、ショック中だろう。小森という後輩に『この前「やっときました」と言ったのに、どうして?』と問い詰めれば、この単純な誤解を説明してくれるだろうけどね。からかわれたと絶望しつつ、その仕事を改めて自分でやり始めて、この件については気まずく黙っているんじゃないかな。小森さんのほうが、不運だけどね」

「そう、教えてあげればよかったのに」
ペルシャの詩人の言葉を、少し改作しよう。『虎の子を得ようとする者に危険あり、男から幻想を奪おうとする者も同じ危険あり』と言うやつだ。ここで俺たちが、幻想を壊す役を務めたくはないね」
「うーん」
「あと、彼女が『やっと来た』といった、遅れて提出されたアンケートの回答って、科学部だったからね」
「お前かよ!!」

(了)

ペルシャの詩人の詩については、ネットの古典翻訳「コンプリート・シャーロック・ホームズhttp://www.221b.jp/ 花婿失踪事件の訳を基にさせていただきました。

【解題】

このささやかな事件の記録(ワトソン風)、トリックの骨子となった「やっと来ました」←→「やっときました」の混同は、最初にかいたとおり実体験に基づくものであります。もちろん、こんな甘酸っぱい色恋ごとなどは背後になく、ふつうの言い違い、聞き違いで、それもすぐにこの誤解がわかって実害ゼロだったのですが「いやあ、勘違いし続けて、これをやってもらったと思い込んでいたらヤバいことになったな」と思うぐらいには影響がある案件でした。
そのあと、「まてよ、なんかこれ『日常の謎』っぽくね?」と考えたのは、完全に余計な発想ですが(笑)。


ただまあ、こんなふうに世の中の、もっと複雑で現状なる誤解や失敗談、私より才能のある人なら、うまく料理すれば「日常の謎」のモトネタぐらいにはなるのではないか……というのを、拙作の発表ついでに呼びかけるものであります。
いいのができたら「小説家になろう」か「カクヨム」にでも投稿なさればよろしい(笑)


カクヨムにおいて「日常の謎」で検索すると、ヒットする数がことしの5月より増えてる。
https://kakuyomu.jp/search?q=%E6%97%A5%E5%B8%B8%E3%81%AE%E8%AC%8E

小説家になろう」は言葉の検索だから、たったひと言でも上の単語が入れば引っかかるのだろう。
 結果はこちら↓
http://yomou.syosetu.com/search.php?word=%E6%97%A5%E5%B8%B8%E3%81%AE%E8%AC%8E





最近「日常の謎」っぽいなーと思ったツイートと、その関連togetter


http://togetter.com/li/1032014



http://togetter.com/li/1032153


一度紹介済みだけど、これも


素数蝉のように周期が!?」 インドネシア人口ピラミッドの不可思議な形状を考察するTL - Togetterまとめ http://togetter.com/li/988713

また、これは個人史的には非常に重要な意味を持つ。
小学生の時代から子供向けに翻案された推理小説を読んで育ったぼくは、生涯に一本ずつでいいから
シャーロック・ホームズの研究論文
■自作の推理小説


を書きたいと思っていました。ついでに当時から「質は問わない」と思っていた(笑)
ホームズ論文については
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110911/p3
で完成し、そして今回、一応レベルはまったくアレがアレであっても、一応は「推理小説」と自分がみなせるようなもの(自分への基準は大福より甘い!)をこしらえることができた。

「生涯の課題」のひとつを、解決できた満足感に、いま浸っています。

(おしまい)


ことし5月にかいた過去記事

日常の謎」に関しての、最近の話題集。米澤穂信の新作が出るとか(年末) - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20160515/p2