「第67回ポリコレ認定会議〜」。
「67回もやってないですけどね」
「そこは流せ」
「はいっ、そういうわけでね。いま話題沸騰、国会でも全国紙でも取り上げられ、一躍『はてな匿名ダイアリー』『増田』の知名度を高めた
『保育園落ちた日本死ね!!! http://anond.hatelabo.jp/20160215171759』
こちらの、特に「日本死ね」という言葉が、ポリティカルコレクトネス、略してポリコレ的にオッケーかどうか、これを語ってまいりたいと思います」
「ブログの内容については語らないの?」
「ブログの内容ね……ひとことでいえば『賛成』ですね。保育所、保育園に子供を預けられない待機児童が多いのはゆゆしき問題。国も自治体も総力をあげてこの問題を解決しなければいけないと思います。誰か反対意見はありますか?」
「えーと、別にないです」
「というわけで、議題は、『という問題への怒りや疑問の表明として【日本死ね】という表現をしていいのか』というところであります」
「『死ね』ですか…それも『日本』をね。」
「これの影響ですかね」
初音ミク女王様の「死ね死ね団」ミクVer Niconico Videovia torchbrowser com
「ミスターKって平田昭彦ですよね。ゴジラの芹沢博士と同じく」
「もう一曲のほう、なんで敵対組織が相手を『愛の戦士』とか褒めてるんだろ。その中では『愛の戦士』は悪口なのかな?」
「はいはい、わき道にそれてますんで閑話休題、本論に」
「じゃー、検討すると…『死ね』ってのは、よくないんじゃないですかね」
「良くありませんか」
「こんなふうに女性や子供の福祉政策が遅れてる日本が死ぬのは当然だ。死ねというのは正論だ。だから、こう言っていいんだ…、ってのはどうですかね」
「それはちょっと。」
「しかし、少し別の形から弁護したいんですが…えー、『日本』というのは、生物じゃないですよね。肉体を持つ生き物ではない。それを『死ね』といっても死にようがない。だから許容される…こんな論法ではいかがですか」
「無生物に『死ね』といってるからいいのだ、と」
「そういえば、この前アメリカではこんな一件があったとか↓」
トランプ氏「殺してもいい」、書き込みでエジプト人留学生逮捕 米(AFP=時事) - Yahoo!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160304-00000021-jij_afp-int #Yahooニュース
【AFP=時事】米カリフォルニア(California)州で、米大統領選の共和党候補指名争いで首位を走るドナルド・トランプ(Donald Trump)氏を「殺してもいい」とソーシャルサイト最大手のフェイスブック(Facebook)に書き込んだエジプト人留学生が、強制送還される可能性に直面している。
(略)
「僕はドナルド・トランプを殺して終身刑になってもかまわない。全世界が僕に感謝するだろう」。担当弁護士のハニ・ブシュラ(Hani Bushra)氏によると、エルサイード容疑者はフェイスブックの自身のページにこう書き込んでいた。
(略)
ブシュラ氏は3日、AFPの取材に、エルサイード容疑者のフェイスブックへの書き込みは浅はかなもので、本人にトランプ氏を傷つける意図はなく、今は反省していると述べた。その上で、書き込みの内容について「むしろ、怒りの誇張表現だった。トランプ氏自身が使っている過激な言葉遣いと同じようなものだ。トランプ氏も、テロリスト相手に妻や子など家族の殺害も辞さないなどと言っている」と指摘した。
「これも、やはり生身の『トランプ氏を殺してもいい』だから犯罪になったんで『アメリカ死ね』とかだったらたぶん罪にはならず…」
「ただ、『法律上の犯罪は構成しないけど、ポリコレ的に許容できない』ってのもあるでしょ?『アメリカ死ね』も『日本死ね』も犯罪じゃないとは思うんですが、ポリコレは判断はまた別で」
「うーむ」
「ここは逆に『日本死ね』のかわりに、別の国を当てはめてみましょうか?それでオッケーになるか」
たとえば
「ロシア死ね」
「むむ」
「中国死ね」
「うーん」
「韓国死ね」
「ややや」
「北朝鮮死ね」
「ふむう」
「アメリカ死ね、イスラエル死ね」
「二つ並べるとイランのスローガンだよ」
「あちらでは『イスラエルを地図の上から消し去れ』ってのもありました」
「なんかそっちのほうが具体的でやだな」
「ニウエ死ね」
「どこだよそこ」
「自分もウィキペディアの『国の一覧』でしらべました。詳細不明です」
「逆に小さくしてみる?よく考えれば責任は自治体にあるんだし」
「東京死ね」
「江東区死ね」
「葛飾区死ね」
「で、どうなの? こういうのはポリコレ的にセーフ?アウト?」
「どうでしょうねえ…」
「肉体的な命が存在しない相手には『死ね』と言ってもポリコレに反しない、という命題に立った上で、ほかのもやってみましょうか」
「SEALDs 死ね」
「なんかアウトっぽいですね」
「日本会議死ね」
「まずそうですね」
「NHK死ね」
「週刊文春死ね」
「……たぶん、こういう団体名だと、大きくても数千人規模なんで、なんとなく『そこの構成員が死ね』という意味に捉えられてしまうからアウト感が増す、っぽい?個人の感覚ですけど」
「UFC放送打ち切られた WOWOW死ね!!」
「趣旨にはたいへん共感しますが、やはりたいへんまずいっぽいですね」
「そもそも、『日本死ね』とは、どういう状況のことをいうのですかね。肉体を持たない以上、一般的な意味で生命を失う、という意味ではないのは確かですが」
「想像するに…国土が完全に荒廃し、社会秩序・憲法秩序が失われ、人々が健康で文化的な、最低限度も生活も送れない状態…とかではないですかね。そういう状態に日本がなれ!!という意味?」
「さすがにそうなれ、と思わないでしょ。加藤保憲かよ(笑)平将門の霊でも呼び覚ますのか?」
「いや、本人も内心ではそうは思ってないと思います。ただ『そういうふうに思ったんですか?と問われても仕方ないであろう表現』とは認定できませんかね」
「それは上のエジプト人留学生が、本当の本気でドナルド・トランプを殺そうとは思ってなかったんじゃないか?というのと同じ話かなあ」
「まーねー」
「しかし、そもそも論だけど『反ポリコレ』な表現って、しちゃだめなのかね?」
「『戦う民主主義』なら許容範囲は狭いでしょう。ただ『自由の敵にも自由を与えるのが自由だ』という立場からは、それこそ殺人を具体的に連想させるか、とかそういう意味での規制を除いては『ポリコレに反しているよね』と指摘した対象が…ま、たとえば公人なら職を解任されたり辞任したりすることにつながるでしょうが、そうではない時は『この表現、反ポリコレだねえ』『そうかもね』『以上』…ってことで、それ以上はどうしようもない、ってことありましょう」
「呉智英が以前、「BSマンガ夜話」で、「ザ・ワールド・イズ・マイン」の評から、本居宣長の歌を引用してたね。」
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100322/p3
(「ザ・ワールド・イズ・マイン」は)ある意味けしからんマンガなわけですよ。そういうものをどう考えるかっていうときにね、ふつう言論の自由とか表現の自由なんて言うけど、俺ね、そういうバカなこと言いたくないから(笑)、いつもね俺、本居宣長のこういうのを引用するのね(笑)。
本居宣長の歌論、文化論ですね、うた論。
(歌の中には)
政のたすけとなる歌もあるべし、
身のいましめとなる歌もあるべし、
また国家の害ともなるべし、
身のわざわいともなるべし
って言ってるんだよね。で、そういうものがあっても人間の真実が描かれているものは芸術であり文化であるって、本居宣長が言ってるんだよね。
「今回の「日本死ね!」もそもそも、その強烈なフレーズがなかったら絶対ここまで話題にならなかったでしょうからね。作戦勝ちですよ」
「そして、この表現がヤバいということを、みんな分かってるという気がする(笑)だって、その後の抗議行動やキャッチフレーズではこの『日本死ね』は使ってないでしょ?」
「そういえば『日本死ね』の部分はプラカードになってない…」
「『日本死ね』が受け継がれたのは増田だけだもんね(笑)」
「皆さんはいかがお考えでしょうか?」
追記 その後、こんなやり取りが
【平沢勝栄議員、番組でヤジ謝罪。でも「本当に女性が書いた文書ですか」【保育園落ちた日本死ね】 http://www.huffingtonpost.jp/2016/03/09/katsuei-hirasawa-hooted_n_9423292.html 】
平沢勝栄氏:そうじゃないんです。まずはヤジを飛ばしたことについては心からお詫び申し上げたいと思います。ただし、………(略)出所が明らかではないということ。出所が明らかでないのは使わないというのは委員会でのいままでのルールです。なぜかというと、出所不明のものが使われると誹謗中傷とかいろんなものに使われてしまう。
それからもう一つ、文章ですね。特にこの「日本死ね」というのは、例えば、子供の自殺だとかいじめかなんかに使われる言葉で、あまりにも言葉の教育にも影響があるんじゃないかと。理事会では、民主党を除くほかの党、共産党さんも含めて、これを資料に使うのはダメなんじゃないかという結論が出たんです。
(略)
――お母さんにもインタビューしてきましたけど、国会でも解決していない切羽詰まった状況です。だれに言っても解決できない。「日本死ね」といういい方でしか表現できなかったと、みんな分かるっておっしゃってますよ。
例えばいじめの時、「あなた死ね」ということはよくあるんです。このなんとか死ね、っていうことに市民権を与えるのがいいのかということです。そういう表現を使うことはどうかなと。
――それくらいの思いということが共感を呼んでいるんです。
それは分かっていますけど。「日本死ね」っていう表現はよくない。私たちは、保育の問題や待機児童を軽く見ているわけではありません。
(略)
文章としても、気持ちは分かりますよ。私はもうちょっと訴え方ってあると思います。
高木:それを国会議員の方が、国会でヤジを、気持ちが高まってワアッとヤジをいうのと同じですよ。言わずにはいられないというのを感じ取れないですか。
言っていることはよくわかりますよ。ただ。言葉が日本語としては汚い。
カナロコ「時代の正体」より
http://www.kanaloco.jp/article/73811
「そもそも負の感情をあおるタイトルは『冷静な議論ではない』と自ら宣言しているようなもの。建設的な批判をしたいなら、そうした体裁を取るべきではない」