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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

『探偵面に堕ちる』少年たち〜アバンチュリエ4巻(奇巌城)と氷菓を見て彼らを心配した話。

この前やっと購入できて、「奇巌城」中巻にあたる4巻を読み始めました。

奇巌城 第二幕!ルパンの謎と歴史の真実!

ルパンの部下の凶刃に倒れたボートルレは、彼(ルパン)の遺した暗号がすべての事件の鍵であると確信する。
しかしそれは、ボートルレの予想を遥かに超え、フランスの歴史の根幹を揺さぶるものだった。
“鉄仮面”“マリー・アントワネット”“ジャンヌ・ダルク”……
歴史の真実が、ここに明らかになる――!!

森田崇@アバン4巻【奇巌城・中巻】発売中 @TAK_MORITA · 5月8日
https://twitter.com/TAK_MORITA/status/596635277621231616

おおっ!ありがとうございます!
未読の方のこういう感想は「やった!原作の面白さをお届けできた!」って感じで嬉しいです! 森田崇@アバン4巻【奇巌城・中巻】発売中さんが追加
チャック井上 @Chuck_euoni
やっとアバンチュリエ4巻 奇厳城中編読了。原作未読で、読み進めていったらとんでもないことになってきて興奮して寝れなかったw
これがショームズやガニマール相手ならともかく(ルパンが勝つであろうと予測できるが)ボートルレ少年が対戦相手だから先がまったく読めない。

「少年探偵」の草分け的存在のひとりであるボートルレ君が活躍し、ルパンとついに「直接対決」する展開になります。ちなみに少年探偵の系譜についてはこちら(を経由してtogetterへ)

「少年探偵」の元祖と系譜〜そして「少年ヒーロー」ものへ?「アバンチュリエ」の森田崇氏が語る。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140524/p3


今回は、とある暗号の意味を隠すために、実はXXXXがXXXXをXXってしまっていたという展開になりまして、それその固有名詞だからできる話だよな、と思わせるところが面白いのですが、その一方で自分は漫画という森田氏の”絵”で表現されたボ−トルレ少年を見て、とある警句が頭をよぎったのでした。

大きな声では言えないが、犯人と探偵はしばしば同じ目つきをする。
一流の犯人をとらえる刑事は一流の刑事で、一流の犯人と同じ知恵の持主である。犯人が考えることを逐一考える能力がなければ、とらえることはできないから、逐一考えるとその目つきは犯人と同じになる。かくて犯人と刑事は同根の兄弟である。
かたき同士でありながら友である。
ゆえに犯人はかえって刑事に近づく。我にもあらず近づいて めでたくつかまるのである。

山本夏彦名言集「何用あって月世界へ」)

ちなみに山本夏彦氏は

山本露葉の三男として生まれる。東京高等師範学校附属小学校(現・筑波大学附属小学校)卒、府立五中入学後、1928年(昭和3年)父死去。
 
1930年(昭和5年)亡き父の友人であった武林無想庵に連れられフランスに渡り、1933年(昭和8年)まで暮らし帰国。パリのユニヴェルシテ・ウヴリエール(Université Ouvrière de Paris)修了。

という経歴の人で、フランスではアナキスト的な芸術家に親しく交わっていたので、当時、壮年のアルセーヌ・ルパンと山本夏彦少年がどこかで遭ったことは確実です(断言)
というか、上の話はまさにルパンを見て、若き日の夏彦が感じた印象なんですよ(再度断言)



そこで今回…ハーロック・ショームズ(日本ではホームズと表記されてることも多い)やガニマール老ならいいんですよ、もうその世界にどっぷりつかって、どの道、抜け出せない。
しかし、成績優秀、眉目秀麗、友人多数の明るい少年で、官僚国家フランスでバカロレア(高等文官試験)を受けるべく準備している、前途洋洋たる少年がだ…

この喜びを発見した時、ほんとうに「たかが」官僚としてのフランス国家運営、「ごとき」に生きがいを見出すことができるだろうか??
ましてや、想像するにいかに頼れる親友が多く、親に愛された存在とはいえ、この知性、推理の才能を持ったボートルレ少年は、本質的なところでは孤独だったのではないかと思われる。そこに、上で山本夏彦氏がいうところの『同根の兄弟である。かたき同士でありながら友である』存在たる怪盗紳士アルセーヌ・ルパンにめぐり合ってしまった。
その甘美さは、麻薬並み…まあ先達のホームズ氏もたしなんだコカインなみの甘美さかな(笑)で、あったのではないかしらん。


 

あっ……だめだ、もう手遅れだ(笑)
まったくルパンは罪深いもので、もう前途ある少年の未来を奪った、としかいいようがない。彼は「探偵面」に堕ちてしまったのだ。

最近ネットで見ると、影響はスターウォーズなのか北斗の拳なのかバットマンなのか、「悪堕ち」ということばが一つのパターン、お約束としてスポットライトが当たっている感があるが、私の考える「探偵面に堕ちる」(「探偵堕ち」?)…というのはいささか違う。彼は外見的、社会的には、正義を守り悪を裁き、ヒーローとして存在するかもしれない。しかし、なんというかな、もうこのへんの説明は省略するわ。
「人生を探偵として生きる(職業として、という意味ではない)」というのは、やはり一種、平凡にして幸せなる世界からの転落、以外の何ものでも無いと思うのであります。
探偵とは、一種の呪いなのではないか。


森田氏は当然、そう直接的に台詞その他で書いているわけでないけど、この少年の作画に込められた意味合いはそういうものではなかろうか……。と思うのであります。

ボートルレ君が「奇巌城」のあと、どんな人生をたどったのか、後日譚や二次創作があるのか、無いのかは分からない。しかし、「アルセーヌ・ルパンと対決した」思い出を持つものが、その後の人生を波乱無く進めたと思うほうがおかしいのである。

そして彼が(もし第一次大戦を生き残れたなら、だが)働き盛りのときに、祖国とライン川で隔たれた隣国には、鍵十字のマークを背にしながら獅子吼する男が登場する…。



そのとき、成長したイジドール・ボートルレ君はどこで、何をしているのでしょう。


【追記】作者から、ありがたくもコメントをいただきました。

森田崇@アバン4巻【奇巌城・中巻】発売中 @TAK_MORITA · 4時間 4時間前
https://twitter.com/TAK_MORITA/status/599918118366892032
【探偵とは、一種の呪いなのではないか。森田氏は当然(…)この少年の作画に込められた意味合いはそういうものではなかろうか】
おお。さすがです。
しかし彼のこの呪い。「奇巌城」のあのラストを体験した結果解けてしまったのかもとも思うのです

gryphonjapan @gryphonjapan
あれ?森田崇氏@TAK_MORITAの「ルパン伝アバンチュリエ」新刊紹介をするだけの予定が 、なんか壮大かつダークな話になってしまったぞ(笑) / “『探偵面に堕ちる』少年たち〜アバンチュリエ4巻(奇巌城)と氷菓を見て彼らを心配し…” http://htn.to/QdnQnE

森田崇@アバン4巻【奇巌城・中巻】発売中@TAK_MORITA
https://twitter.com/TAK_MORITA/status/599919339760852993
未読の方。「あのラスト」に関しては奇巌城の今後の展開をお楽しみに…!

インターバル…要は探偵とは「天の戮民」なのではないか

【呉 知識人とは「天の戮民(りくみん)」、つまり「業」です。ヨーロッパにもそれはある。そこが、知識人が一番噛みしめるべきだよね。古典を読んで「いいことが書いてある」「教えが書いてある」なんて言うけど、教えなんて書いてない。葛藤だよね】
(対談本「愚民文明の暴走」より)

元の出典は…

孔子曰「丘、天之戮民也。雖然、吾與汝共之。」子貢曰「敢問其方。」孔子曰「魚相造乎水、人相造乎道。相造乎水者、穿池而養給。相造乎道者、無事而生定。故曰「魚相忘乎江湖、人相忘乎道術。」子貢曰「敢問畸人。」曰「畸人者、畸於人而牟於天。故曰「天之小人、人之君子。人之君子、天之小人也。」」』(『荘子』大宗師 第六)

荘子〈1〉 (中公クラシックス)

荘子〈1〉 (中公クラシックス)

孔子曰く「礼を重んじる私は、礼節に縛られた天の罪人だよ。しかし、私とお前も彼らと共にできる道もある。」子貢曰「それはどの道なのですか?」孔子曰「魚は水に生き、人は道に生きる。水に生きるものは池を掘り下げると滋養にありつけ、道に生きるものは、平穏な生活に安定を取り戻す。故にこんな言葉がある「魚は江湖に水を忘れ、人は道術に道(Tao)を忘れる。」子貢曰く「敢えて【畸人】についてお伺いします。」曰く「畸人とは、天においてはそうでなくとも、人の世にあっては変わり者の連中だ。故にこんな言葉かある。「天の小人は人の君子、人の君子は天の小人」と。」
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5113/

氷菓」(古典部シリーズ)の折木君、千反田嬢も同じ。「探偵と推理」は、田舎の暮らしにはあまりに甘美過ぎる…

日常の謎」関連情報〜「氷菓WOWOWで一挙放送、「円紫さん」シリーズ最新作… - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150326/p5

ここでようやく全話を見たばっかりでいうのもなんですけど、逆にその分印象も新鮮だということで、まぁ聞いてください。

※あと、おいらは勝手に、ちょっとした研究を彼らをダシにした会話劇で構成したこともあったので、そういう縁もってことで。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150508/p3
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130616/p3

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

この作品は、日常の謎を解くミステリーとしても面白かったわけだけど、それに付随して思春期の少年少女たちが好む「学校や社会ではオフィシャルに発見、評価されることがない、隠されたオルタナティブの能力が開花する話」としても注目、評価されたのではないか、と思う次第であります。
とくにミステリーはなんだかんだと、子供たちの間でつねに人気を保ってきたジャンルで、名探偵は「将来の夢」に出てくる職種とはまた別に、憧れの対象だ。「推理の能力が」「普段は目立たない人物によって」「学校の中で」「非公式に」発揮されるというストーリーが人気になるのは、けだし当然だったでしょう。
ここまではメタの話だが…、


物語内に入ってみる。

平凡であることをある意味めざし(灰色、省エネうんぬん)ていたがゆえに、その際立った推理能力を発揮することも無かった探偵・折木奉太郎が、スルーすれば丸く収まるような日常のささいなあれこれを「気になります!」と追及しようとする千反田えるに振り回され、やむにやまれず”事件”を解決する……というこの枠組みは、何度か揺らぎつつも維持されていた。…だけど、まぁどう考えても、折木自身もこの「探偵する」「推理する」、魅力に取り付かれつつありましたよね。
 
もしその後、千反田えると卒業によって生きる世界が分かれ(彼女は超豪農の跡継ぎ娘で、基本的にその地域でその仕事を受け継ぐ未来が確定している)た時に、”依頼人”がいなくなった折木奉太郎君が、その『探偵面』から抜け出し、やれやれと再び「灰色の省エネ生活」に戻ることができるだろうか?
たぶん無理だよ。いったんシャブと探偵をやったらやめられないんや…


それは家に戻った未来の千反田嬢も同じ。
というか、こっちのほうが問題だ。地域で「千反田さまには及びもないが せめてなりたや殿様に」と歌われた(ホントか?)農の名家の家を継ぐ彼女はだ…、
まあ古典部仲間だった両者の間の好意が、どれほどまでだったのかよくわからんかったが(※俺がこのへんの恋愛部分を解釈すると、たいていはずれてる……あれ、最終回でなんかそれっぽい描写があったかも)、まあ、たかが小作人の子せがれ…かどうかはしらんが、名家っぽくない折木が結婚できる筈もない。身分の差をわきまえろっ。


とすると彼女は、それなりに別の名家から婿養子でも、もらうのだとしよう。
しかし、仮にこの穏やかな農村地域で、まだ千反田夫人が、日常の中から謎をいろいろ見つけても、そういうところのボンが、奥様の「気になります」に反応し、あざやかに解決してくれると思うかい?
「うーん、わからんな。それよりえるさん(婿養子なのでさん付け)、今日は農協の会合なんで遅くなるから。夕飯はいらないから」で終わりだよ、たぶん(笑)

かといって(彼も地元にいるかはわからんが)それではと高校の同級生だった折木にメールやら携帯電話、あるいは喫茶店で落ち合って、彼の推理を聞けるか?
無理だな。そんなことをしたら、その地域の名家夫人の不倫にまつわる、もっと巨大な「日常メロドラマ」に、周囲の人たちが夢中になるだけだ(爆笑)。田舎なめんな。


かくして、高校時代に一瞬「推理」という甘美な体験を共有した二人だが、その後ふつーの道をたどるなら、その甘美な推理と謎の「禁断症状」を起こしたまま、その禁断症状の意味が誰にも分からない鬱々とした将来を送ることになるであろう…というのが、自分の見立てであります。
推理とは、やっぱり呪いなのだ。



しかし。
そんな暗い未来を変える手立てがひとつある。
折木くんは、推理能力は極めて冴えているが、たいへん幸いなことに正義感というのはそれほどでもない(笑)。怪盗十文字の時には、犯罪者との裏取引、脅迫まで行っていたではないか。

折木君は東京へ出て、その推理の才を逆転させてそのまま「特殊詐欺」でも「何とか商法」でもいいから、そういう関係の仕事で荒稼ぎをしたらどうか。一見、地味で積極的でないその才能を最初に見出してくれる人がいるまでは骨だろうが、何そういうのを使う側だってナニワ金融からウシジマくん、極悪がんぼまで具眼の士はたくさんいる。

そのへんの詐欺で、「裏返した探偵の才」をつかって、大金をつかめば…田舎に堂々と錦を飾ることができるでしょう。
そしたら、村会議員だか町会議員だかに、その金を湯水のように使って当選する。そうなった上で、成り上がり者として、千反田家に娘をください、と申し出ればいい。間に合うかどうかわかりませんが…



あれ?なんか「推理という呪い」について語ってたはずが、なんか二次創作みたいになちゃたぞ(笑)


日常の謎」に呑み込まれない、日常探偵はある意味えらい

そんなこんなで

太宰治の辞書

太宰治の辞書

なのだが、円紫師匠はもっと非日常でダーク&エキサイティングな、落語の世界を生きているからなぁ……。

黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)

黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)

給仕ヘンリーは、本当に「出来の悪い素人探偵が定期的に集まる、黒後家蜘蛛の会」の例会で給仕を担当できてよかったよ。これなら、ふだんの退屈な俗物客どものディナーを差配しつつも、この会を楽しみにクソみたいなその日常をすごすことが出来る。

ミス・マープルは少女時代、老年のシャーロック・ホームズの助手をしてたから(脳内設定)。ついでに6人殺して、庭のバラ園の下に埋めてるから。ばれてないだけだから(脳内設定)

嵐山歩鳥嬢も「探偵脳」になっていると1巻で断言されているが、彼女の場合、推理能力が低いことがストッパーになっている(笑)。