今回、公開前に三谷氏本人が強調しているのは
・「会議」映画である
・オールスター映画である
という二点。そういえば確かに、日本で最近オールスター映画というべきものはパッとは思いつかない。ただ単に名優、スターがたくさん出るというだけではなく、それぞれに見せ場があるか、ということも重要なんだそうで。
昔はなんといっても「忠臣蔵」でオールスターをやったが、自分は何度も言うようにTBSで鴨下信一が演出した司馬遼太郎原作の「関ケ原」が思い出されるなあ。まあ北野武「アウトレイジ」もけっこう、オールスターぽい豪華さはあったとおもうけど。
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信長亡きあと、清須城を舞台に、歴史を動かす心理戦が始まった。 猪突猛進な柴田勝家、用意周到な羽柴秀吉。情と利の間で揺れる、丹羽長秀、池田恒興ら武将たち。 愛憎を抱え、陰でじっと見守る、お市、寧、松姫ら女たち。 キャスティング・ボートを握るのは誰なのか?五日間の攻防を現代語訳で綴る、笑いとドラマに満ちた傑作時代小説。
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ただし、「時代劇で、会議を描く」ということなら、ものすごい先行者、大強敵がいる・・・今回はそれを紹介しようということなのだ。
まあ既に有名な作品だけどね。
「寄生獣」「七夕の国」から、【自称(休載が多くて)ロングセラー(→出典はココ)】の「ヒストリエ」に至るまでの岩明均氏の、小品にして傑作…それが
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この本には二編の中短編が収録され、うち「雪の峠」が「会議を描く時代劇」なのだ。
あらすじを自前で紹介してもいいのだが、ここはウィキペディアの同作品紹介を借りておこう。
結末へのネタバレはない。
戦国末期、常陸国を領土としていた大大名・佐竹家は、関ヶ原の戦いで西軍の石田三成方についたため、敗戦後、当時の僻地である出羽国に追いやられてしまった。そこで新しい城の築城に取り掛かることになったが、築城場所を決める際、当主の佐竹義宣は渋江内膳ら若い家臣の意見を優先し、高齢の重臣たちを蔑ろにする素振りを見せる。それに反発した老臣たちは、大軍略家と名高い梶原美濃守を立て、自分たちの居場所を守るために対抗案を出すが……。
関ケ原も、あの地の決戦に至る前は「大阪城の内府糾弾」「石田三成引渡し交渉」そして「小山評定」など伝説的な言葉の闘争、名勝負があり、たとえば司馬遼太郎の「関ヶ原」でもすごい見所になっているのだが・・・その関ヶ原が終わり、一応は生きながらえたが敗戦側の佐竹家。関東の雄佐竹氏だが、まあやっぱり歴史ものの登場人物としては二線級、「XXの敵役」が似合う立ち位置だよね(笑)。これが主役の漫画なんてあったっけ。
背景にあるのは、石田三成と加藤清正、福島正則ら、あるいは徳川家中で本多正信が受けた冷たい視線のように・・・乱世から治世への移行期、勇猛な武闘派と優秀な能吏の必然的ともいえる温度差だ。それが史実的にも正しいかどうかはまた別らしいけど、この時期にあった「軍事・防衛拠点としての山城から、政庁としての平城へ」という要素によって会議を象徴させている。
そして一方の旗頭になるのが、かつては上杉謙信に仕えて、表題にもある「雪の峠」を渡っての大遠征なども経験したということで、藩の中で尊敬を一身に集める梶原美濃守。対するは若き現藩主・佐竹義宣(鬼と呼ばれた「大殿」佐竹義重は隠居の身。それがある意味状況をややこしくしている)の懐刀、渋江内膳。
梶原は行きがかり上、旧武闘派―彼らは若い藩主を「経験不足で、関ヶ原で西軍についたという、『判断の誤り』を犯した」として内心軽んじている―ーの代表のようになる。だが、旧臣たちがさらに直接的に嫉妬・軽侮の対象とする成り上がり能吏・渋江の知力や才能を、梶原はひそかに認めている…そんな関係だ。
だからこそ、会議の席で梶原は上杉謙信公ゆずりのはかりごと、手練手管も仕掛けていく。
自分の候補地の歴史上の因縁を持ち出したり、古い発想ではあるがそのぶん、皆が理解しやすい「天然の地形の防御力」や「米が収穫できて篭城に有利」などを持ち出したり、ある案を出したと思ったらさっと引っ込め、別の案に乗っかったり・・・。
渋江は当初それに押されっぱなしで「あまり、このあとも戦乱が続くという想定はしないほうがいい」や「城は戦のためだけにあるのではない」という都市構想論を語るが、不利はあきらか。
しかし、中立の老臣が「ようは(お前の反対派は)みんなケンカがしたいのじゃよ」「お前は『説明』だが、あちらは『戦』をしていた」といわれ、梶原との一対一の対面も経てついに覚悟を決める。
そして、前提条件をすべてぶっ壊すような、ある種のメタな「大戦略」「大計略」を仕掛けていく・・・・・・
それは、作品の表題にもとられたた、上杉謙信の「雪の峠」を渡っての遠征という梶原の思い出話・・・つまり、「戦」の時代の終わりを告げるものであり、それが最後の、ある結末も用意していくのである・・・。
今回の映画「清洲会議」に興味のある人なら、ぜひ映画を見る前、あるいは見たあと、この文庫もお買い求めて、見比べてほしい。どちらが「会議の時代物」の王者たりえるか。けだし見物である。
会議ものナンバーワン決定?それじゃ俺が出ないとな!の「鈴木先生」
もともと「鈴木先生」は登場第1回の作品が「給食のメニューから酢豚を外すかどうか」の会議という面白い短編で、ある意味このショートストーリーだけで三谷、岩明に対抗し得る(笑)。
しかし、その後さらに、すごい「会議」が何度も登場していって・・・どんどん、ドラゴンボールのようにそのバトルの凄さを更新していった。
その頂点として満を持して登場したのが、「あんなに私たちにきれいごとを語っていて、自分は結婚前に交際相手を妊娠させるなんて!けがらわしいよねっ」とケッペキな女生徒が先生を糾弾し、これまで議論を諸葛孔明なみの采配で自由自在に突破してきた鈴木先生が「被告」の立場になるという「@鈴木裁判」編だ。
この6、7巻。
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実はこのエピソード、近い将来はその「結婚前に相手が妊娠するなんてふしだらだ」という前提が消えていくんじゃないか?と思っていて、そういう文章を書いていたけど、
未婚の母、非摘出子(婚外子)への意識が変わる…なら「鈴木先生」の”鈴木裁判”も過去のものになるか? -
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130904/p3
仮にそうなっても、「会議もの」作品としてはその緊張感やスピード感ゆえに永遠の名作ではあり続けるだろうね。「この作品の当時は『できちゃった婚』などの言葉があり、道徳的な批判があったのです」とか注釈をつけて・・・・・・。
「鈴木先生」がジャンプ漫画のバトル的な味わい、さっき「ドラゴンボール」に喩えたのは、実は彼らの描写は、中学生のリアルからはある程度割り切って離れている、と思われるからだ。
「鈴木先生に出てくる登場人物の思考はリアルですよ!うちも楽屋や、バラエティのひな壇では同じ様に猛烈な情勢判断や計算を脳内でしてる」という、あるお笑い芸人のレビューを読んだ記憶があるが、さすがに芸人さんならそれぐらいやっても、中学生は無理でしょう(笑)。かりにそんな計算をやってたとしても、あそこまで言語的に自覚しているということはないはずだ。
だけど、それをやることによって「むう、あ、あれは…」「知っているのか雷電ーーっ?」のような、解説的な要素を相互に、あるいは自ら補填し、分かりやすい「会議バトル」としている。そして、中学生のリアルさより、会議漫画の高みを目指すために、皆を「論理の超人」「レトリックのモンスター」と化したことで、実に高度な議論を漫画として提示させることに成功したと思う。
それは、ある種の失敗した本格推理のように議論が上滑りして、ただの無機質な論理構成になるんではなく「会議の『空気の流れ』」「意外な人のひとことで雰囲気が変わる」「中立派の転換」など、会議の生き物としてのあり方も描写した。
そして・・・最初に書いたことと一見矛盾するようだが、論理や議論の皮をはいでいくと、やはり「中学生らしい」無知や甘え、残酷さ、純粋さや可愛げが核にあるという、二重の構成を仕掛けていた。
さて、そんな「会議もの」の傑作を日本はすでに持っている。三谷幸喜の「清洲会議」はこれを超えるか?超えないにしても、面白かったら上記2作(鈴木先生は映像化もされてたか)に加え「日本の三大会議もの」に認定しよう(笑)。