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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

凸凹姉弟漫画家の不思議な関係…森繁拓真(となりの関くん)と東村アキコ(ひまわりっ、海月姫)

となりの関くん」祝大人気

となりの関くん」が今月、最新4巻が出まして・・・出るのはいいんだけど

その帯に「アニメ化決定!!」と書いてあってね。
http://natalie.mu/comic/news/88096

森繁拓真となりの関くん」のアニメ化が決定したと、本日4月5日に発売された月刊コミックフラッパー5月号(メディアファクトリー)と単行本4巻にて発表された。

となりの関くん」は、マジメ女子・横井さんが、隣の席の男子生徒・関くんのさまざまなひとり遊びを観察し続けるコメディ。「マンガ大賞2012」にもノミネートされ、単行本は累計160万部を突破している・・・

自分は、このブログでも「この作品は性質上、いくら人気があってもアニメ化とかドラマ化とかされないだろう」と書いてたものが次々と実現して、そのたんびに驚いていたが、ようやく耐性がついて、今回は「なるほど」と冷静に思いましたよ(笑)。


しかし、4巻発売直後の記事に「累計160万部」と書かれているってことは実質3巻で160万部、つまり・・・1冊50万部以上??
すごいな。


ここだけの話だが、1巻発売当時、掲載誌のことも作者のこともさっぱり知らなかった。ただ帯で、表題にうたった姉・東村アキコが「わが弟タクマはどこへ行こうとしているのか!」とガラスの仮面的白目顔で叫んでいたので、つい見本誌を手に取った。

本人の実家族の体験談が大元にあるという「ひまわりっ」でも弟さんが出てきたし、漫画の道に(姉より一足先に)進んだこともちょっと描かれていたしね。


で、見本誌のエピソードを一読。
「え?なんか懐かしい、というか古いというかの絵柄・・・学研や小学館の『学習漫画』で描かれるような・・・」が第一印象(いまでもそう思うが)

そして内容・・・・実はこの作品、1巻を購入した際の決め手は「こんな変な漫画は、俺以外のだれも買わないだろうし、今買わないとどこでもすぐに入手できなくなるだろう!」という大変失礼な、おまけに結果的に正反対な感想を持ったからだったのです(笑)。


それがいまや、おお外れの恥ずかしい感想となったのは慶賀慶賀。

となりの関くん」あらためて感想。

はじめ「こんな変な漫画」「続かないだろ」と思ったのは、テーマ(授業中の一人遊び)というより手法ですね。
授業をサボってひまつぶしに何かする、とくに一人遊びをする・・・はだれでも、それなりの経験があるだろう。自分だって、これに段位制度があったらブラックベルトを巻いている気がする(笑)。てか、もう少し範囲を広げて「学校内であほな男子生徒(なぜか男子限定)がやりはじめる、馬鹿馬鹿しいオレ的独創あそび」全般を描くのかな、と思ったりしたんですわ。いわゆる「超人野球」「宇宙麻雀というと、一部の層には通じるだろう(笑)


しかし4巻、アニメ化に至る人気を得るまで、基本的に「一人遊び」というラインを崩していないし、そして・・・ついに1回も主人公の関くんは言葉を発していない。ここまで無口な主人公はノッポさんぐらいだ。
彼の内面も、結局語り手の女の子を通しての推測でしかない。
その推測する女の子の様子を、さらに推測し、二人は”熱い関係”だと誤解する友達まで出てくる始末(笑)

もともと、突拍子もない畸人を描きたいときは常識人のワトソン役が傍らにいて、その人の視点、モノローグを生かす。そして観察される主人公の内面、動機はわからない、一種のブラックボックス化する・・・というのはそれなりにセオリー内だが、さすがにここまで徹底できるとは思わなんだ。


また、「授業をさぼっての一人遊び」なら必然的に「あるある!」「懐かしい!」系のはなしになるのかな・・・と思ったら、とんでもなくシュールな方向に進んでいるところもあっぱれだ。ある意味、この作品には裏をかかれっぱなしでございました。


ついでにいうと人気の秘密にはちょっと「畸人が他人の目を気にせず、自分の好きなこと、趣味に没頭していたら、勝手にかわいい女の子がそのこと(を通じて自分)に興味を持ってもらえる」というのがファンタジー的な憧憬があるのかも・・・と思わないでもないですが。

【参考】
最近のライトノベル・ヒロインの流行は『自分の趣味が通じる女の子』?
http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20121028#p1


まったく余談・・・というか誰にも通じない論点だが、関くんは、たこの脅威を知り、人間として、たこ(正確にはたこさんウインナー)と戦う勇者でもある(2巻だったかな?)。たこの脅威について常々考えている自分としては、このことも特筆大書し、たかく評価したい。
(たこの諸問題に関しては、下のエントリを参照されよ)

イカ、そしてたこの脅威に対し、全人類と全脊椎動物に訴える。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110228/p3



お姉さん、東村アキコとの関係

まず、きょうだいでの漫画家、というと・・・まずちばてつやちばあきおが思い浮かぶ。弟さんは非常に悲しいことになったが、病気も関係していたのなら仕方が無いのかもしれない。
片方はライターだが、原作と漫画での合作(唐沢商会名義)もあるということで唐沢俊一唐沢なをきの兄弟もいる。あとファンロード出身の姉妹・・・なんと言ったかな。彼女らもいましたね。まあ漫画の道に進むのは環境も大きく関係するのだから、それなりにいて当然だろう。裏方に回る兄弟とかも多いとか。

当然、東村氏と森繁氏も、子供のころから互いに影響を与え合ったのだろう。それは双方のエッセイ漫画や自伝漫画などでおいおいわかってくるかもしれない。
(アキコ姉さん、もはや”大家”扱いで自伝漫画を描き始めているんだ(笑)来月二巻目)

自分は絵がうまい。本気でうぬぼれていた林明子(高3)は竹刀を持った絵画教師・日高先生に罵られ…!? 少女まんが家を夢みたあの頃を描くドラマチック・メモリーズ!

ただ、以前東村アキコは「『ひまわりっ』を描いていたら家族親戚からたいへんお怒りをちょうだいし、特に弟から『僕のことを出すな』と言われた」的な発言をしていたような。
 
おお・・・記録していた俺の勝ちだ!!(誰に対しての勝ちだよ)

ひまわりっ 〜健一レジェンド」の作者東村アキコが、身内を描いて世間を狭くしているという話
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20090806/p6
でもなんか、ちょっと、うち・・・地元の宮崎のほうの、なんか親戚の親族会議で、もうなんか「アキコをどうにかしろ」みたいな感じで、その、親戚をネタにして笑いをとるのをもうやめさせてくれと、本気のブーイングがけっこう上がってきてて、であの、実の弟からも、本当にもうお願いだから俺たちのことをマンガにするのをやめてくれと、親戚にビビっていま封印気味ですね。」
(テレビ番組「マンガノゲンバ」での発言)

やっぱり「実の弟」には理解してほしかった、みたいな甘えというか親近感も感じる発言だ。


それと・・・いまとなっては笑い話だが、自分が2人のきょうだい関係を認識していたのだからたぶん「となりの関くん」1巻の発売と前後していたのだろう。
自分が勝手に「えっ・・・アキコ姉さん、こんなこと描いていいの? 弟さんも漫画家なんでしょ?」とびびったのが、「主に泣いています」ででの1エピソード。
「超美人の姉さんのおかげで、自分が好意をもった人がすべて姉になびいてしまうことでコンプレックスを持ってしまい(姉は仲良くしたいのに)すっかり関係が冷え切った妹」の登場する話だ。

美もひとつの才能だということは否定できない。
そこで「圧倒的にその才が優れている姉。少なくともその分野では客観的に見て、まったく姉に及ばない妹と、そのコンプレックス」なんてものを描いたら、同じ漫画家で(当時)大成していない弟さんとの関係が悪化しないのかしら・・・・と、まったく余計なお世話な心配をしていた次第です(爆笑)。


今から逆算すれば、姉はとっくに弟の才能と、それが世間からちゃんと評価されるであろうことを見抜いていて、自分の描く姉と妹の関係とはまったく無縁の状況になることを確信していたから、安心して描いてたのかもしれないな。これも勝手な後付け妄想だが、なんとなくいい話ではないか。
というか森繁氏の「となりの関くん」はワンアンドオンリーの国からワンアンドオンリーを広めにきた、ワンアンドオンリーのプリンスみたいな作品だ。
姉アキコだけじゃなく、手塚治虫だろうと石ノ森章太郎だろうと、浦沢直樹だろうと「こういう漫画は描けない」という点では同じ。堂々男子の面目ぞ、というべきである。


なぜかお姉ちゃんぶるアキコ。そして生まれた「いいなりゴハン

だが。
天下のワンアンドオンリー漫画「となりの関くん」作者にして、アニメ原作者となられた森繁先生に対して、アキコ先生は・・・
サイバラ漫画のレポートなどによると「実に気を遣う謙虚な女性だった」と描かれたこの女性が、いきなり弟にだけは今でもボークン、独裁者と化すのだ。そしてそれは高校のころから。

しかも
「まずエッセイ漫画を描け。エッセイ漫画は付随した仕事がいろいろ来るからおいしい。そこから自分の創作漫画に読者を呼び込むんだ。あたしも『ママはテンパリスト』はおいしい仕事だった」(ちょと歪めた大意)
とか、だいぶ生臭いことを言う(笑)

なんか毎回のことらしくて聞き流していた弟さんだが、彼女の持ち前の人脈だか影響力で、森繁氏のエッセイ漫画の企画が本当に進んでしまう(笑)。しかも連載しながらの紆余曲折の末、「東村アキコと一緒に食べ歩きをする」、というコンセプトのグルメ漫画になったのであります。
それが

私はこの漫画を2012年の収穫のひとつと評価しているし、2013年の注目作品として引き続き注目している。
なぜか。いいなりゴハンというタイトルだが、実はこの作品
「いいなりお肉」
というタイトルがふさわしい漫画だからだ。

【経緯】
(1)東村アキコが仕切って、彼女推奨の「おいしいお店」に出かける。
(2)彼女は、お肉が好き。
(3)ほとんど、肉の店が登場するお肉漫画になる。

正義。
正しい。
ひとつの曇りもない。
まさに天下の大道をゆくべし!!
東村アキコさんは
「男はみんなダークナイト好きなんだよ!」という名言ひとつで漫画史に名を残すだろうが
「肉のほうが好きだわ やっぱり私」というのも名言に値しよう。
というか、この名言集を見よ・・・
 

先生のおっしゃられることに一字一句、一点の誤りも無い。聖書か。論語か。ソクラテスの弁明か。
あたしはついていきます。
そのあまりにこんな「漫画と肉」を考察するyoutubeまで作った。


また、肉のお店がそれなりに一般人も入れそうな、非超高級店であることもありがたい。彼女お勧めの渋谷のホルモン屋「ぶち」に一回、「にわかっち」さんらと行ってみたが、残念ながら満員で入れなかった。
実用グルメガイドとしても結構役立つんじゃないかしら?

これはお金がないと出来ないが、彼女はヒット作のあぶくぜにで韓国に月1回ぐらいのペースで夜遊びにいくのだそうだ。(もちろん肉を食す)。
ここの「ソウル篇」では
「ちくしょー ソウルめ 胃袋がいくつあっても 足んねえぜ」
という名言を残している。
自分が10数年前に行ったときとは、町の風景もいろいろ変わっているみたいだ。今も円安をものともせず出かけているのだろうか。


しかし、「ほかの人に対して外ヅラはいいのに、姉ちゃんは弟の俺に対しては何やかやとうるさいんだよな。えらそーに年上ぶって、干渉してきて・・・」というのは、なんか”ほのぼの漫画”のヒロインチックだな。少女漫画を積んだベッドで寝ていたというコテコテの漫画ファンだった東村アキコ氏は、そういうパターンの再現を無意識内にしているのかもしれいない(笑)。

追記 ブクマより。確かに豚レバー生食肯定はよくない・・・

id:pokute8 いいなりご飯は読んだけど、豚生レバーを「牛生レバーが食べれなくなるから救済措置」として紹介したり、グルメぶった素人がいかに性質が悪いか思い知った作品だった。

書き落とした話題でしたが、確かに読んだ時「あっ」と思った箇所だ。
「リスクの高いものを自己責任で食す」というのは愚行権とも絡んでいろいろ議論もできるし「自己責任で食っているんだ、OK」という説も完全否定する気はないが、感染するものとなるとね・・・
もし再版されたら、注釈などを容れるべきかもしれない
はてなやtogetterにはもっと詳しい記事があるので

『豚の生レバは規制の対象外です』について - Togetter
http://togetter.com/li/322229
肉の生食関連エントリまとめ
http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20110502/1304255933

そして弟の逆襲!!(たぶん)姉をモデルにした4コマも

http://houbunsha.co.jp/comics/detail.php?p=%A4%A2%A4%CD%A4%B0%A4%EB%A4%DF
大注目作家の初4コマ登場! 遊びゴコロは姉ごころ! 同じオモチャ会社に勤務する姉と弟。花形部 署の敏腕課長の姉に対して、総務で下支えを する弟が何かと振り回され笑いが巻き起こり ます。「となりの関くん」が大ヒット中の 作者が贈る遊びにこだわる4コマ作品です。

もう発売されているのか。
せっかく報復兵器を手に入れたのだから(笑)今度は「本気のブーイングがけっこう上がってきてて、であの、実の姉からも、本当にもうお願いだから私のことをマンガにするのをやめてくれと・・・」てなことを、自分がインタビューに答えるようなところまで描いちゃってください。





東村アキコ「男はみんなダークナイト好き」補論(コメント欄より)

以前書いた

■「バットマンダークナイト」で判る、東村アキコの独特の感性〜本日のTV放送にちなんで
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120624/p2

に最近、面白いコメントをいただいたのでそのまま転載。

■ときつかさ 2013/04/18 10:48
10ヶ月前のエントリーにおじゃまいたします。
私は東村アキコ先生のダークナイトのくだりを読んだ時、100%共感しました。
「男はみんなダークナイト好き」という言い方がしっくり来ます。
だけど私の彼氏はダークナイト好きじゃないのです。
私と同じように共感するひとはどんな人かしらと思って検索した結果こちらに他取り付きました。
この場合の「男はみんな」というのは私にとっては「そこそこ映画を好きな男と映画について話をするとみんな」というような意味です。
「男と2人きりで映画と(映画好きである自分の)センスについて語る」状況が目に浮かぶようです。そんな会話を通して私は「男ってみんなディア・ハンター好きだな・・」「男って全員許されざる者好きだな!」と思うようになって来ました。
でもこの場合の「男」はすべての男性を指しているわけではないのです。
言い換えれば「男のあこがれやらぐっとくるポイントやらかっこよさのある面は、どうやらダークナイトに凝縮されているらしいな・・」という感じです。
逆に「女はみんな○○が好き」の○○に入るのは何なのでしょうか?
アメリとかプリティーウーマンなんかが女性に好まれる映画ですが、それは、gryphonさんの書かれていたウルトラマンに相当するようなあからさまな好みのような気もします。
主に泣いてますの名セリフ「ゲイを好きだって言うことは中学生女子の専売特許だろうが!結果が出ない分、ホントの恋より傷付かなくて済む。」(中二女子ツネについてのトキ婆のコメント)から、「女はみんなホモ映画(プリシラ)好きなんだ」というのはどうでしょう?

■ときつかさ 2013/04/18 11:08
連投すみません。
>「男と2人きりで映画と(映画好きである自分の)センスについて語る」状況
読み返してみたら、この表現があまりにも恥ずかしかったもので、訂正させてください。
映画の好き嫌いについて話をしていると「おまえのセンスが悪いんじゃない」というニュアンスを含んだ醜い言い合いになってしまう状況のことを言っています。
あるいは、私の好きな男が映画について語るのを聞いて「へ〜そんなの好きなんだ。あんた蓮實重彦みたいだね」と思いながらも彼のことを好きなので肯定して聞いている状況のどっちかです。
私は現在30代後半で東村先生と同世代です。
大学生の時分だったら「蓮實重彦や彼のいう”良い映画”」が自分にとっても素晴らしいもののように思い込めました。
しかし、それから10年以上経った今では、自分の心を否応なく熱くするもの(韓国ドラマとか)に出会い「男の趣味に付き合う必要はないんだな」と初めて気づいた気がします。自分の中の女ならではの趣味を認めると同時に、男から見た「可愛らしさ」が激減するというターニングポイントだったかも知れません・・・

■gryphon 2013/04/18 22:04
ははは、ふむふむ。
女性にとっての『ダークナイト』映画、というのはとても想像が及ばないのですが、近いうちにふたたび東村アキコ&その弟さんについて論じる予定だったので、これを使わせてもらいます
(まさにそのまんま使います)

■ときつかさ 2013/04/19 11:28
gryphon様
長文の垂れ流しコメントで大変失礼いたしました!
でもgryphonさんにとっていまだ東村先生がホットな話題ということなので少し安心しました・・(^_^;)
学生のころは心の男女差はないことと思っていたので、
東村アキコよしながふみ男性誌に掲載される世の中に生きていることができて、気楽でよかったなあと思います。