http://www.asahi.com/paper/column20120319.html
2012年3月19日(月)付
権力を批判する落書(らくしょ)や風刺のたぐいは、抑圧された国や時代ほど傑作が生まれるものだ。北朝鮮の平壌で「3頭目のクマが現れた」と風刺する反体制ビラが見つかったのは1年半ほど前だった。当コラムでも触れたことがある▼金正恩(キム・ジョンウン)氏が世襲3代目として浮上したころで、「あなたが太ると、我々がやせる」と書かれていた。捕まれば死罪も覚悟の抵抗だったろう。その新指導者を先代の急死によって戴(いただ)いた国が、困窮する国民そっちのけで、またぞろのミサイル発射予告である▼北朝鮮は「人工衛星を載せたロケット」と言うが、基本は長距離弾道ミサイルと変わらない。3年前の発射も、北朝鮮はロケット「銀河2」と称したが、米国などはミサイル「テポドン2」と呼んだ。今度のは「銀河3」と名がつくらしい▼故金日成(キム・イルソン)主席の誕生100年の今年は、北朝鮮にとって重要な年だ。加えて3代目の箔(はく)づけ、国際社会との交渉カード――。様々な思惑を混ぜ込んでの打ち上げだろうが、民衆を飢えさせながらの「火祭り」に変わりはない▼食うや食わずの人々は疲弊し、99年ごろには「ヒツジとウサギは死に、オオカミとキツネは生き残った」とささやかれたと、脱北者が本紙に語っていた。まじめに生きている者から餓死するという意味だ▼道ばたには幼児や高齢者の遺体が横たわっていたそうだ。経済は多少改善したとも言うが、この冬の厳しさを思えば暗然となる。耐える人々に「春」はどんな形で、いつ訪れるだろうか。