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伊東光晴が書評を借りて「フリードマン説」を全面否定

8月7日付の毎日新聞書評欄
非常にインパクトが強く、長く論争の対象になるかと思って敢えて全文を再録させてもらった。
といっても「フリードマン的主張」とか「フリードマン説」がそもそも分からないので、分かって賛否が言える人の目に触れ、論じて欲しいと思う。

http://mainichi.jp/enta/book/hondana/archive/news/2011/08/20110807ddm015070003000c.html

今週の本棚:伊東光晴・評 『日本の失敗を後追いするアメリカ…』=服部茂幸・著(NTT出版・2520円)


 ◇量的緩和政策の誤りを追う

 日本の九〇年代の不況は、フリードマン的主張をクローズ・アップさせた。日銀が貨幣数量を増加させれば不況は解消するというのである。他方、わが国の官庁エコノミストの第一人者ともいえる赤羽隆夫氏(元経済企画庁次官)は、「フリードマン説はいまではほとんど誰も信じないが」と書いていた。

 注意しなければならないのは、このフリードマン的主張をくりかえす人たち−−その代表は岩田規久男氏−−は、不況から脱出できない責任を日銀の政策、具体的には故速水優総裁に負わせようとする政府の尻馬にのるだけで、赤羽氏の実証的研究も、金融政策の非対称性−−金融政策はインフレには有効でも、デフレには効果を持たないというイギリス経済学者の共通認識−−も読もうとしなかった。批判に聞く耳を持たず、政治にくい入るという点で、東大工学部原子力工学科が作った原子力村と同じであった。

 こうしたなかで、フリードマン的政策が効果を持たないことを、九〇年代日本に則して実証的に展開したのが服部氏の前著『金融政策の誤算』(NTT出版)であった。

 この本は、同じ視点で、二一世紀のアメリカの政策の誤りを追ったものである。

 本書が明らかにするように、アメリカは一〇年おくれで日本と同じ道を歩んでいる。

 日本では八〇年代のバブルが九〇年代に入って崩壊した。アメリカでは九〇年代に住宅・不動産バブル、ついでITバブルがおこり、今世紀に入って崩壊した。そして両者ともに長期不況−−いわゆる失なわれた一〇年へ、である。アメリカは日本の失敗を後追いしている。こうした指摘と同時に著者はバーナンキ等のマネタリストを登場させる。

 フリードマンを無批判的に崇拝するバーナンキは、九〇年代の日本の不況にさいしては日銀を批判する。他方、オバマ政権が登場し、中央銀行FRB)のトップに再任されたバーナンキは、この量的緩和政策をとったが、いっこうに効果がない。この本で面白いのは、バーナンキとともに、日銀の政策を批判したクルーグマンが、アメリカの現実から一転バーナンキ批判に変ったことである。クルーグマンを引用し日銀の速水元総裁を批判した日本の評論家は、今どういう顔をしているのであろうか。

 なぜ量的緩和政策は効用がないのか。この本は実証的にその理由を明らかにしている。中央銀行が、銀行が持っている証券を購入して、市中の貨幣量の増加をはかろうとしても、それが銀行の持っている中央銀行当座預金勘定に積み上がるだけで、市中に出ないのである。不況下では融資先がみつからない。ケインズピグー、ロバートソン−−その立場は異っても金融政策は(インフレには金融引締はきくが)デフレにはきかないことを認めている。このことは、日本の九〇年代でも実証ずみである。

 フリードマンは通貨が増えると数年後物価が上ることを実証的に明らかにした。しかし、この通貨と物価とは対応していない。物価はGDP(国内総生産)デフレーターであるから、土地・証券等の価格は入っていない。FRBの元トップのボルカーは、通貨量は増えているが物価が上がっていないので、バブルを放置した。本書が批判するとおりである。

 本書の後半の章では、量的緩和政策が国際経済に与えたマイナス面があつかわれている。ゼロ金利国で資金を調達し、これが海外で投機マネーとなり、世界経済を混乱させるのである。