INVISIBLE Dojo. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

小学校を舞台に宗教誕生?…イブニング「よいこの黙示録」に大期待する理由

この前の続きとなります。
イブニングで今、連載開始から通算4回が掲載された青山景の漫画「よいこの黙示録」についてです。まだ序盤の序盤ながら、非常におもしろく、期待できると思っています。

【1−4回までのあらすじ】

新人教師・湯島朝子が担任の産休で受け持った4年2組のクラス。表面上は平和だが、クラスのリーダーの個性のぶつかり合いや、いじめが発生するおそれなども無くはないようだ。
 
そして着任当日、クラスの中でも低く見られている?篠崎桃華という少年が、同じクラスの幼馴染の少女・森ユリカが都会の川にホタルを呼んだ−−という作文を書いたことがきっかけになり「川に行って、ユリカに実際にやってもらおうぜ!」という話になる。
突然の騒動にとまどう湯島先生だったが、実はこの話は同じクラスの伊勢崎大介によってたくみに仕組まれたものだった。
いつもはクラスの中にたくみに隠れているが、その実は悪魔的な才覚を持つ早熟の天才・大介。彼は、ひそかに湯島を招き「このクラスで、ユリカを教祖とした宗教を作る」という真の計画を打ち明ける!!−−そして上で湯島に「河原に仕込んだ電飾を点灯させて、ホタルを呼ぶという”奇蹟”を演出してくれ」と依頼したのであった。

躊躇しながらも、ユリカや篠崎がうそつき呼ばわりされていじめの対象になることを恐れ、電気仕掛けの「奇蹟」に加担する湯島。だが、この一夜の体験は噂につぐ噂を呼び「彼女に手かざしされた牛乳が甘くなった」と飲んだ子が証言したり、「あの子は呪われた存在!」という匿名のチェーンメールが流れたりと徐々に、森ユリカの存在が巨大化していく。
 
その光景を横目で見ながら「この後、彼女は弾圧される(いじめを受ける)だろう。だがそれが、反転してスティグマ(聖痕)になるるはずだ」と、今後の見通しをうそぶく大介。

いったい、このクラスはどこに向かうのか?? そもそも、このプランを発案、実行した伊勢崎大介の、真の狙いは何なのか?
謎を秘めたまま、小学生による小さな小さな”宗教”の胎動がはじまる−−−。

 
・・・・・・・・・と、いうお話。

個人的に大好きな「あのジャンル」。

これがおもしろい!大好きだ!!というのは、客観性も十分踏まえているけど、個人的な趣味も入っている、とあらかじめ認めておく。


あとでリンクを紹介しますが、このブログでは以前から「こういうジャンルが好きだ」、と折にふれて紹介している一連の作品があります。
(1)情報、物語や「ごっこ遊び」が暴走したり、雪だるま式に肥大していって大事件を起こす
(2)人間関係や権力関係を「可視化」し、それを戦略的に操ろうとする人間たちのゲーム的な対立
(3)とくに(2)を、学校という特殊な舞台で描く「スクールポリティックス」。


いままで、それに関して書いた文章
■「キージェ中尉」の紹介。僕はこのジャンルが好きなのだが、何と呼ぶべきか・・・
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100912#p4
バクマン。は「スクールポリティックス」(略称スクポリ)を描けるか
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080826#p4
■すっごく面白そうな小劇場映画2本。「ロフト.」と「ザ・ウェイブ」(ザ・ウェイヴ
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20091121#p2



こういう傾向のある自分だからこそ、「この作品はおれにぴったりだ!まさに『俺のための作品』だ!」ぐらいに、この漫画はどんぴしゃ、ピッタリとはまりました。
まぁ、そう言いながらこの時期になってはじめて気付いて、さかのぼって読んでですからあまり褒められないですけどね(笑)。


と同時に、わが道場本舗の特徴として、自分の記憶をたどって「類似した作品はないかな〜」と脳内スキャンしますです。
上のリンクをたどってもいろいろ同一カテゴリーの作品はあって、これからおいおい紹介したいけど、今回、おれの脳内で該当したのはとくに(3)の部分では

これは超有名だから名前だけ紹介。
 
もうひとつは、満遍なく該当するものとしてん?この作品はベストセラーにもなり、原作のビートたけしも副主人公として登場し、映画にもなったんだが検索する限りDVDにはなってないっぽいね??なぜだろう。

【追記】その後待望のDVD化。

goo映画レビューより

・・・高山和夫(萩原聖人)は帰省途中に、ある新興宗教団体の布教活動を目撃し、そのインチキ臭さに逆に興味を覚え、教団の主管である司馬大介(ビートたけし)の口添えで一行に加わることになる。やがて教団の中では、教祖を純粋に奉り、神への信仰を全うしようとする青年部の駒村(玉置浩二)たちと、宗教活動を金儲けの手段と考える司馬や経理担当の呉(岸部一徳)ら二つの勢力があることが和夫にも分かってきた。そんなある日、行方不明の父親を探していたという教祖(下条正巳)の娘たちが現れ、教祖は家に戻ってしまい、司馬は教祖など誰にもなれると何と和夫を二代目の教祖に・・・

影のカリスマ演出者が、偶然ながらよいこの黙示録と同じく「大介」だな。
そして今考えると、えらくキャストが豪華。
個人的にはなんといっても、「寅さん」ではフラフラした寅を説教する、ごくまっとうな市井の常識人として登場していた「おいちゃん」が、ある意味ビートたけし以上にいいかげんでスーダラな欲望まみれの「教祖(初代)」の役を、ノーリノリで演じていたのが楽しかった。


宗教を描くとき、その奇蹟やご利益に大して「詐欺」という視点から光を当てる、描く…というのは当然ありえる。だが、ひとつの定番として「最初はあくどい連中が詐欺のつもりでやっているはずなのに、周辺に感化されマジになるやつが出るなど、宗教の狂気によってコントロールのたがが外れていく」というパターンがあるのです。
 
 
実はこの方面ではあとひとつ思い出したものがあります。あと半世紀後には作家ではなくこちらの業績が残るのではないかとひそかに思うほど、「啓蒙エッセイスト」としての側面が強い作家・清水義範ですが、得意のパロディ性と啓蒙性が融合した

という本を書いています。

はまったら抜けられない?清水&宗教の世界!“開祖たち”は、詐欺師、怒りっぽい族長、世間知らずのおぼっちゃまだった?小説より奇なる事実よりさらに奇なるもの“宗教”をテーマに、パスティーシュの天才が築きあげた大スペクタクル。世界に誇る3大宗教(アルカマ教、サライ教、ジブ教)はいかにして生まれたか。開祖が現われ、教典が編まれ、正統と異端が生まれる。嵌まったら抜けられない清水ワールド。悩める者よ来たれ。


さすがに不必要な挑発はしないスマートさで、世界三大宗教のあれはアレに、あれはソレに、これはドレに…と固有名詞を書き換えているが、普通に分かる(笑)、と、架空にした上で「どうしてあの宗教には、こういう教義があるのか?」「異端はいつ生まれるのか?」「世俗の権力と宗教はどう折り合いをつけるのか」などを非常に分かりやすい図式に落とし込んで小説化しています。

で、ここに登場するひとつの宗教開祖は「手品の技術を利用した詐欺師」として扱われているのです。もうひとりの頭が回る相棒と組んで各地で「よいこの〜」と同じように人工的な奇蹟を演出、あらかせぎをするのですが、旧宗教から次第に目をつけられます。しかしー−と続く。
どの宗教がモデルとかは、色々ヤバいんで言うのをはばかるのですが、詐欺師扱いされたのは”立川のジョニー・デップ”と関係ある宗教開祖かもしんない。
 
 


ま、そういうわけでして、この4年2組で立ち上がる「宗教」も果たして湯島教諭や大介らによって、ずっとコントロール可能であるのかどうか。最終的には暴走・原理主義化するのもひとつの自然な流れではある。
 
実はこの作品、第1話はこの宗教運動を後から振り返るシーンから始まる倒叙式の展開をとっていますが、それがニュースかワイドショーの取材番組らしかったので、最終的にクラスが社会的にも問題視され、注目を浴びるような行動にに出たことは間違いないようなのです。
 
果たして彼ら、彼女らは最終的に、いかなることをやらかしたのか−−。
思わぬことに巻き込まれる形となった新人女性教師・湯沢の運命は。そして
予言者、崇拝者、弾圧者・・・それらの総合プロデューサーは−−−−。


小学校のクラスの権力構造?を描写し「スクールポリティックス」を描く?

まだ無邪気な子供たちの中にも、小学生になるとかならず派閥が生まれ、グループができ、その中で上下関係も生まれ抗争やイジメも発生する。というかいじめの大きな原因のひとつが、そういう権力構造にある。
 
しかし政党同士の対立のような「選挙で決着」も委員長選び以外にはなく、また企業のように「だれかが社長に就任する」という決着もない。タテマエ上はだれもが平等で、勉強や運動の優劣も個性の差に過ぎない数十人の群れが、これまた限定された権力を持つ「教師」の指導によって運営され、秩序を保っていく。

実際に小学校や中学校にいたときは意識しなかったが、それが漫画とねり、リアル・ポリティックスの立場でいったん”可視化”の描写を加えてから見てみると、面白くならないはずがないのである。そしてそこから生まれる抗争と和解の外交交渉は、三国志や戦国時代の国盗り物語を髣髴とさせる面白さが出てくる。
 

デスノートのコンビが描いていることもあり、当初私はこういう作品に「バクマン。」がなっていくかなと思ったのだが、あの作品はごく初期にそういう高校生らの「立ち位置」に関する言及があったものの、すぐに卒業して熱血少年漫画になっちゃった(笑)。

 
なんといっても「子供同士でも深刻な権力闘争があるんだ」ということを正面から描いた作品は

なんだが、例の「鈴木先生」も、クラスをコントロールするための権力術、ポリティックスを必要以上に可視化して描写している−−つまり自省的な鈴木先生が、自らの戦略や情勢分析を長々と心の中で独白するのです(笑)。

あれはけっこう読みにくくはあるが、ひとつの切り口としてこれを読む価値は大きいと思います。
そして、何かを決定する際に「A案か、B案か」を論じるだけでも、戦争に変わらないような緊張感や戦いがあるんだ、という点ではが傑作ですなあ。

ん?この漫画は「完全教祖マニュアル」や「よいこの君主論」に学んだかも?

よいこの黙示録」が「よいこの君主論」とタイトル的にもダブっているのは偶然なんだろうけどね。
「完全教祖マニュアル」は作者二人によるプロジェクトチームがはてなにブログをもっていて、一度紹介したことあったっけ。
http://d.hatena.ne.jp/Halalneet/
わたしは「完全教祖」の一冊しかもってないけど、これは十分評判にたがわぬ面白さだったデスよ。


ある程度、「よいこの黙示録」が人気作品になったら(なるのは間違いない!!)、この二人に少し関わってもらって作者との対談とか、いろいろと
論じて欲しいものだ。

あれ、架神氏は10月に新刊を出したらしいぞ?

もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら

タイトルだけで鎮護国家。(意味不明)
ただ、「こち亀」に「木魚を8ビートで叩いた坊主」というのが昔出てきたっけ(笑)。

【追記】作者の青山景氏はtwitterをやっていた。

http://twitter.com/#!/aoyama_kei

青山景
@aoyama_kei すみっこ
漫画描いてます。『SWWEEET』『ピコーン(共著)』『チャイナガール(共著)』『ストロボライト』…現在イブニングにて『よいこの黙示録』連載中


※最終的にこの作品は、作者が連載中に自ら命を絶ち、連載中の2巻で、未完に終わることとなった。残念です