「バクマン」「ガラスの仮面」「べしゃり暮らし」「美味しんぼ」「社長島耕作」「クッキングパパ」「イーグル」…といった作品を見て、個別の評価や好き嫌いを超えて「大変だろうなぁ」と思うのは、劇中の中でそれなりに
「面白いストーリー(漫画、劇、漫才)」
「優れた政策、企業戦略」
「おいしい料理」
などを、それなりに説得力のある形で出さなきゃいけない、ということです。もちろんそこから逃げたりごまかす手段もたくさんあるんだけど、少なくとも上に挙げた作品はそのへんを(成功不成功は置いても)、一応具体的に出すようにしてるね。
バクマン。原作の大場つぐみも「そういうアイデアがあるなら実際に描いたほうがいいんじゃない?」とちょっとばかり思わせるような作品プロットを、主人公のコンビやそのライバルの作品として次々に登場させてきた。
で、今回主人公コンビはあれやこれやあって、次に大ヒット作を飛ばさないと絶対にダメ、というシチュエーション。ここで苦悩、苦闘の末に考え出した物語のアイデアは、やっぱりそれなりに読者にも「へぇ?面白そうじゃない」と感じさせるものでなければいけなかった。
で、そこで出てきたのは
『完全犯罪クラブ』。教室の友人のペンケースを、中身までそっくりのものを用意してこっそり入れ替えたり、例えば「銀行の金庫に入って「侵入したよ」と張り紙だけして何もとらずに出るとか・・・要は実害は無いという限定の中で、怪盗やスパイ的な行動をとっては楽しむ、そんなミステリーチックな少年達を描く、というお話らしい。
主人公コンビは実際の友人らを対象に、その実例に近いようなことも行って成功させます。
少なくとも僕は、たしかに「お、いいじゃん。つーかそういう漫画、そのまま読んでみたいな」と作者の手の内にそのまま引っかかって、思ってしまいました。
なぜそうなのか?そこを書いていきたいと思います
男は(も?)常に一匹のスパイである
近年「佐藤優現象」という問題が提起され、一部で議論されている。
http://gskim.blog102.fc2.com/blog-entry-23.html
これは思想的な意味のある真面目な話なのだが、言葉だけを借用して、佐藤優氏がなぜ人気があるのか?人気が爆発したのか?について考えると、根本のところに「21世紀の日本に久々に登場した”大物スパイ”だったから」というのがあると思う。
もちろん、「だれでも知っている大物スパイは、すべて失敗したスパイ」(本当に成功したスパイは知られることが無い)というのも事実で、実際に佐藤氏も最後に失敗したスパイではあるのだが、ソ連崩壊のときにすごい情報をゲットした、とかロシアの大物と信頼関係を築いた・・・みたいな実績も確かに多数なのである。最初に彼らが逮捕された直後から、産経新聞の斎藤正氏らがその活躍ぶりを紹介したし、デビュー作「国家の罠」は、逮捕されてからの検察の取調べとの攻防も含めて、ひとつのインテリジェンスもの、スパイものであった。
- 作者: 佐藤優
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で、私だけかもしれないが・・・というような謙遜はやめる。ここで断言するのだが、男は・・・というのも事実誤認で性差別とも言われかないので女性も含む。みんなスパイやりたいの!
勝間ナニガシとかがよく「仕事の技術」みたいな本書いてるらしいじゃん。私はその手の本はハナッから鼻で笑い(うまいな)、ページを開こうという気にもなれないのだが、実は佐藤氏、よくそういう仕事の手順みたいなことを書く時
「優秀なスパイはXXXをしている」とか記述するのね(例えば「優秀なスパイに記憶力は必須である」みたいな)。そうすると、同じ仕事術みたいな文章でも、「そうかスパイにこれは必要なのか、じゃあそれをしなければ!」みたいに受け止めるのね(笑)。
ココロの中のスパイというのは結構便利なもので、退屈な資料整理とか、暇なお年寄りや仕事の関係者との雑談とかも自分の中で「インテリジェンス活動」「情報収集」だと思うと俄然やる気が出てくるよね。実際、日常の仕事も、人間関係も、そういう考え方がいかせるといえば活かせる。「仕事に役立つスパイ術」。そうすると近所のおばちゃんが一番インテリジェンス・オフィサーとしては優秀かも。
我らが日常に謎を、ミステリを
今まさにそのインテリジェンス活動の一環として分析すると
「ここまで読んで『うんうん、そうだよね』とうなづく人が半分、『はぁ…?何言ってんのこの人』と引く人が半分」
だと思うんで、まあそのへんを語るのは後日にしよう。
もう一回端的にまとめると、「われわれの日常も『スパイ』や『探偵』的な視点で受け止めると面白いことは多々ある。それを意識的にやると、さらに面白くなる」ということ。
上の話は、ある意味日常生活の中にスパイ的視点、意識を持ち込んで実益を得ようという点で不純でして、実はみみっちい日常、「終わりなき日常」を・・・ことさら「スパイのためのスパイ」「探偵のための探偵」で遊ぶ、これが面白いんですよ。ちょっと分かりづらいかなあ。
分かりやすくしてみよう。
「ただの人間に興味はありません。 この中にスパイ、探偵、情報屋、ブラックジャーナリストがいたら あたしのところに来なさい。 以上!」
ますます分からん(笑)
いや、実際そういうものよ。いまだ読まずに語るわけだが、フツーの生活でフツーの日常を送るのはいやだっ!という読者の夢を受けて、日常の中の冒険を見せてくれる(+もちろんSF的に本格冒険もあるのでしょうけど)のが元ネタの話。それが”完全犯罪”や”スパイ”的なものであるというのは普通に面白いシチュエーションなわけです。コナン君みたいに周辺に毎週殺人を発生させる超能力者がいない限り、実際にこどもたちが結成する探偵団やスパイ団はそうやって意味のない推理ごっこや調査ごっこ、今回の「バクマン」にも出てきた尾行ごっこに挑戦する。
で、電柱とかによく分からない、凝りに凝った暗号文やマークをらくがきするわけだ(笑)。
そんな先行作品は?
ふたつのカテゴリーを一緒に論じますね
(1)意識的に、普通の日常の中に謎や冒険を求めて活動する
(2)結果的に、普通の日常の中に謎や冒険が生まれてしまっている(もしくは日常の範囲に結果的にとどまってしまう)
■「いちど○○をしてみたかった」シリーズ
- 作者: 桝田武宗
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都市銀行を利用するハイソな小学生の女の子、お洒落なティー・サロンに入った典型的オバン、白昼の新宿でディープキスする高校生カップル、100円玉を握りしめたホームレスの老人……。普通の人たちを幾多の失敗にもめげず尾行し続け、都市とそこに生きる人間を見事に描き出した、スリル満点、爆笑の大傑作!
今回の「バクマン」で主人公コンビが尾行をやり、「完全犯罪クラブ」というアイデアを着想するという経緯の中で真っ先に思い出したのはこの本だった。こういう活動が倫理的に許されるかどうかはともかくとして。
続編的な作品もいくつかある。
- 作者: 桝田武宗
- 出版社/メーカー: 講談社
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- 作者: 桝田武宗
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■円紫シリーズ
ウィキペディアの「『円紫さん』シリーズ」
大学で日本文学を学ぶ《私》は、恩師が同じであるという縁からファンであった落語家・春桜亭円紫と知遇を得る。知り合った席で話に出た恩師の不思議な体験について明快で合理的な説明を付けた円紫に対し、《私》はそれからもたびたび自らの身の回りで起こった疑問・謎を円紫に示す。円紫は、時に自らそれを解決し、時に《私》にヒントを与えて《私》自身による解決を促す
- 作者: 北村薫
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■黒後家蜘蛛シリーズ
- 作者: アイザック・アシモフ,池央耿
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1976/12/24
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〈黒後家蜘蛛の会〉の会員――化学者、数学者、弁護士、画家、作家、暗号専門家の六人、それに給仕一名は、毎月一回晩餐会を開いて四方山話に花を咲かせていた。が、いったん話がミステリじみてくると会はにわかに活況を呈し、会員各自が素人探偵ぶりを発揮する! 安楽椅子探偵の歴史に新しい一ページを書き加える連作推理譚。
上のあらすじには書いてないが、実は会員の6人はいずれ劣らぬヘボ探偵ぞろいで(笑)、最後に難問を解決するのは老給仕ヘンリーなのだ。最後はアシモフ自身も、「この”黒後家蜘蛛”仕立てにすれば、何でもミステリーに出来る自身がある」と、自分の雑学知識(アシモフのだぜ!)を片っ端からこのエピソードに仕立てあげ続けたのである。ちょっと無理やり感が漂うのもご愛嬌。
ちなみに、ただの会食・宴会が、ゲストを呼んで話を聞いたりする定期的な催しに発展していったという点は、某MMAブロガー組織の周辺にも多大な影響を与えたりしている(ホント)。
■「スパイのためのハンドブック」
- 作者: ウォルフガング・ロッツ,朝河伸英
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1982/03/30
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ええい面倒くさい。
あのノビー・オチアイのこの本に出ていたといえば、ある世代にはもっと分かりが早い。
モサド、その真実 世界最強のイスラエル諜報機関 (集英社文庫)
- 作者: 落合信彦
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ま、そのへんはともかく、これが面白いのは「ハンドブック」と書いてあるように「まずレッスンとして、どこかのだれかの住所、職業、家族構成をイチから調べてみよう」とか「ホテルの従業員や隣人を、試しに買収してみよう」「嘘の経歴をリアルに構築してみよう」とか、まさにこれは「スパイのためのスパイ」を楽しみたい人向けの?レッスン例が豊富に載っていることだ。
また、そのやり方が本当に真に迫っているというかリアリティがあるというか。
とくに、「お堅い人はこうやれば買収できる。まずはまったく問題ない頼みごとをして・・・」と買収のやり方を講じる章は、はっきり言って恐ろしいほど人間心理をついている。
実は私、佐藤優を「おっ、只者では無いな」と思ったのは、この人がこの本を、ひとつの教科書として知人に薦めるくだりが「国家の罠」の中にあったからなんだよね(笑)。
たぶん、今でも版を重ねているだろう。なぜならそれに値する価値があるからだ。
■「野蛮人のテーブルマナー」
- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/10/20
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■「怪盗ルビイ・マーチンスン」
怪盗ルビイ・マーチンスン (1978年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
- 作者: ヘンリイ・スレッサー,村上啓夫
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小泉今日子が主演した「怪盗ルビィ」の原作というほうが知名度は高いのでしょうか。
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
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この場合、本人はいたって真面目に「俺は大悪党!すごい犯罪を犯してやる!」と思いつつ、ダメな才能や偶然で笑える日常ミステリになっちゃっているという趣向なんですけどね。
えーと、映画の話と並んで最大のセールス・トークをしておきます。
「作者のヘンリー・スレッサーは星新一が『短編のお手本』『私はスレッサーから学んだ』と認める作家である」
どうだ、これ以上の売り文句があるか!!
しかしわれながらすごいなあ
漫画の中の「劇中劇(漫画内漫画)」としてプロットとタイトルしか出てこないものをマクラに、こんなにだらだら文章書ける人(というか書こうとする人)はたぶんいないと思う(笑)