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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

映画「THE WAVE ザ・ウェイヴ」を見て、思い出したのは「鈴木先生」

映画館は、新宿伊勢丹のすぐ近くでした。(地下鉄 新宿三丁目B2出口の北。でっかい建物の中にある「新宿シネマート」)ザ・ウェイブじゃなくてザ・ウェイヴ
ストーリーなどは・・・
http://pia-eigaseikatsu.jp/title/152448/
http://www.the-wave.jp/


ドイツの学生文化がいまいちわからないので、この映画でポイントとなる「最初の教室の無軌道・無統制」「授業で生まれた教室のまとまり・そして暴走」が ど の 程 度 なのか比較できないところがちょっと残念だ。
実は日本に引き寄せるなら、はっきしいって最初の無軌道っぷりもそんなではないんだよね。どこも同じように、美女(美少女)がおのずとクラスの中心で、お調子者が笑いをとって、優等生が眉をひそめて、体格の大きい子は腕っ節にものをいわせ、イケてない子はうっくつした思いを持っている。ただし、アメリカとくらべればまだ単純とはいえトルコ移民の民族問題も抱えている。


あと、原作はどうだったかよく知らないけど、教師はロックンロールをカーステレオでガンガン鳴らしながら登校し、水球部でも鬼監督として知られる体育教師・・・ということになっていて、ある程度不良にもにらみが効くタイプだ。
それを前提として、この映画が作られているのかなと思った。
不良とかの反抗の仕方が「ナチ? そんなのクソにきまってんじゃねーかよお(といって議論を終わらせようとする)」というようなところも新鮮だ。ついでにいうとナチ批判が、「スキンヘッドがたくさんいる遅れた東ドイツ野郎」への蔑視になるという構図さえある。ややこしいもんだ。

そういうドイツの特殊事情をまず見据えた上で、普遍的に見てみると・・・・実はこの「THE WAVE」式の教室統制は、けっこう普通に日本の、いや世界の学校ではやられているんじゃないか?と思ったのさ。
実際、THE WAVE は最後に暴走し、自滅していくがそれはちょっと映画的な飛躍が感じられるし、もしこの失敗を受け入れるとしても「最後の最後に間違えてしまっただけで、このメソッド自体はすっげーイケてるじゃん!」と他の教師が思って、真似してもぜんぜんおかしくない気がするんだわ。これは日本の管理教育も、荒れる学校もそれなりに知っているからかのう。
「ちゃんとわたしのことは『XX先生』といいなさい」
「発言するときは起立して、要点のみを」
「ちょっと授業前に少し体を動かそうか。はい、一緒になって1、2・・・」
「団結心を示すためにみんなで、同じ服を着てみようか」
「わがクラスのマークをつくらないか? えーとそこの落書きしてるお前、うん君はデザインの才能あるな。やってみるか?」


うん、往年の武田鉄矢がやってもおかしくないね。
いや実際、まとまりなく上演が危ぶまれた劇の練習で、気弱な演出家が突如リーダーシップを発揮しひとつに皆をまとめていくし、教室で疎外感を持っていたオタク系の子がクールなロゴやHPの製作で「おめーやるじゃん!」と正反対の不良グループから認められ、交流していく(別の不良にからまれたこの子を「俺たちTHE WAVEの仲間に手を出すな」と助けるのだ)。民族性も超え、ドイツ系の子とトルコ系の子の結束も強まる(擬似ナチが、民族間の偏見を解消するという皮肉!) みんな一緒に同じ白シャツとジーンズを着ようという”擬似制服”の決まりのときは、共感した生徒の一人は自分の持つブランドの服をわざわざ燃やしたりもする。


だから逆に、現役の教師や、かつて宝島社を舞台に言論活動を華々しく展開した「プロ教師の会」にこそこの作品を見てほしいと思う。そして彼らに、上のようなやりかたは「一線を越えた全体主義、ルール違反」なのか「最後の最後にありえないようなアクシデントがあっただけで、別に問題のない指導法」だったのかを聞きたいところだ。




実は上で書いていることは、個人的に持っていた「自分はこういうジャンルが昔から大好きなんだけど、なんというジャンルというべきなんだろう?」という話とつながっている。
いわゆるSF用語の「擬似イベント」と、ノンフィクション系の「心理実験・世論操作」がまじわるような・・・「人間関係・世論・権威権力といった見えない要素を、人工的に操作する話」と仮定義したが、少しそこから絞って「ごっこ遊びもの」としてもいい。ごっこ、ロールプレイングと最初は分かっていたものが、徐々にそれにのっとられていく・・・というような話ですかね。

教室の生徒指導というのは、それに近い場所だとは思っていた。
というのは小学校高学年のとき、担任教師はうかつな人で、教科書の指導教材を教室にいつも置いているのね。アタマのよかったそのころのぼく(笑)は、面白がってそれを見たところ、ここでこういう疑問を投げかけろ、とかこういう感想を引き出せ、とかの「教え方」メソッドが満載のこれをみて「なるほど教室の『空気』をこうやってコントロールしていくのか」(※当時はそういうボキャブラリーはないけど)とかなり感心したのを覚えているのです。実際、のちの授業では教材どおりに話が進展していたし。


で、思い出したのが何年か前に文化庁メディア芸術祭大賞でも何かの賞をとった漫画「鈴木先生」というわけ。
これは「酢豚のメニューを生徒のアンケートを基に給食からはずすか?」といったことでも小1時間議論するような、そういう針小棒大な「ロジカル・エンターテインメント」を楽しむのが本道ではあるのだけど、主人公の鈴木先生はことに物語前半で、教室内での議論をコントロールする際、ときどきリアリズムに満ちた教室内の権力構造を利用する駆け引きや誘導を行っている。(連載が進むにつれ、鈴木先生からそういう「治者の仮面」が剥がれ落ち、生徒と同一の次元で前述のロジカル・エンターテインメントをやるところが面白いんだけど)


ロジカルな議論をせりふで表現する際の演出がものすごく独特で読者を選び、また扱うテーマもなんつうか暗いというか救いがあまり無くてさらに読者を選ぶのですが、「THE WAVE」の一部分と共通するものとして読んでいただくのも面白いかと思いました。
古いものと、新しいものとを紹介

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)

鈴木先生 8 (アクションコミックス)

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