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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「サカナとヤクザ」の鈴木智彦氏新刊は『ヤクザときどきピアノ』(西岡研介氏のツイートより)

ヤクザときどきピアノ

ヤクザときどきピアノ

ヤクザときどきピアノ

  • 作者:鈴木 智彦
  • 発売日: 2020/03/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
「『ダンシング・クイーン』が弾きたいんです」
――校了明けに観た一本の映画が人生を変えた。

『サカナとヤクザ』『ヤクザと原発』など、潜入ルポで知られるライターがピアノ教室に!
譜面の読みかたも知らない52歳の挑戦がはじまる。

レッスンは冒険であり、レジスタンスだ。
ピアノは人生に抗うための武器になる。
俺は反逆する。
残酷で理不尽な世の中を、楽しんで死ぬ。

5年もの時間をかけて書き上げた『サカナとヤクザ』(小学館)を校了した「俺」には、やりたいことがあった。ピアノである。子どもの頃からピアノには淡い憧れがあったが、大人になり、ヤクザ取材を中心に行うライターとして多忙な日々を送るなかで、そんな機会が実現することはついぞなかった。しかし、人生はわからない。校了明けに観た映画『マンマ・ミア! ヒア・ウィー・ゴー』が運命を変えた。ABBAのスマッシュ・ヒットである『ダンシング・クイーン』が流れた時、涙腺が故障したのかと思うほど涙が溢れて止まらなくなった。特徴あるピアノの旋律に直接感情の根元を揺さぶられた。身体が音楽に包まれていた。

ピアノでこの曲を弾きたい。

校了明けのライターにありがちなライターズ・ハイがもたらす万能感に背中を押され、近所のピアノ教室に電話をかけまくった。が、簡単にはいかない。譜面も読めないとわかると、電話口の声は困った様子になる。やはり、50代の未経験者が、いきなりABBAを弾きたいなんて無謀なのか。そんななかで、出会ったのがレイコ先生だった。彼女はきっぱりと言った。

「練習すれば、弾けない曲などありません」

1回30分、月3回で月謝は6千円。ときにヤクザの抗争に阻まれても必死で練習した。憧れの『ダンシング・クイーン』を自分で弾くために。先生の期待に応えるために。

いくつになってもYOU CAN DANCE<.br> ABBAの名曲に乗せて贈る、ハードボイルド中高年応援ストーリー。

この紹介。
twitter.com

※以下、リプ元も表示されて読みにくなどもあるのでコピペにします。冒頭埋めこみツイートをひらけば同じのを読めます


西岡研介
@biriksk
ABBAのヒット曲で構成されたミュージカル映画『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』を観ていた著者が、『ダンシング・クイーン』が流れた時に〈ピアノでこの曲を弾きたい〉と〈雷に打たれるようにそう思った〉シーンは……

ブルース・ブラザーズ』のジョン・ベルーシが、ジェームス・ブラウンのゴスペルに乗った説教で〝神の啓示〟を受けるシーンを彷彿とさせる。


その後、著者は「ピアノ教室」の門を叩き(ほとんど門前払いだが)、「運命の師」と巡り遭い、「ヤクザの抗争」に翻弄されながらも、練習に練習を重ねていくのだが、秀逸なのはファーストレッスン、いや、憧れのグランド・ピアノとのファーストコンタクトの描写だ。

〈恐る恐る指を曲げ、鍵盤の上に手をかざした。その際、腕が鍵盤と水平になれば、椅子の高さはおおよそ適切だと説明された。いったん立ち上がり……〉

〈指を話すと音が止まった。ピアノは弦を叩いて共鳴させ、音を鳴らすだけの機械ではない。……叩いて、鳴らして、止める〉

運命の師「レイコ先生」の指導だけでなく、自らの動作も含めた克明な情景描写。もちろん著者は「ピアノ教室」の取材に行ったわけではない。よってメモなど取るはずもなく、そんな気すらなかっただろう。にもかかわらず、これだけ詳細にシーンを再現できるのは、「どんだけ集中しとんねん」という話だ。


もう一つ。本書に挿入されている「ピアノ」という楽器の機能についての説明も半端ない。

〈ピアニストが叩いた鍵盤は、打弦機構によって上下運動するフェルトのハンマーによって伝達され、鋼鉄の弦を叩くたびに空気が震える……〉

もっとも、著者が、「ピアノ」という楽器の機能を熱を込めて伝えようとすればするほど、その説明に、「楽器」というより、〝銃器〟感が増してくるのだが……。


ノンフィクションにも〝作法〟というものがいくつかあるが、基本は〈時間が許す限り取材を尽くす〉、〈可能な限り資料を渉猟する〉ということに尽きる。

この点で本書が、その作法をキッチリと踏まえていることは、文中にも引用され、巻末で紹介されている数多の参考文献を見れば分かるはずだ。

50過ぎのオッサンが「ピアノで弾きたかった一曲」を弾けるようになるまでのシンプルなドキュメントにもかかわらず、著者はこれまでに培った取材技法や経験を、それこそ本書に全力で注ぎ込む。

だからこそ、逆に、著者に対しあらかじめ、「たとえば楽器メーカーに取材を申し込んでピアノ製造を見学しにいったり、代理店や音楽教室に取材したり、ピアニストや調律師にインタビューしないでください」と釘を刺していたという編集者の慧眼が光る。


ともあれ、徹頭徹尾、熱い本である。特に終章と、あとがきで触れられる、レイコ先生のかつての生徒だった元大学教授のエピソードには心が震えた。

鈴木氏の前著「サカナとヤクザ」といえば、PTAの集まりでこの書名を口にしてドンびかれた、というまとめが忘れがたい。
togetter.com


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