近年の「逆説の日本史」は面白いのだが、個人的には井沢も参考にしている山本七平「現人神の創作者たち」の枠組みを彼なりに再構成して紹介している部分が大きく、まったくの新知識に驚かされるということはなかったのだが、先週の週刊ポストあたりから、まったく知らない本が日本史に及ぼした影響について語る回になり、毎回驚いている。
それは「太平記秘伝理尽鈔」。
- 作者: 今井正之助,長坂成行,加美宏
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2002/12/01
- メディア: 単行本
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http://d.hatena.ne.jp/supernil/20090401/1238514271
江戸前期、民衆相手の「太平記」講釈が爆発的に流行する以前、大名や武士相手に講釈する「太平記読み」たちがいた。その講義のタネ本は『太平記(評判)秘伝理尽鈔』。「太平記」の描く人物や事件を論評し、膨大な別伝を付け加えたこの本は、楠木正成を理想の為政者=仁君として描き出す政道の書でもあった。そしてそれは、戦国武将から藩の為政者へと変身を余儀なくされた大名たちに幕藩体制確立のマニュアルを伝授し、思想家たちに決定的な影響を与える。つまり「理尽鈔」は、この時代、社会の政治に関する共通認識を形作ったのである。江戸の政治思想の基軸は、朱子学などではない!「太平記読み」の思想こそが江戸の秩序の根幹である!!というのが、「理尽鈔」研究の第一人者・若尾政希氏の著書『太平記読みの時代』の結論である。
ふむ、明治時代の「西国立志篇」じゃないけど、その後の歴史を動かす中心人物に影響を与えた「教育テキスト」「青春の書」の思想的影響は多い。私の知り合いに「落合信彦の本を青春時代に読んだから、どうしてもイスラエルに好感を持ってしまう」という人がいる(笑)
いやそれと一緒にしちゃいかんが。
この書はやっぱりというべきか、今は東洋文庫から出ている(刊行中)。
http://www.sogotosho.daimokuroku.com/?index=aru&date=20081225
またの名を『太平記評判秘伝理尽鈔』、「評判」の二文字が入るのは、この注釈書がなにより論評の書だからである。注釈書と言ったって、いま私たちがこの言葉でイメージする、『源氏物語』の注釈書とか『万葉集』のそれとかのような、むずかしい言葉の意味を説明したり、引用されたり暗に言及されている文言の典拠を示したり、書かれていることの意味をわかりやすく教えてくれたりするようなものではない。
一方で、この『理尽鈔』は『太平記』に書いていない別の「伝」をおびただしく述べ立てる。『太平記』にはこんなふうに書いてあるが、実はそれはこしらえごとで、本当はこうなのだ、みたいなことまで言いたてる。そしてそういう別伝を積み重ねたうえで、描き出した事件やそこに登場する人物を論評するのである。だいたいは、ぼろくそにけなされるわけだが、唯一ほぼ全面的に礼讃されるのが楠正成。近世、また戦前までの楠崇拝熱は、実は、ついこのあいだまで忘れられていたこの『理尽鈔』がもとなのである。ここまでも含めて、『理尽鈔』に関する話はそのほとんどを、若尾政希氏の『「太平記読み」の時代』によっている
いま、ある言葉や書がどれだけ世間に広まっているかはネット検索機能によってよく分かるのだが、グーグルで
太平記秘伝理尽鈔
を検索すると、2000件いかない。
まだまだ有名でもないし、上のような位置づけに否定的な見方からの論争があるわけでもないようだ。
とりあえずはてなキーワードを作りました。井沢連載や、「『太平記読み』の時代」を読んで」あとで内容を付け加えよう。
- 作者: 若尾政希
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1999/06/01
- メディア: 単行本
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- 作者: 兵藤裕己
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/09/10
- メディア: 文庫
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