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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「男たちの大和」と新谷かおるイズム

一応、超大作ということで業界も気合の入った「男たちの大和」興行収益の出足はどんなもんだろうか。なんか、筑紫哲也氏が期待通りに「私はお勧めしない」と批判したらしいというが、まあそんなのはどーでもいい。ちょっと知りたいのは、海外の反応だ(実際に海外に売れる可能性はどれほどあるかしらんが)。


実物大のロケセットを作ったことが「大和の再建」と報道された中国はとにかく(余談だが、なんでCGじゃなくて実物大なのかといえば「俺がこの映画を作るというのに、CGで済まそうというのかっ」という角川春樹氏の誇大妄想こだわりなんだと。もはや意味ねーと思うが)、大和は一応世界最大、空前絶後の趙巨大戦艦であり、これを仕留めたのはアメリカにとっても印象深いできごと。
それにレイジ・マツモト(orニシザキ?)によって知名度はさらに世界的に高まっているからね。

また、これはもちろん個々の軍人たちの戦死は痛ましいく、付随して多くの民間人も犠牲になっていることを周知の事実とした上だが−−−−それでも海戦・空戦(人家地帯への爆撃は除く)は、物理的・空間的な理由で直接的には民間人を巻き込まないから、比較的陰惨さは薄れている。

だから坂井三郎の伝記は世界的に人気があるし、世界で唯一、戦争の中で米本土攻撃に成功した(森を燃やしただけだったそうだが)日本軍のパイロットもその地で大歓迎されるのだ。http://blog.goo.ne.jp/o_sole_mio00/e/9e91677b973b1331f8dded91d6c8363b


だいたい「陰惨さを排除した英雄的軍隊、軍人物語」のロマンが好まれることを利用して、世界的に名声を高めた中の一人が毛沢東なんだしな。もちろん八路軍はそれなりに軍規を保っていた軍閥ではあるが、あたかもロビン・フッドのような伝説をたっぷりまぶした「世にもまれなる英雄的な『人民の軍隊』」−−という偽造された歴史が1970年代から以降、その後30年近く中国への視線をゆがめるパワーになったことは間違いない。
その当時の本が、けっこう図書館にも残っているぞ。エドガー・スノーはいい講談師になれたよな。


さて、それはそれで、その軍事ロマンチシズムは、いろんな変遷をへて、先に挙げた松本零士がやや現代風に復活させた。そしてその弟子となり、またさらに一流一派を打ち立てたのが「エリア88」などで知られる新谷かおるである。


実は、今日「漢祭り」を販売しているはずのPRIDE-0さんが
(註 http://d.hatena.ne.jp/gryphon/searchdiary?word=%b4%c1%ba%d7%a4%ea 参照)

自作の本を送ってくださったとき、一緒に送ってくれたのがhttp://d.hatena.ne.jp/gryphon/20050823#p4であった。

この「漢祭り」サークルの皆さまは、この本といっしょにそこで入手したという、島本和彦の本を一緒に送ってくださった。なぜこんなにピンポイントでツボを突いてくる、と思ったがこのブログを読んでりゃ分かるか(笑)。


で、島本氏が描いた本の一つが「同業者から見てもモノスゴい、新谷かおる先生」に関する言行録であった。私は「エリア88」などを通してしか知らないのですが、新谷かおる氏については並々ならぬ興味を持っております。

そのへんについて、次回詳しく。

「次回」って今日かよ(笑)。
その本の題名が新谷かおるになる方法」


奇人、変人、傑物の言行録というものは何であっても楽しいもので、ここでも数学者やら映画監督やらをいろいろ紹介しているが、この新谷かおるの話も負けないぐらい面白い。
なにしろ、漫画家伝説の定番である「締め切り破り」「ギリギリ仕上げ」に関して、この人がいまだに「絶対王者」だというのだ(笑)。

私がまだ新人と言うか、まだ「卵」だったたころ編集部の偉い人に「だれか好きな漫画家の仕事場につれていって会わせてあげるよ」(略)・・「新谷かおる」というと「うーん・・・」といって去っていってしまった。そばにいた人が「あそこに行って新谷かおるの真似をするようになったら困るからだ」と言われたが「あそこに行ったら二度と帰ってこられなくなるからだ」という説も上がり・・・

「うちでは(某眠気覚まし剤を)箱買いしている!!」とそこに二列に二段重ねして積んであった大きめの木箱を誇らしげに持ち上げ・・・大きな箱の中に、ふつう薬局で見かけるドリンク剤の詰まった「紙製の箱パック」が詰まっていた。後にも先にもエスタロモンカの「木箱」を見たのはその時だけだ。


しかし、こういうエピソード集より重要なのが、新谷かおるが俺流の「ロマン」・・・、それも「松本零士とのロマンの違い」を解説している(のを島本和彦が聞いて、漫画にした)一節だ。これは漫画史的にも貴重といえよう。
その中で、新谷かおるはこう語っている。


(あるとき、酒席で新谷は松本零士に「男のロマンとはなんぞや?」とストレートに聞き、松本から直球の答えを引き出した(これは別の資料にあるという)。ただ、それに全面降伏するのではなく、新谷かおるはこう宣言する。

「確かに男にもロマンはある
パイロットは大空で死ぬのが本望かもしれん・・・パイロットの死に場所は大空!
男のロマンは松本先生の独壇場だ」


「だったら俺は
大空で死んでいった男たちを
地上で待つ女のロマンを描くっ!」


「女の死に場所はどこだと思う島本!愛する男の腕の中なんだよ!
女は愛する男の腕の中で死にたいと願っている!しかし当の男は大空で散っていく
死に場所を失った女はそのあとどうすればいいの?」

実際に、このドラマツルギーは多くの戦争ものに拡散、浸透している。
いやむしろこっちが本道かも。
島本和彦は「すいません!新谷先生の『戦場ロマンシリーズ』は松本零士の戦場漫画シリーズと同じもんを、ただ掲載場所をかえただけで『やっちゃった』もんだと思ってましたが、実は対極だったんですね!」と土下座するという(笑)。


さて「男たちの大和」はどんな感じにあいなるか。
俺は見ないと思うけど。