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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

中島岳志再論。日印、二つのナショナリズム

http://d.hatena.ne.jp/border68/20051125

http://media.excite.co.jp/book/daily/friday/028/

http://media.excite.co.jp/book/daily/friday/029/

に関して、再度補足を。

今回の「中村屋のボース」に関しては、実は一部では広く知られていた話です。
というのはラス・ビハリ・ボースの保護いわゆる「亜細亜主義」において、一つの栄光ある歴史であり、また多士済々のキャラクターが登場する一幕物のドラマとして、非常に完璧に近いものがあるから。

http://www.ncbank.co.jp//chiiki_shakaikoken/furusato_rekishi/hakata/068/08.html

石瀧
政府は英国政府の申し入れで、亡命してきたボースを国外退去にしますが、次の寄港地で英国に捕えられ、死刑になることが懸念される。
各方面に救助を求めますが、頼りにならない。このとき孫文が「ただ、頭山満を頼め」と言ったそうです。
指定の時間に頭山家を訪ねると、裏口から隣家の寺尾 亨(てらおとおる)(前東大教授安政五1858〜大正十四1925)の家に逃がすのです。
そこには、玄洋社杉山茂丸が車を用意していて、ボースを乗せて隠れ家に運んでかくまう。

西島
肝(きも)ったまが大きいですね。

石瀧
いつまでも出てこないので警察が確かめると、とっくに帰ったからいない。家捜(やさが)ししてもいいよです。
大物の頭山にそう言われれば、グーの音も出ない。「窮鳥 懐(ふところ) に入れば、猟師もこれを殺さず」で、日本政府を相手にしてでもかくまってやる。
頭山は酒を飲まず、そして約束にかたい。行動が損得抜きです。彼の支援は盤石(ばんじゃく)の重みでした。

この謎の「密室インド人失踪事件」に関し、宮崎滔天が果たした役割は面白い。彼の日本人にしては珍しい「長身」が役に立つのだが、その話はいずれだ。


さて、しかしそのビハリ・ボースは無邪気に日本を賞賛、信頼していたかというと・・・昨日のエントリにあった、毎日新聞12/6の松本健一/中島岳志の対談に興味深いくだりがある


中島  本の中で重きを置いたのが、泰学文という在日コリアンの実業家との関係です。(略)例えば日本のアジア主義者たちとの宴会に出席し、「万歳」をやった帰り際に、いつも泰学文を呼び出すのです。そして銀座のすし屋・久兵衛などに行って、泣き合うのです。
自分が頼っている日本は目の前にいる友人にとっては、インド人にとってのイギリスのような存在です。、しかし、日本とうまくつき合っていかねば、インドの解放の道にアクセスもできない。ここに、近代日本やアジア主義が抱えた問題の縮図があると思いました(略)。


松本  今、あなたは重大なことを言われた。侵略と連帯というカテゴリーに分けられない情熱というか、精神のカオスみたいなものがボースの中にある。私にとっては北一輝が・・・(略)

ここで、中島氏がアジア主義研究に踏み出すきっかけになった松本氏の

大川周明―100年の日本とアジア

大川周明―100年の日本とアジア

大川周明 (岩波現代文庫)

大川周明 (岩波現代文庫)

を紹介しておこう。たぶん両方とも同じもののはずだが、昨年文庫化されてたか。
ちなみに、自分も中島氏と同じく20歳の時にこれを読んでいたはずだが、そこから後は才能の違いだ(笑)。某量販店が客寄せに限定販売する「百円家電」を転売する(バイトの一種)ため、店の前に張ったテントで読んだという環境が悪かったかも(笑)


大川周明はご存知、「東京裁判における、民間人唯一のA級戦犯」「発狂(の演技?)して東條英機の頭をたたき、刑を免れた男」「コーラン翻訳者」などで名高い男だ。


帝都物語」にも出てくるし(余談)、実録映画「東京裁判」はもとより、東條英機の裁判を描いた映画「プライド」にも登場する。役者はだれだっけかな。

で、この映画では外国語に堪能な大川が「イッツ ア コメディ!」と叫んで退廷させられたことになっているが、松本の著作などによると彼が叫んだ言葉は

「インド人は来たれ、他は去れ」

だったという。(もちろん、この時点でパル判事が少数意見を出すことを知る由もない)


なんとも象徴的ではないか。  


大川周明は、「日本二千六百年史」という本を書き、ベストセラーになっているが、初版は「古来、日本はアイヌの土地だった」などと書く率直な筆致で、逆に右翼から批判されたという。大川は比較的ナショナリストの間では学究派だが、彼を含めたアジア主義者が、左右両翼の立場で割り切れない部分があるとするなら、それは政治の中の「ロマン主義者」だったからだと考えると分かりやすいのではないかと思う。


これは、松本健一のよき理解者であり続けた司馬遼太郎が、松本氏に当てた書簡でもそう書いていたし、井筒俊彦との対談でもそう言っていたかな。「大川の思想は、つまるところドイツ・ローマン派だ」とね。

今、その生き残りはだれかというと、故・野村秋介であり鈴木邦男なんじゃないかと。
鈴木邦男は、はたから見ても「おいおい、いったいどういう立脚点なんだよ」と言いたくなるほど、主張が・・・それ以上に交友関係が(笑)よくわからないんだけど、結局のところ政治活動に「正しさ」以上に美しさを求めているのだろう。

ただし、鈴木氏の格闘技に関する文章は、最近あまり面白くない。