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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

政治の季節に・・・4年前の政界ノンフィクション小説「寸前暗黒」の面白さ

新聞の政治部記者というのは、TV解説などにも呼ばれることが多いゆえ、けっこう知名度が高いものだが(岩見隆夫、岸井成裕、早野透星浩の各氏など)。その中でも抜群の知名度を誇るのが日経新聞田勢康弘氏であろう。
この田勢氏が、小説(半分ノンフィクション)を書くときの筆名が「黒河小太郎」であることは、当時はともかく今は公表されている。


彼が小渕恵三の急死から森喜朗政権の迷走、そして加藤紘一のクーデターである「加藤の乱」を経て、変人宰相小泉純一郎が誕生するまでの過程をほぼ同時進行でつづったのが、「寸前暗黒」だ。


寸前暗黒 (文芸シリーズ)

寸前暗黒 (文芸シリーズ)



「いまさら4年前の、政界小説なんか読んでもねえ」と思う皆さん、それは大いなる誤解。
登場人物は今や引退したり被告人になったり、議会を解散したりとそれぞれだが、このとき小説という形であらわされたパーソナリティーと行動予測を、現在の状況という「模範解答」と照らし合わせることで、逆に何がどう変わったのか、何が意外だったのかがよく分かるのだ。


この種の作品で、特に重要なところは何かというと、個々人のパーソナリティーを現す個人情報だ。というのは政策評価や政局占いという点では、新聞の政治記者だってまあ、早くいえば「当たるも八卦、当たらぬも八卦」な部分は免れまい。
しかし、政治家のクセや人脈、交流、趣味嗜好や家族の横顔は、日常的に政治家に接する機会が多い政治記者たちが外すことはほとんどない。しかも、日々の記事では触れる機会も少ないので、勢いこういう場ではハリキることになる。

例えば、宮沢喜一について。

宮沢は政界きっての書の達人である。それだけに、大蔵次官の(新設された「財務省」の看板の字を書いて欲しいという)以来を断ったときはだれもが意外に思った。結局、「財務省」の看板はコンピュータによる活字が使われることになった。
「ああいうところに自分の字を残しておきたいという人間の気持ちが分からない。恥ずかしいとは思わないんですかね」

ここから宮沢が、田中角栄中曽根康弘の書の出来について尋ねられ
「あなた、あれを書だとおっしゃるんですか?」と答えたとか、
竹下登について
「あの方、県議でしょう。あのころの早稲田は入学試験がなかったんでしょう」
と評したという有名なエピソードなんかが配置される。



また、森喜朗ナベツネが評した1シーン。

「一週間ほど前、『吉兆』での会合に森を呼んだんだ。こっちは中曽根さんと瀬島龍三日本テレビ氏家斉一郎とおれ。森は新聞の束を抱えてやってきた。のっけから、新聞を広げてこういったんだ。『ナベさん、これひどいじゃないですか』」
「何の新聞ですか」
「全国紙を全部持ってきたんだ。マラソン高橋尚子が国民栄誉(笑)をもらったという記事が載っている(略)。『各紙とも写真を載せてますが、みな私が高橋尚子に栄誉賞の盾を渡している写真です。ところが読売さんだけは私が写っていない。高橋尚子だけです。何か意図があるんですか』・・・・」

ナベツネ感想「ばかだよ、あいつは。」


筆者は「渡辺は、豪放磊落なイメージと逆に無類の読書人であり、インテリ」と評している。

まだまだ、政治家の「味」を表現したエピソード情報はいくらでも引き出せるが、きりが無いので厳選しよう。

「千手観音」。だれが名づけたか亀井静香のあだ名である。そのこころは『だれとでも手を握れる』だ。

「小沢番記者たちの悩みは、自分がカバーすべき人物、つまり小沢一郎がいまどこで何をしているかがさっぱりわからないことなの。日程も事前にはほとんど知らされていないし、自由党ばかりか小沢事務所でさえも本当に知らないことがあるようなの・・・」


もう少し、この本のストーリーを見てみるとする(といっても、基本的には現実政治どおりだが)。前半の山場は上に述べたとおり、小渕の急死でできた森政権への、加藤紘一の叛乱とその挫折である。これがまた、本当にある意味今回の「郵政解散」をネガポジにしたような部分があり、その分示唆に富んでいる。


時は2000年秋。失言相次ぐ森内閣への不支持率は7割を超え、鼎の軽重を問う声が巷間にあふれていました。加藤紘一は前述のナベツネらがつくる勉強会で、「森に内閣改造はさせない。私がやる。野党の不信任案同調も選択肢だ」と宣言した。
ナベツネ勉強会のつくるネットワークは広く、深い。ある意味公然たる宣戦布告だった。
ここからあとの人間模様は、スケールは小さいながら「三国志」や「K-1vsPRIDE」もかくやという人間模様を見せる。

お馴染みのスーパー悪役”闇の帝王”野中広務加藤の乱の一報を聞き、こうつぶやく。

加藤発言を耳にした野中広務はつぶやいた。
「かわいそうに」
この野中の言葉は重い。

いや、重いっつーか怖いわ。

また、加藤の決起を最終的に促したのは、実はこの乱で森の親衛隊として反乱鎮圧の先頭に立った小泉純一郎だったという意外な話が出てくる。彼はYKKの盟友でも有る加藤に

「加藤さん、野党が内閣不信任案を提出しそうだけど、俺だったら同調するな。おれだったら同調するよ」
加藤は小泉の顔を見つめていった。
「そうだね。僕も同調するよ」

(略)
山崎(山崎拓)は携帯電話で加藤を問い詰めた。加藤はすべてを認めた。山崎は大きな声を出した。
「小泉にはめられたんだ!」

これは何だったんだろうか?牽制の意味で、そう言えば逆に加藤が自重すると思ったのか、そそのかして自滅させようと思ったのか、加藤の乱の成功も視野に入れ秋波を送ったのか。
まあ小説の中の話でもあるし、真偽を含めて実際のところは永久に分かるまい。



結局、「加藤の乱」は無残な失敗を見せる。なんでも、竹下派の中で、野中の前に青木幹雄と会って乱について相談したのが、ヒロムの逆鱗に触れたとか(笑)。
余談だが、加藤紘一政権というのは、歴史が少し歯車をずらしていれば、十二分以上にあり得たと思う。小渕恵三が再選を目指したとき、対立候補として出ないでずっと支える側に回っていれば、小渕氏が急逝しようが任期を全うしようが、間違いなくその後継になったろう。私は加藤氏の資質に大きな疑念を抱いているので、その失敗を幸運だと思っているのだが。

この加藤の乱の失敗の本質は、横丁のご隠居も政治のプロも意見が一致している。
著者は登場人物にこういわせた。

「権力闘争は生きるか、死ぬかだ。加藤は準備不足だった、といっているようだが、不足しているのは準備などではない。覚悟だ。覚悟が足りなかったのだ。」

「残念ながら、加藤は将としての器ではなかったということだ。(略)政治指導者に必要なのは、いかなる状況でも平常心を保てる強靭な精神力と、犠牲をものともしない非情さだ。」

この言葉を頭において、今回の小泉純一郎の行動を読んでみると、持って生まれた性格もあるだろうが、多分かつての盟友の失敗から「絶対にぶれない」という覚悟を決めたのだろうな、という気がする(読んでみると、小泉と田勢の間には特別なコネクションがあるようだ)。
後半は、2001年の総裁選で勝利して以来の「小泉劇場」スタート時が舞台となることもあり、この男の言行録が多く記載されている。これらを読んでみると、9/11のい総選挙がもっと身近に、もっと重要に感じられることは間違いない。




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