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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

遅れてすいません、PRIDE武士道感想

レフェリーのストップの遅さについて

高阪剛VSヒョードルは、「白いキャンバスが鮮血で真っ赤に染まった!」と陳腐な表現になってしまいますが、極めて凄惨なる試合になってしまいました。
かつてカクタス・ジャックがリングアクシデントで耳が削げ落ちても戦い続け「スポーツなら、ここで終わりだ。でもプロレスは”インチキなショー”だからそのまま続くんだ」と、自嘲および誇りを込めて宣言したことがあったが、今回のPRIDE武士道もそれに負けず劣らずの「ハードコア格闘技」だ。地上波放送できんのかよ。


このジャッジ自体はどうであろうか。
まず、高阪はさすがというべきか、ヒョードルの強烈パウンドを連打されても、動き自体が止まるような状況には最後までならなかった(もちろん皇帝陛下の指の負傷もあるだろうし、そもそも不思議なことにヒョードルは未だに顔面パウンドで相手を失神状態にさせたことはないんだよね、なぜか。)。そのタフネスと折れない根性にはだれしもが脱帽するだろう。また出血も、幸か不幸か措置を受けると結構止まりやすいんだよな。どーいう体質だ。

ただし私が見る限り3つ疑問がある。


中山健児ドクターはかつて格通の「教えて中山先生!」で「カットは出血が止まる止まらないじゃなく、傷の深さも重要だ。菌が入って髄膜炎になったらたいへんだし、まぶたの上が切れるとそれが広がって、まぶたが落ちてしまう場合だってある(うわ、こわっ!)」と言っていた。
はたして今回はどうだったのであろうか。これは中山氏の詳しいコメントを、格闘技雑誌やメディアが聞きに行くべきだ。


・カットを一時的に措置して止めて、試合再開しても、再出血した時点でストップする、というのが自然な形じゃない?ドクターチェック後再開するのは「この傷がその後出血しないかもしれない」という期待ゆえで、その期待が失われたんだから。


・あと、セコンドの責任もある。あそこまで一方的なら、動きが止まるとか止まらないは関係なく、タオル投入もありえただろう。TKが金原弘光のセコンドについたときのように。
TKのセコンドにはTKはつけないからな。


一部には「高阪剛はこの後『HERO'S』に行く恐れがあるから、商品価値を落とすために、徹底的に潰しにかかったんだろう」と言う声もあったが、さすがにどうでありましょうか。そこまで悪質ではないと思うがレフェリーが島田裕二だったりするし。
ただ、主たる原因としては「それまでが盛り上がりに欠けていたので、序盤のアクシンデント的な出血カットで止めては興行が壊れると思った」というのはあるのだろうね。
中山ドクターも著書やインタビューで「そういうことも考えつつ判断する」といっている。


復活リングス勢は残念。

その高阪も含めて「HERO'Sシフト」とも噂されたギルバート・アイブルヒカルド・モラエスは、何ともあかん結果でしたな。
特にモラエスは、膝などを壊して半引退状態だったということはやっぱりあって、なんか初上陸の時のギラギラした殺しの本能は全くなし。
穏やかで落ち着いた、ある意味いい顔になっていましたね。ジャムおじさんみたいな。

唐突にネタをふりましたが、そう、モラエスの今の仕事はパン屋さん。おなかをすかせた子どもたちにおいしいパンをふっくら焼いてあげることを、今後の人生の目標にしているのです。
集団で観戦中にも「モラエスの所属は、今どこなんだろう?」との問いに俺たちが「パン屋!」と声をそろえてしまいました。「メガトン・ブラジル」説もありましたが(笑)


そういうモチベーションはともかく、実際の動きという点でも全くスピードがなく、体の動きが散漫も散漫、チェ・サンマン。あえなく皇帝の弟のこぶしに屈しました。
もちろん、二流三流と闘えばまだMMAでも勝てるんだろうが、あまりそういうのは見たくないねぇ。


美濃輪育久、「強さ」を超えて

美濃輪育久の試合は、まるで往年のヒット曲のカバーが逆に新鮮に見えるように、最近のファンにはインパクトがステファン・レコ戦に続き強かったかもしれないね。
強打のストライカーに、タックルからいきなり足関節を極めに掛かり、アキレスからアンクル・ホールドにつなげてねじ切るようにタップを奪うというのは、今ではK-1選手のデビュー戦や「宇野ルール」以外ではあまり見られない攻防だ。
田村潔司vsパトリック・スミスを思い出す人はもう少数派になったかな。


私も予想を外したけど、アイブルという選手は決して関節技への対処を知らない選手ではない。むしろグラップラーの寝技から逃げるという点では、対TKや対田村などで、戦績的にも内容的にもかなりのものであると証明済みだ。そこに勝ったのは、やはり評価していいのではないか。
(仮説としては、日本を離れていた時期はやっぱり堕落の一途だったということもありうるし、よくある「ストライカーが寝技に自信を深め、(身体能力を生かし)逃げることに専念すればいいのに渡り合おうとした」というパターンかもしれない)


それはそれとして、美濃輪の人気ぶりには驚いた。
レコに勝ったとはいえ、PRIDEの中ではしょっぱい試合も秒殺負けも体験した選手だ。パンクラスでの試合を観衆が見ているとは思えないし(笑)。

結局、試合や技術や戦績をこえた、美濃輪の「バカ」っぷりがファンに浸透したのだろう。いわゆる天然・不思議キャラの格闘家なわけだ。最近の、「地獄の多摩川練習」なんてのは本気なのか、自分でも気づいてキャラをなぞり始めているのか分からんが効果的ではある。
(ある人は「付き合ってあげた滑川康仁はエライなあ」と言ってた)

強い弱いをもともと超えたキャラクター(決して弱くはないけど)ではあるが、こういう選手が出てくれば、「最強」を軸にするPRIDEに厚みが加わる。


田村潔司−−前門の桜庭、後門の美濃輪?

今回、中村大介のセコンドについていた。桜庭が「こんな試合のセコンドもつまらないでしょうから、僕と試合しましょう」とダメ押しすればよかったのに。
ところで、美濃輪育久がもう一段上のスターになれば、今は隠れたアングルになっている「田村へのリベンジマッチの機会を熱望している」という話も前面に打ち出されてくるかもしれない。

田村潔司への「保身」批判も最近多いが、少なくとも2002年のDEEP有明において美濃輪育久の挑戦を受けたのは相応のリスクもあり、勇気のいる決断だったと思う。むろんリターンも大きく「日本選手の中ではやはり別格」というイメージはこの試合で固まったと思うし佐伯代表が「当日は試合に涙を流し、次の日は『もうこれで本当にお金がなくなった』と涙を流した」と回想するほどのギャラも得たのだが(笑)。


純粋な技術論として、今もういちど美濃輪育久vs田村潔司が組まれたらどうなるであろうか。体力(年齢)的な面が今ではもう少し出てくるのではないかな。もし田村が、美濃輪のほうがまだましと考えたら、あんがいこっちが先に実現したりしてね。