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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

椎名高志について

昨日の日記を読んでいただいた人たちのリンク先数で圧倒的にトップだったのは、「絶対可憐チルドレン」のキーワード経由の人たちでした。いや、まだまだ人気あるんですねえ。


http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20040915#p3
の続きとして、
椎名高志藤子・F・不二雄について、昔書いた文章を再録します。細部は結構手直ししましたが。

「GS美神 極楽大作戦!!」を分類するなら、ごく最大公約数的には『SFギャグ』ということになるのだろう。初期一話完結で見せたコメディは、所々にまぶされた他ジャンルのパロディとは別に、実に話の起承転結--というかページ内できっちりドラマを「スタート」させ「完結」させる能力が抜きん出ていた。

 現在少年誌で(青年誌も)一話完結ギャグマンガというのは探せばあるが、たいていはストーリーの破調そのものを以ってギャグとするもので、「極楽大作戦」と同じ舞台で競争し得るものはほぼない(いい悪いは別として、とにかく違うものなのだ)。「究極超人あ〜る」「すごいよ!マサルさん」「神聖モテモテ王国」…ちょっと選択に恣意があるが(笑)、主人公の行動を含め「いったいなんなんだ、ワケがわからーん!」という混乱に読者が陥る、そのある種の爽快感?をオチとして使うというテをほとんど椎名氏は取っていない。


  むしろ、ここにおいて私は藤子不二雄氏の作品のほうに共通点を感じる。椎名氏が藤子・F・不二雄氏から受けた影響はここに書くまでもなく彼自身の多くの証言があるし、「椎名百貨店」にも藤子氏のSF短編のノリがあることは読んだ者には説明不要でわかるであろう。
ただ、ここで私が特に注目したいのは「1話を完結させる形で起承転結をきっちり詰め込み、できれば理に落ちる形でオチを付ける」という点である。

これに成功したひとつの原因は、椎名氏がもともと同連載をはじめるときに狙ったという『相手は幽霊、実在してなくて気持ちだけが残ってるものなんだから、それに対してこっちはお金が欲しいとか女が欲しいとか、そういう現世の欲望がガーッと強い性格」・・・を押し出す、というテクニックが見事に成功したということだろう。

http://www.so-net.ne.jp/SF-Online/no15_19980525/interview_Mizutama.html




岡田斗司夫氏が過日「BSマンガ夜話 ドラえもん」で喝破した話を引用しよう。
 「ドラえもんの”後継者”をどこも探してGU-GUガンモやタルるーとくんを造ったけど、後継者にはなれなかった。それはアレ、ドラえもんがドラマの中心じゃないからですよ。むしろ核は『欲望に弱いヤツ』(のび太)で、その欲望が中心になるんです。それと同じなのは実は『こち亀』の両津なんですよ」

 美神の「お金」、横島の「女性」、おまけにおキヌちゃんが常識の立場からあきれたり嘆いたりするという構図は、上の岡田氏の説通り、話を創りそれをきっちり転がすのにピッタリだった。と同時に、もうひとつ大きな効用があった。

 それは、「どんなシリアスな話でも、間に二人の性格から来るギャグを自由に入れられる」ということだ。これによって、いわゆるジャンプトーナメント症候群とでもいうべきキャライメージや作品自体の雰囲気の変化を(完全には避けなかったし、避けられなかったとはいえ)抑える役割を果たした。
そしてそれが、引き出しの多さでは圧倒的に抜きん出ている椎名氏が8年もの長きに渡って物語を紡いでこさせた秘訣だ。


 例えば狼王フェンリルでも、パイパーでも香港編でも、「これからギャグを抜いて、シリアス100%のヒーロー物を描いてくれ」と言われれば簡単にそうすることが出来、またあの雑誌やその雑誌で人気のある○○○や△△△より、ずっと手に汗握るかっこいいストーリーになる(大抵、美神の強欲と卑怯、横島の口説きとビビリを取ればいい(笑))。


私はときどき「これ、マジなSFで使える本格アイデアなのにな〜」と、ギャグに笑いながら惜しんだものだ。
とにかく、椎名氏は万能選手タイプだなあ、というのが感想だ。野球で言えばどこの守備でも着けるし、盗塁もホームランも狙える。おまけにマウンドに行けと言われればいつでも豪速球も変化球も、ついでにチェンジアップも(笑)放りますよという感じだ。

 「極楽大作戦」の終了を惜しむ気持ちは変わらないが、この万能の才を数多くの作品で見たい、というのも偽らざる気持ちである。

また、この椎名氏の才能は漫画、小説、映画の多くの作品に接しそのエッセンスを吸収して生まれたものだ。

個人的に一番作品の中で好きな笑いの場面はブラドー編のギャグで「余は、この世界全ての覇者となるのだっ!!」とブラドーが傲岸不遜に宣言する。しかし、その「世界地図」は実際の世界と似ても似付かぬ 天動説的な大陸の絵。「こやつ、完全に中世で頭がたち腐っとる」とあ然とする部下・・・。」というネタ。
彼がかなり影響を受けているという「モンティ・パイソン」を髣髴とさせる。


そして、セリフから小道具までにちりばめられた元ネタへのオマージュ。
 (前述リンク先ののインタビューにあるけど「まあ、一人でも、ニヤッと笑ってもらえればもうけものっていう。心のどこかで仲間を求めてるのかもしれませんけど」)




 そしてまた設定全体のハンドリングも、なかなか巧みな部類に入るのじゃないだろうか。
 この漫画は、もとよりファンタジー系の一部にあるように最初に大きな世界設定をこしらえたものではなく、連載の長期化に伴って徐々に設定を詰めていったと思われるが、そこで出てくる新しい設定が、説明に終始することなくそのまま世界観を上手く広げることに役だっているのだ。(例えば「精霊石」という小さい設定にしても南アフリカで買いつけるとか産出国とか、「15億掛けた石の結界をー!!」など細かくさりげない設定を付加するところも大したもの)

GS資格試験、神父の下にいる吸血鬼の弟子、マジックアイテムを売る店、呪術のライバル、式神を使う娘、オカルトGメン、数百年生きた不死の怪人とアンドロイド、時間移動……回出てきた小道具や設定、登場人物を組み合わせたり、謎を補足する形でさらに話を大きくしたりする所が鮮やかである。
ハーピーの為に出てきた「時間移動」と半分ギャグキャラのカオスを合わせて「ある日どこかで!」にしたり、「GSの資格ってどんなものなの?」といったちょっとした疑問を「GS資格試験」という話にしたりするワザの巧みさはちょっとやそっとじゃ真似できないだろう。さらに呪術家・エミのストーリーがあんな悲しく美しい「外伝」になるのだ。(今気付いたが「サブキャラの過去話」は、その作家の実力を測るいい基準だ)

もちろん、連載に沿って、後半はやたらいろんなサイトで矛盾や無理を指摘されていたが(すまん、俺はほとんど気づかなかった)あれだけの長丁場で、しかも一話完結から展開していった長編としては上出来だろう。

ただし、今この文章を見てみるとちょっと違うのは「Mr.ジパング」にしろ「一番湯のカナタ」にしろ、そして今回の「絶対可憐チルドレン」にしても、「常識人の副主人公が普通は常識はずれの主人公にひきずられ困惑するが、時々は常識の立場から彼らを叱り、正道に戻す」という形で話をつくっていて、横島=のび太という枠からははみ出そうだ。
むしろ「サルまん」でいう「メガネくん」の進化発展系というべきで、上の見方は要修正だな。



上に「椎名は万能選手」と書いたが、その後の歩みはそうでもなかった。なぜか凡打続き。
90年代サンデーを若手として活性化させた「帯をギュッとね!」の作者や「うしおととら」の作者のほうが、「次回作のネタあるの?」という感じだったのだが、むしろこっちの方が第二作を成功させてるんだから分からないものだ。

「一番湯」、「ジパング」もなかなか「は面白かったと個人的には思うが
うまくいかなかったのは「男気不良系」は主人公(ジパングの信長)やツッコミ用副主人公(カナタの銭湯の息子)にしても、椎名ワールドと食い合わせが悪いからじゃないかと(笑)。
そういう点で今回は、その欠点も修正されたし可能性はあると思う。