前に書いた通りですが「少年サンデーGX 」に椎名高志 が読み切り「GSホームズ」を発表しています。ファンには既知の通りですが自身の大ヒット作「GS美神 極楽大作戦」の世界とホームズの世界をうまく合わせたもので、今回が二作目。
「不老不死の魔術を極めた錬金術 師と、その部下のロボット」「何百年も生きる吸血鬼」など、時間を越えたキャラク ターがいるのでこういう話をつくりやすいのですな。
以後、ネタバレを気にせず書くから各自注意してほしいが、
要はライへンバッハの滝でモリアーティと共に転落、その後3年間の履歴が不明だと言う史実(あえて「史実」と言おう)と、吸血鬼伝説をからませたものだ。吸血鬼を自分たちの「家畜」とし、その不死身のパワーを利用しようとするモリアーティ一派に、吸血鬼の生き残り(GS美神 の登場人物、ピートも登場する)とコンビを組んだホームズたちが立ち向かうというストーリー。
やはり椎名氏の才能、知識は豊かで、例えば危険な生物である吸血鬼を大胆に捕獲した悪党に「私はインドで虎狩りをやっていたものでね」(つまり「虎狩りモラン」大佐!)と言わせるとか、最後に魔力で怪我の治療を受けたワトソン医師が「戦争の古傷があったんだが、肩だったか足だったか、分からなくなった」と感心する台詞を言わせている。
下のほうは「正典ホームズ」で作者コナン。・ドイルがうっかりテキトーに設定したため、暇な・・いや熱心なシャーロキアン がいまだに論争を継続している、「ワトソンの古傷の謎」というやつである。
こんな本筋にあまり関係のないお遊びをあえて入れ、にやりとさせるのは椎名氏の真骨頂でありますね。前の第一作の時「自分はシャーロキアン ではない」と書いていたが、そりゃ通用しない(笑)。
そっから先はうまいもので、永遠を生きる吸血鬼の孤独と、いったんこれまた吸血鬼と化したホームズの心情的な交流と別離、いったん死んだと言われたホームズがワトソンと再開、今度は吸血鬼になっていると判ったときのドタバタ、敵の計画と能力、そして対決まできれいにまとまって、ハリウッド的なメジャー感ある娯楽作となっている。
マニア向けのようでいて、かなり一般に訴求するようなお話作りだ。
注目したいのは、最後の敵との対決アクション場面で、敵−味方−敵−味方の、シーソーの傾け方が非常に理にかなって分かりやすい。ある能力を発揮して有利に、しかしあっちにはこういう武器があってピンチに、しかし味方の彼がこういう活躍をしてくれて逆転・・・というのがよく練られている。特にこの種のジャンルでは、能力的に一枚落ちるコメディ・リリーフや脇役にどう活躍場を与えるかが技術なのだが、ワトソンがワトソンならではの活躍ぶりを見せてくれている。
このへんも、逆転また逆転の、最近の娯楽映画を見ている氏の基礎体力、基礎技術だろう。受け身を完璧に身に付けたNOAH の選手を見ているような安心感がある。
ただし、このソツのなさ、まとまり過ぎた完成度が逆に物足りない、という人がいるだろうな、という感覚もある。ジャンプ漫画的な、過剰な盛り上がりというものをコントロール し切ってしまう部分がたしかにあるからね。あとは多分、大ゴマをあまり使わないカメラワークの部分が違うのかも。
それでもシャーロキアン の端くれを名乗る自分としては、そっち込みで百点満点中三百点ぐらいあげたいのだが。
ところで新連載予定だった「絶対可憐チルドレン 」ってどうなったんでしょうね。なんだか読み切りで、すでにSF漫画を対象に選ぶ「星雲賞 漫画部門」にエントリーされたそうだが、むしろメディア部門が激戦のようで。
http://www.hamacon2.com/12.html
http://anime.blogzine.jp/animeanime/2005/04/36_8adb.html
あと、しつこく自分流に読んだ「最後の事件」と「大空白期」に関するパスティッシュ 的考察を紹介しておく
シャーロク・ホームズ
「最後の事件」の真相に関する一考察
http://www20.tok2.com/home/gryphon/JAPANESE/BOOK-SELECTION/sherlock.htm
この記事を書いた2005年には無かった「ネット試し読み」も普通になりました。
あー、試し読みから画像は前半部を引っ張れるじゃん!!こんな感じだよ
ホームズの椎名高志 パロ。第二作ではモリアーティとモランも booklive.jp