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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

甲子園の勝敗を全部「ブッカー」が決めたら…と思うと、プロレスの複雑さと奥深さがわかる(かも)


話は変わるけど(本当に変わる)、「プロレス社会学」という本を読みました。
最近「社会学」という言葉への評価があれでアレだけど、そもそもKAMINOGEの対談記事(司会の堀江ガンツ氏を入れれば鼎談)をまとめたもので、雑誌連載時から評価が高かった。
斎藤文彦氏はエッセイ的な文章と論文ともいえる文章、両方を書いているが、質問者・反応者がいることでそのいいとこどりができている、ともいえる。

プロレスを語ることは今の時代を語ることである――。
ベテランプロレス記者であり社会学講師の顔も併せ持つ斎藤文彦と、世相を独自の視点で斬る「時事芸人」であるプチ鹿島
COVID19の感染拡大により社会全体が混乱し新しいやり方を模索する中、この二人の最強タッグがプロレスを切り口にコロナ時代を読み解くヒントを語りつくす一冊。
KAMINOGE』人気連載がついに待望の初書籍化!

【目次】
第1回 プロレスにおける無観客試合
第2回 WWE史から学ぶ“社会集団”としての組織論
第3回 NWA史から見る“権威”とはいかにして作られるのか?
第4回 “権威”とは、歴史の対立構造や価値基準によって作られる
第5回 情報の確認と検証がされないまま“真実らしきもの”が作られていくネット時代
第6回 女性の地位向上や男女平等が叫ばれている現代社会とプロレスの関係性
第7回 “ウォリアーズ世代”はイチから自己プロデュースができた時代の最後のスーパースターたち
第8回 “ガチ”という言葉の意味
第9回 プロレスから学んだマイノリティの意識
第10回 アンダーテイカー完全引退で考える“怪奇派”のルーツ
第11回 馳浩山田邦子の和解から振り返る『ギブUPまで待てない!!』
第12回 独自の発展を遂げた日本の活字プロレスメディア
第13回 プロレスから学ぶ「疑わしい情報」の取り扱い方
第14回 “企業プロレス”全盛のいまこそWCWの歴史を紐解く
第15回 ヘイトクライムとプロレス社会
第16回 プロレスラーと引退
第17回 東京五輪とは何だったのか?

【著者プロフィール】
斎藤文彦(さいとう ふみひこ)
1962年東京都杉並区生まれ。プロレスライター、コラムニスト、大学講師。オーガスバーグ大学教養学部卒業、早稲田大学大学院スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科修了、筑波大学大学院人間総合科学研究科体育科学専攻博士後期課程満期。在米中の1981年より『プロレス』誌の海外特派員をつとめ、『週刊プロレス』創刊時より同誌記者として活動。海外リポート、インタビュー、巻頭特集などを担当した。著書は『プロレス入門』『昭和プロレス正史 上下巻』『忘れじの外国人レスラー伝』ほか多数。

プチ鹿島(ぷち かしま)
1970年長野県生まれ。大阪芸術大学放送学科卒。「時事芸人」として各メディアで活動中。新聞14紙を購読しての読み比べが趣味。2019年に「ニュース時事能力検定」1級に合格。2021年より「朝日新聞デジタル」コメントプラスのコメンテーターを務める。コラム連載は月間17本で「読売中高生新聞」など10代向けも多数。「KAMINOGE」は第2号から連載。著書は『教養としてのプロレス』『プロレスを見れば世の中がわかる』『芸人式新聞の読み方』『芸人「幸福論」格差社会でゴキゲンに生きる!』他。ワタナベエンターテインメント所属。

ところで、その中で、つまりプロレスの「格」や「勝敗」をめぐって、ちょっと興味深いことを書いている。
それはブルーザー・ブロディなどを例に挙げた章(第5回)などだ。

斎藤  たとえば鹿島さんがブッカーで、堀江ガンツとフミ・サイト―のシングルマッチが組まれたとして、ブッカーに「悪いけど今回はガンツがアップ」って言われても、ボクが「後輩のガンツにフォール負けは嫌ですよ」ということは当然出てくるわけです。


ーー同じ負けるにしても、誰にどうやって負けるかが重要という、それぐらいデリケートな話なわけですよね。


斎藤  負け方によって試合の意味合いが全然違ってくるんです。だから「ギブアップとピンフォールのどっちが嫌ですか?」って聞くと、アメリカ人レスラーの感覚で言えば、ギブアップが一番屈辱的…(略)僕はブロディにもその質問をぶつけえてみたら…(略)そうなんです。「じゃあどうしてピンフォール負けもダメなんですか」とみたいなことをボクがちらっと聞いたら、「フォールも許さないけど、ギブアップは論外だから絶対にありえない。だけどフォールを奪われる瞬間があれば、そのときは『クイックで来てよ』と言うね」と。クイックっていうのは、逆さ抑え込みとかスモールパッケージホールドのことで…
(略)
だから、ブロディがジャンボ(鶴田)さんの…バックドロップを喰らって、ワン、ツー、スリーを取られるっていうのは最高級の負け方だったんです。


鹿島   「ジャンボならその負け方でもいい」と思うくらい、ブロディの中で鶴田さんの評価が高かったということですよね。


斎藤  (略)…アントニオ猪木シングルマッチを6回もやったのに、ただの一度もフォール負けをしていません。(略)普通、80年代のアントニオ猪木だったら、どんな大物外国人レスラーにも勝っちゃいますよ。(略)それにもかかわらず、アントニオ猪木が相手でも絶対に自分は負けないということを通し、それを成立させることができたブロディという人は、本当に特異なレスラーだと思います。

非常に興味深い話だ。…だけどこれ、プロレスを見続けてる人なら、うむうむ、ホウホウとうなづきながら読むわけだが、全然知らない人なら根本から、ある部分に疑問抱くよね。

「勝つとか負けるとかって、運とかもあるけど、試合でその人が強ければ勝つし弱ければ負けるでしょ?『俺は負けない』とか言って、それを通すとか通さないってありえなくない?」とね。
忘れがちです(笑)。


この本でもどこまでプロレスのナニを前提としていいか、についてはデリケートだし、
逆にそこを決めつけるような論調をたしなめているのだけど、「勝敗をプロデュースしている」というところまでは前提として語っている。(やっぱり、ここまではオープンにしないと、令和の今では実際に議論が面白くならぬ。)

これは非常に重要な部分だということはこの本を通じて描かれていて、力道山vs木村政彦ロード・ウォリアーズの章でも触れられている。

斎藤  ポール(・エラリング)がウォリアーズのふたりに言ったのは「プロレスというビジネスは、負けてちゃダメなんだ。勝たなきゃダメなんだ」……プロレスを知らない人たちは「いかようにもプロデュースできるんでしょ。シナリオがあるんでしょ」と思ってしまいがちですけど、それは全く違うんです。演出されているものであるとするならば、むしろ勝たなきゃいけないんです。


鹿島  …キャリアが浅く、プロレスの力学のようなものをまだそんなに理解していなかった若いふたりがデビュー後すぐに連戦連勝になったのは、ポール・エラリングの力が大きかったわけですね。

斎藤  …勝ち負けの部分がプロデュースされているものであったとしても「ジャンケンポンで決めていい」という程度の理解なんですよ、木村政彦という人は……(略)勝ち負けがプロデュースされるものであったとしても、力道山からすれば絶対に勝たなきゃいけなかったんです…(略)そこが一生の明暗を分けちゃった気がします。

そういえば、自分もゲイリー・オブライトとダニエル・スバーンを軸に、そういう話を書いていたっけ。

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ここで気になるのは、…実はブロディ本を 読んで思った話なんだけれども、大きな大きなテーマに収斂される。

「プロレスは勝者と敗者があらかじめ決まっている」
「だからといって勝敗はどうでもいいわけではない。レスラーはみんな、結果が決まっているからこそ強烈に勝ち役になりたがる」

という二つの大テーマがあり、その中でどうやって勝ち役に回っていくのかという大戦略が必要らしい、ということだ。

その複雑なゲームに勝ち上がるために頭を振り絞るなら、普通にガチンコの試合で勝っていく方がよっぽど楽なのかもしれない。てか藤田和之は、まさにそのように考えて、新日本プロレスを離脱しPRIDEなどの総合格闘技に身を投じたわけだから。

そんなことを考えさせられるダニエル・スバーンの回想だし、 結局のところ UWF インターの中で、桜庭和志はまさにスバーンのような役どころが回ってきたのである。 そこからまた一段興味深く…(略)

・・・で、ふと思ったのが、甲子園大会がこうやって勝敗をプロデュースしてるという前提で、もし再構成するとだ。
いかにそれが複雑微妙かってのがよくわかるんじゃないか?と。


「ふざけるな!なんで春のベルトも獲ったこの智辯和歌山が、ポッとでの国学栃木なんかに負けなきゃいけないんだ」
「春に勝ったからこそ、今度は若手を引っ張ってあげなきゃ。2点差の接戦でいいからさあ」

「1イニングに11失点なんてスポット、いくらうちが寝る側でもどうも…」
「東北のお客さんに期待感を持たせなきゃいけないだろ?我慢してくれよ」
「じゃあ、そろそろ東北のチャンピオンが全国戦略上必要ってことに…」
「オット!それ以上は言えないな…」


…いや、ぜーんぶ妄想だけどさ、そんな妄想すると、「勝敗をあらかじめプロデュースする」のほうが、「全部そのままふつうに試合する」より、よっぽど神経を使う話だってことがわかるかもだね(笑)。


また、そういう目で見ると、同じくトーナメントだった「第1回スーパーJカップ」の勝ち上がりと敗退の妙がよくわかる。
漫画の中の勝敗も、全部プロデュースするから神経を使うだろう、とも思うのだが、
時々、本当に何も決めずに描き、「あーこっちが勝っちゃった!」と本人が驚く、という漫画家さんもいるそうなのであなどれない。