ひとつ前の記事の流れで、「売国機関」を紹介します
といっても、実質読んだのごく最近で、1巻だけですよ。そこからネット連載している「くらげバンチ」のほうも読んでいこうか、てな段階で
チュファルテク合同共和国――。 戦争が終わった国家を舞台に、内なる暗闘が始まる。 ”愛国者”の敵は、いつだって”愛国者”だ。『幼女戦記』のカルロ・ゼン最新作!! これは、血と鉄で刻む戦後を抱きしめる物語――。
「くらげバンチ」は第1話公開中
kuragebunch.com
プロモーション動画もあった
www.youtube.com
といっても、言いたいことは基本タイトルに盛り込んだ。ちょっとくたびれたのでひとやすみ。タイトルだけで終わるかもしれない(笑)
再開。
つまりこういうこと
パンプキン・シザーズ 1~最新巻 [マーケットプレイス コミックセット]
- 作者:岩永 亮太郎
- メディア: コミック
「戦後」が舞台、という面白さ。「権力闘争と組織」の面白さ
(略)…パンプキン・シザーズの面白さを見てみると、やはり「戦後」という時代設定が効果的であると思う。
A国とB国が戦争中で、その敵国が相手の作品なら、やれ突っ込めー、そら突撃だーという、ある種簡単な話になる。完全に犯罪や犯罪者という悪者と闘うなら、なんだかんだといっても刑事・警察側に圧倒的な安定感と錦の御旗がある。
だが、それが「大戦争直後で、秩序も外交も保たれつつ、多くの不安定要因がある。旧勢力も新勢力もあり、対抗している」ということになると、簡単には方程式のとけない、複雑な不安要因が生まれるになる。
そして実力を備えた暴力組織(流行語)である一方、簡単には動かない巨大な官僚機構でもある「軍」の組織が生む軋轢や権力闘争、そして法や制度の迷路によって生まれる、一種の知的な駆け引き・・・・・・。
自分がパンプキン・シザーズをおもしろいと思う一番の柱は、この2本にある。もっとも、かなり「好み」の範囲であって、もっとスカッと、単純明快なアクションがいい!!という人もいるかとは思う。そういう人でも、上に挙げた「保身なき零距離射撃」や、女性隊長は代々、剣をもって王国に使えた名門の伝統を受け継いだ剣の達人−−という設定でアクションも楽しめる筈だ。(ただし、絵柄は正直あまり精密さはない)
ちなみに、大きな戦争が終わった、終戦後の秩序回復と復興・・・を世界設定の柱にすえた作品としては、同じく架空世界のイチからの構築にこだわる紫堂恭子の「不死鳥のタマゴ」がありました。
境の田舎町に赴任してきた新政府の「保安隊員」クリストファーが、ある日うっかり拾ってしまったのは、「育ったら不死鳥になる」と自己主張するヘンな生き物ちゅん。その日から、クリスの新たな苦難が始まった…。
- 作者:紫堂 恭子
- 発売日: 2005/08/01
- メディア: コミック
※↑は、なんかのんきな紹介文だが、実はここは架空国家で、やはり戦後の社会なのである。
うむ、あつらえたように、パンプキンシザーズの説明がそのまま「売国機関」の説明になっているわ。
どちらも「不利な状態で不本意に結ばれた」和平条約なので、原理主義者や理想主義者にとっては「こんな和平で、いつわりの平和を保とうなんておかしい!〇〇〇の問題をみよ、XXXのことを置き去りにするのか__________」といえる。そして、個別にはその多くは正論である。
だが、和平を進め、維持する側にとっては「そんなこと言って、ほかにどんな選択があるってんだ。まともに現状把握もできないお花畑の連中め」という視点が生まれる。そして基本的に、その人たちはどんな不満があっても「現行の体制」を維持しなければいけない。ときに、武力をつかっても______
そして相互に、やや政治的な意見が異なるだけの同胞を、外国の軍隊などよりも、より憎み、傷つけ合うことになる。
これは現実に、日本で起きた。他の多くの国で起きた。
ちなみに、この対立の中で、この作品では……その「不利」な和平体制を維持する過激な治安維持部隊は、どうも多くが戦争そのものでも最前線で苦闘した軍人たちであり、そしてその体験から自身らを「塹壕貴族」と称し「塹壕貴族に向かって『この和平は無意味だ』などというのか、お前らは?」「そんなに戦場が体験したいなら、ここを戦場にしてやるよ!!」と言い放ち、極めて過激で過剰な鎮圧行動を正当化する。
おもしろいもので、つまりこれは、「ジェシカ論法」の変形であり、彼女…銀英伝のジェシカ・エドワーズやヤン・ウェンリーの、思想的な親族であるんだな。
「お前ら、平和(現在の体制)に異議を唱えるなら、命を危険にさらしてみろ。俺たちはそうしたんだぞ」と。
m-dojo.hatenadiary.com
セリフ回しも含めてやや偽悪にすぎ、装飾過剰なるところがあり、そこにマイナス要素を感じる部分もあるのだけど。(これは後述する原作者の他作品もそう感じた)
だから、パンプキンシザーズにはあって、売国機関にないのは、(少なくとも1巻の段階では)「物語の中心に据えられた、そんな社会でも理想を貫く明るい主人公」なんです(笑)。そしてその有無によって、まったく違うテイストの作品になっている(※少なくとも1巻の範囲では、です)
アマゾンの「売国機関」1巻の宣伝文句には、上に引用したように「戦後を抱きしめる物語」とある。
これは、当然ながら今や古典になっているジョン・ダワーの
からきているのであろう。
原作者カルロ・ゼン、なんか名前に聞き覚えがーーーーーーというより、読んでいてそのセリフ回しに読み覚えが(笑)あったのだけど、モーニングで連載されていた「テロール教授の怪しい授業」なる作品の原作者だった。
泣く子も黙るローレンツ・ゼミには、今年もそうとは知らない学生たちが集まっている。「あなたたちはテロリスト予備軍です。」予想だにしない一言に愕然とする生徒たち。脱落=テロリスト認定。恐ろしすぎる授業が始まる――。そもそもテロリズムとは何か? 日常に潜むテロの根っことは? 今までメディアで語られてきたテロ論は全部ウソ。テロ教授が教える、知るのは怖い、知らないのはもっと怖い「テロとカルト」の真実。
泣く子も黙るローレンツ・ゼミには、今年もそうとは知らない学生たちが集まっている。「あなたたちはテロリストになってもらいます。」予想だにしない一言に愕然とする生徒たち。2020年のオリンピックを舞台に、学生たちはテロを「無事」成功させることができるのか――!?
これも上に書いた、「セリフ回しも含めてやや偽悪にすぎ、装飾過剰なるところがあり、そこにマイナス要素を感じる」という部分は共通しているし、ピカレスクの孔明、俺TUEEE的物語としても完成度にはやや難を感じるが、ちょっと印象に「ひっかかる」個性的な作品ではあった。
ちょっと不思議な作品だが、「国際情勢や政治学をなんとなく通っぽく解説する漫画」は実は青年誌では一定の需要と枠がある定番ジャンルなのだろう。某誌ではぞの枠がずっと、「謎の凄腕スナイパー」によって占められたりするから、あまり目立たないのかも。
モーニングでは「テロール教授」のあと「紛争でしたら八田まで」が始まった。
MASTERキートン 完全版 コミック 全12巻完結セット (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)
- 作者:浦沢 直樹
- 発売日: 2012/06/29
- メディア: コミック
あと、カルロ・ゼン氏は「幼女戦記」の原作者でもあるそうな。これはタイトルがすげーな、と思うだけで、内容も含め把握していないが、映像化もどこかでされたらしく、一番知名度があるのかな?