最近できた近所の立ち飲み屋で、入るなり店長ではない常連の陽気な壮年男性に注文を聞かれ、居合わせた客数名と乾杯、妙齢のご婦人から「いくつに見える?」と問われ「同い年ですか?」でひとウケ、如才なく身の上話なども展開しながら小一時間ほど滞在し笑顔で退店、2度と行かないことを決意
— JET (@JET__Internet) July 16, 2020
言わんとすることはよく分かる一方、常連客がけして悪気がある訳でもないし、こういう雰囲気こそが店の魅力だ、立ち飲みの醍醐味だ…という人もいるであろう。
店という場をたまたま共にした、見知らぬ客同士の会話やコミュニケーションに、ある種の居心地の良さも悪さもある…このことは「孤独のグルメ」にも「野武士のグルメ」にも描かれた。
「レモンハート」は…これはいい面ばかりの描写だな。
そういう点で、当然ながら??共感を呼びそうなはてブでは大いに共感を呼んだっぽいが、
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自分のブクマはえらい場違いなのに(笑)、けっこうはてなスターをもらったのでした。
「マジで地獄」近所の立ち飲み屋に初めて入ったら常連客の反応で2度と行かないことを決意した話 - Togetterb.hatena.ne.jpシャーロック・ホームズの兄マイクロフトが「ディオゲネス・クラブ」を設立した経緯→<a href="https://221b.jp/h/gree.html" target="_blank" rel="noopener nofollow">https://221b.jp/h/gree.html</a>
2020/07/17 14:17
気付いたのだけど、「お店で誰かと会話するのがウザい」から「マイクロフト・ホームズのディオゲネス・クラブ」を連想するってんは俺的に当たり前すぎて、そして国民の99%が知っている常識、という感覚がずっとあるのだが、冷静になって考えてみればそんなことがあるはずない。ここで初めてその名前を知った人もいるだろう。印象的な挿話なので、例の有名なホームズ正典の翻訳サイト「コンプリート・シャーロック・ホームズ」より、兄のマイクロフトが初登場した「ギリシャ語通訳」の該当部を抜粋・紹介する。
(前略)…それはある夏の日、午後のお茶が済んだ後だった。その時の会話は、取り留めもなく思いつくままあちこちに飛び、ゴルフクラブから黄道傾斜角の変動、遂には才能の遺伝や隔世遺伝の話にまで到った。この時の話のポイントは、一個人の非凡な才能というのは、どの程度が家系から受け継いだもので、どの程度が個人が訓練して獲得したものかという事だった。
「君の場合は」私は言った。「君から聞いた話を総合すると、その観察の才能と独特の推理能力は、明らかに系統的な訓練の成果だな」
「ある程度はそうかな」ホームズは慎重に答えた。「僕の祖先は田舎の郷士だった。彼らはその身分相応のごく普通の生活を送ったようだ。だがやはり、僕の血管を流れる才能は、祖母から譲り受けたものかもしれないな。祖母は、フランスの芸術家ベルネの妹だ。芸術家の血というのは奇妙な形態をとりがちだからね」
「しかしなぜ遺伝性だと分かる?」
「兄弟のマイクロフトが僕以上の能力を持っているからだ」
これは全くの初耳だった。
(略)
「マイクロフトというのは君の弟なのか?」「七歳上の兄だ」
「なぜ世に知られていないのだ?」
「自分の仲間内ではよく知られているよ」
「いったい、どこでだ?」
「まあ、例えばディオゲネスクラブとか」
そんな団体は聞いたことがなかった。そして私の表情がそれを物語っていたに違いない。ホームズは時計を引っ張り出した。
「ディオゲネスクラブはロンドンで最も変わったクラブだ。そしてマイクロフトは最も変わった男の一人だ。彼はいつも四時四十五分から七時四十分までそこにいる。今、六時だ。君がこの気持ちよい夕べをちょっと散歩する気があるのなら、僕は喜んで君に二大珍品を紹介するよ」
(略)
「君はマイクロフトが自分の能力をなぜ捜査に使わないのか、不思議に思っているだろう」ホームズは言った。「彼にはその能力が無いのだ」
「しかし、君の話では・・・・」
「僕は、観察力と推理力が上だと言ったんだ。探偵の技術が安楽椅子の推理で終始するなら、兄は世界最高の犯罪捜査官だろう。しかし兄には野心も活力もない。兄は自分の結論を確かめるための外出さえしない。自分が正しいと証明する手間をかけるくらいなら、間違っていると思われてもいいんだ。僕は何度も兄のところへ問題を持って行き、後になって正しいと証明された解釈を聞いたものだ。それでも兄は、裁判官が陪審員に提出するために必要とされる実務的な作業を全くやり遂げる事が出来ない」
「では、探偵を仕事にしていないのか?」
「とんでもない。僕が生活の糧にしている事は、兄にとってはただの好事家の趣味に過ぎない。兄は数字には物凄い才能があるので、いくつかの政府機関で会計監査をやっている。ペル・メル街に住み、角を曲がったホワイトホール街まで毎朝歩いて行き、毎晩戻ってくる。一年中他の運動は全くしないし、他の場所には行かない。家の真向かいにあるディオゲネスクラブだけが例外だ」
「そんなクラブは聞いたことがないが」
「まあ、そうだろうな。ロンドンには、内気だとか人間不信などの理由で人と付き合う気のない男が大勢いる。だからと言って、彼らも座り心地の良い椅子や定期刊行物の最新号を避けている訳ではない。ディオゲネスクラブが始まったのは、こうした人たちの利便のためだ。今ではこの街で最も非社交的な人間が大勢加入している。他のメンバーの事をほんの少しでも話題にすることは禁止されている。訪問客の部屋を除き、どんな状況下であっても、一切話をする事は許されない。委員会に三度違反が報告されれば、違反者は除名される。兄は創始者の一人だが、僕も非常に落ち着く雰囲気の場所だと思っている」
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シャーロック・ホームズの回想 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)
- 作者:アーサー・コナン・ドイル
- 発売日: 2006/04/12
- メディア: 文庫
探偵の一典型である「安楽椅子探偵」とは、よくホームズの同時代のライバルである「隅の老人」が良く知られるが、実は隅の老人はけっこう活発に捜査に出歩いていて、安楽椅子とは言えない、ともよく言われる(笑)。
いや、そういう細かい先駆者の先陣争いはさておき「現場で細かく捜査に駆けずり回って証拠を探し出す名探偵とは別に、話を聞いてその推理力だけで謎を解く『安楽椅子探偵』がいる」という”概念”を示したのは、まさにこの兄マイクロフトを描写したホームズの評を初とするのではないか???と思ったりもするのであります。
それはそれとして、なんでまたコナン・ドイルは兄にこんなキャラ付けをして、こんな奇妙なクラブを舞台装置に設定したのか。
ドイルは、根っからのスポーツ好きでさまざまに体を動かして汗を流す、相当にリア充ウェーイなひとだったはずで、あるが……一方で、そもそも当時のイギリスの中上流階級ともなると社交は「義務」であり、欲望と打算と陰謀とマウントの取り合いが渦巻く緊張感たっぷりの場所でもあったのもまた事実(「エマ」を見よ。)ドイルのような社交的スポーツマンでも、ときにはそれが煩わしく、時には「こんなクラブがあったらなあ」、という夢想をしていたのだろうか。
ちなみに、上の紹介文では「いくつかの政府機関で会計監査をやっている」マイクロフトだが、どうしてどうしてその正体は別の作品で明かされる‥‥。
(略)……ホームズは兄の電報を私に手渡した。
カドーガン・ウェストの件でお前に会わねばならない。すぐに行く。
マイクロフト
「カドーガン・ウェスト?その名前には聞き覚えがある」「僕は何も聞いた記憶がないな。しかしマイクロフトがこんなに一貫性のないやり方を急にし始めるとは!惑星が軌道を外れかねない。ところで、君はマイクロフトの仕事が何か知っているか?」
私にはギリシャ語通訳の冒険の際に説明された記憶がぼんやりとあった。
「君は、お兄さんが英国政府下でちょっとした官職を得ていると話していたな」
ホームズはクスクスと笑った。
「僕はあの頃、君の事はよく知らなかった。重要な国事について話すときは慎重でなければならないからね。兄が英国政府の下で働いていると考えるのは正解だ。もし兄が時には英国政府そのものだと考えるなら、それもある意味で正解だ」
「まさか!」
「驚くだろうと思ったよ。マイクロフトは年450ポンドの給料で下級職にとどまり、どんな野心もなく、勲章も称号も受けないだろう。しかしこの国で最も欠くことのできない男なのだ」
「しかしどうやって?」
「兄の立場は独特だ。彼は自分のためにそれを作った。こんなものはそれ以前には決してなかったし、今後もないだろう。兄はきちんとして非常に整頓された頭脳を持っており、地上の誰よりも、事実を蓄積する容量が凄まじい。僕も兄と同じ優秀な能力を持っているが、それを犯罪の捜査に向けた。兄はこの特殊な仕事に使っている。全ての部署の出した結論は彼のところに回され、彼が中央交換所、手形交換所だ。そこで均衡が作り出される。兄以外の人間は全員専門家だ。しかし彼の専門は全能だということだ。ある大臣が一つの点に関して情報を必要としていると想定してみよう。その情報は、海軍、インド、カナダ、金銀複本位制問題に関係がある。兄はさまざまなの部署からそれに関してそれぞれの助言を受け取ることが出来る。しかしマイクロフトだけが、それらすべてを明確に理解することができ、直ちにそれぞれの要素が互いにどう影響し合うかを指摘できる。政府は兄を、便利で手っ取り早い手段として使い始めた。今ではなくてはならないものになっている。兄の偉大な頭脳の中では、全てが整頓されていて瞬間的に取り出すことが出来る。何度となく、兄の意見で国策が左右されてきた。兄はこれに没頭している。(後略)」
シャーロック・ホームズ最後の挨拶 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)
- 作者:アーサー・コナン・ドイル
- 発売日: 2007/04/12
- メディア: 文庫
マイクロフトに関しては、ある種の推定――それも相当確かなものや、今後検証を要する大胆な仮説までさまざまにあり、このブログでも時々紹介したことがあったが、またそれも機会があれば。